第43話  楽しい勝利宣言

「大賢者!!!」


 声が聞こえた――。

 そうだ、これは第八皇子の声だ。

 先ほどまで普通に会話をしていたはずなのに、自分は黒い霧に包まれた。

 そして意識が遠のいていく。


『だから言ったでしょう?貴方は単なる人形だ。ただただ、操られるために用意された人形』


 真っ黒になった景色の中、再び目の前にもう一人の自分が現れる。


――人形? 自分が? 


 もう一人の自分に問うと、自分と同じ姿のそれはにこりと笑う。


『忘れたのですか、自らの兄弟も殺されて、その敵にあなたは付き従っている。これはあまりにも滑稽なのでは?』


――兄弟を殺された?


 大賢者が問うと、もう一人の大賢者が隣を指さした。

 その指の方向に目を向けると――そこには慕っていた兄弟の死体が転がっていた。見るからに、苦しんで死んだのがわかる苦悶の表情で皆倒れている。その死体の中で幼少期のエルフの大賢者は父親に押し付けられて、何かを口に入れられていた。


「やだ、やめて父さん!! 兄さんたちみたいに死んでしまうだけだよ!!」


 幼少期の自分が泣きながら訴えるが、


「あとはお前だけなんだ。お前が神の魂の受け入れに成功してくれなければ、我が家は神から見放されてしまう。だからお前が頑張るしかないんだ」


「何を言っているの父さん!!兄さんたちはみんな死んじゃった!こんな事して正しいはずないじゃないか!!」


「これは毒なんかじゃない。神の魂のかけらだ。神の魂のかけらを飲み込み、その魂の神力に耐えられる者こそが、神の器となれる。我が家から神の器が生まれるんだ」


 そう言ってうっとりする父の表情に大賢者はぞっとする。


「神がこの世に再臨するときの器? 僕という存在はどうなるの?」


「何を馬鹿な事を――神が再臨なさればお前なんていらなくなるに決まっているじゃないか」


 父が、そう言いながら、大賢者の口に神の魂のかけらを押し込んだ。


 幼い自分が絶叫を上げる。


――これは……。


『思い出しましたか?』


 その光景に見入っていたエルフの大賢者にもう一人の大賢者が笑いかける。


――貴方は何者です?


 拳を握りしめて、エルフの大賢者が問う。


『何者?それは私のセリフですよ。貴方は何故私のふりをしているのですか? 無理やり埋め込まれた神の魂のかけらの貴方が。

 何故エルフの大賢者たる私のふりをしているのでしょう?』


 その言葉で――意識がはじけた。


★★★



「ななななな、なにがおこってるんですか!?」


 一気に黒い何かに包まれた大賢者をみて、キルディスがカルナを抱きかかえながら逃げる体制に入る。


「ナイス判断だ!! 全力で逃げるぞ!!! キルディス、カルナを守れ!!」


 そう言って、俺はカルナを抱きかかえてるキルディスをも抱きかかえて、全力でダッシュする。


「め、め、迷宮に逃げた方がはやいのでは!?」


 俺に抱きかかえられたキルディスが言い、カルナもうんうん頷く。


「なぜ、あれがエルフの大賢者の身体をのっとったかわかるか。エルフの大賢者は迷宮への権限がある。そして魔王は迷宮の魂を吸いこんでいる。迷宮の一部の力を所持している。この二つを吸収したら何が出来ると思う?」


「まさか……」


 俺の言葉にカルナは顔を青くする。


「そう神の狙いは深淵の迷宮さ。あいつはそれを乗っ取って、【創造主の宝珠】を使って創造神の力を手に入れようとしている!そして今のあいつにはエルフの大賢者として過去迷宮の主になったことで、深淵の迷宮に強制的にアクセスすることができる、いま迷宮に戻るのは自殺行為だ!」


 俺の言葉に、


「よくわかりましたね」


 声が聞こえ、無数の魔法の矢が俺たちに降り注ぐ。

 確かにこれは前の俺では手も足もでなかった。


 が、もうこっちもレベルがカンストになり、ラスボススキルの熟練度もマックスにしている。前の対エルフの大賢者の時とは状況が全然違う。


 俺はラスボスのスキルで魔法全てを吸収し、それでいてその吸収したそれを全部、そのままおかえししてやる。


 エルフの大賢者に入ったそれは、俺がやりかえした魔法を全部はじき飛ばした。


「ふふっ、さすが深淵の迷宮の主といったところか」


 エルフの大賢者の身体にはいったそれが俺達を見下ろして嬉しそうに笑った。

 エルフの大賢者を依り代としてこの世界に降臨した、光の神ネロスが。


「まったく、あんたも人が悪いよな。俺たちが魔王に迷宮の力を注ぐのを面白がって見ていたんだろう?」


 俺が言うと、ネロスが笑う。


「そうだ、魔王を倒すと息巻いて、私に有利になるように動いていた貴方達は滑稽でだった。そして感謝する。お前達のおかげで、私は本当の意味でのこの世界の神になれる」


 そう――いままではネロスは創造主のつくった世界を維持し少しばかり改造するしかできない神だった。だから魔王なんて七面倒な存在をつくって、壊しては、また文明がなんとか発達できるまでの人類を残すを繰り返していた。

 神ネロスが望んだのは一から生命をつくれる神。

 さすがに概念からはつくれないが、創造主の宝珠があればかなりの権限を有する事ができる、いままでの神ネロスの権限では無理だった生命すら創り放題になるのだ。 今までと違って、残した人類がまた文明を発達させるのを待っているのではなく、いまある文明をリセットして、一から新しい人間と文明が作れる。

 まるでゲームのように。


「この世界はあまりにもたいくつすぎた」


 ネロスが聞いてもいないのに、なぜか語りだす。


「いつも同じような争いを繰り広げては一時期の繁栄を気づきまた、勝手に戦争をおこして滅んでいく。私はそれを見ているだけにすぎなかった」


 そう言ってネロスの後ろに滅んでいく国の映像が映し出される。


 ……わざわざ映像だすとか、こいつも形から入るタイプか。と俺は内心思いながら、とりあえず語らせておくことにした。


「だから私は天使だった魔王に言った。この世界はあまりにも醜い、滅ぼしたいと。

 そうしたらあいつはどうしたと思う?

 管理し、争わないようにするから滅ぼさないでくれと懇願してきたんだ」


 けたけた笑いだすネロス。いや、何なんだこいつ。なんでそんな聞いてもいないことまで俺に話はじめてんだ。しゃべりたがりのかまってちゃんか?と、思うがいつものスルースキルを発揮する。


「そして勝手に人間の管理をしだし、勝手に病んでいって魔王化して滑稽だろう?。ああ、もちろんあいつのやることを邪魔はしてやったけれどね」


 ネロスが笑いながら腹をおさえる。その姿に珍しくキルディスが青筋を浮かべて何か反論しようとするが、俺が手で制した。


「本当にありがたかったよ、あいつが魔王になってくれたおかげで、その文明に飽きたら、破壊することができた。やはり人間は文明を発展させていく時の方が見ていて面白い。成熟すると似たようなことしかしなくなって、退屈する」


「つまり、奮闘していた天使の部下の邪魔をして、病むように仕向けて魔王化させたのは、偉大なる神ネロス様だった。 そして勇者とエルフの大賢者をつくりだして、魔王が人類を完璧に滅ぼさないように管理したってところか」


 俺が問うと、ネロスはとても満足そうに笑う。


「そうだ、すべては私の計算通りだったんだ。」


 そう言って、ネロスは手を広げた。


「そして今回もそうさ、お前たちが動き出したのを知った時、私がどんな気持ちだったかわかるか?あるのは悦びだけだった。お前たちを利用すれば創造神の権限さえ手に入れられる。深淵の迷宮と創造主の宝珠さえあれば、いちいち魔王を使う事もなく、世界そのものを飽きたらリセットし、新たな生命を一からつくりだすことができるようになる。しかもある程度文明も保持した状態で好きな状態からスタートできるのだ。君たちにはこの体の主、エルフの大賢者を含め本当に感謝しているよ。私の手の中で踊ってくれた哀れな操り人形」


 そう言ってエルフの大賢者にはいったネロスがにやりと笑う。


 とたん、大地が揺れ始め地形が変形していく。


「な、なに!?」


「くるぞ!!キルディス!お前はカルナを守ることに専念しろ!」


 俺の言葉とともに、そこら中にいた小鳥や昆虫が変形し巨大化し、俺らに襲い掛かり、大地はなみうち、硬質化し尖った槍のようになって襲ってくる。


 俺はキルディスとカルナに襲い掛かってくる、魔物化したそれを闇の紋章で一瞬で屠り、アイテムボックスを出して、襲ってくる山肌をすべて飲み込み、アイテムボックスを閉じて切断した。


「ほぅ、硬質化は魔法すら効かないのを理解して、アイテムボックスを利用して切断とは予想外の行動をしてくれる」


 そう言ってネロスが、巨大な太陽のような魔力玉を作り出した。


「な、なななななんなんですか!?さっきからあいつ、あり得ない攻撃ばっかりしてくるんですけど!?」


 キルディスがカルナに防御結界を張りながら泣きながら言う。


「新しく手に入れたおもちゃを試してるのさ。エルフの大賢者がもっていたチート能力と神の力を融合してな」


 俺がネロスを睨みながら言う。


「よくわかったな。 さて、どれくらいの力か試してみよう」


 そう言って、ネロスが放ったその魔力の塊は


 どこぉぉぉん!!


 と、盛大な音をたてて一瞬で遠くにあった山を消滅させるのだった。


 




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