第42話 信用



「そうだな。今回は共闘といこうじゃないか。大賢者。」


 俺の言葉に、エルフの大賢者が「……本当ですか?」と、思いっきりジト目で睨んできた。


「信用してないなら聞くなっ!!!」


 言いつつ、俺はゴールデンフィーバーで蝙蝠型のモンスターを召喚してエルフの大賢者にまとわりつかせた。


「いままでの行動を顧みれば、信用できるわけじゃないでしょう!」


 と、杖で魔法を放ち蝙蝠を振り払いながら吠える大賢者。


「いいか、俺は本当の事を言わないだけで、嘘はついたことはない!!たぶん!!」


 謎の迎撃ポーズをとる俺。


「その『たぶん』が信用できません!!というか普通に見え透いた嘘をついてましたがっ!!」


 大賢者も杖を俺にびしっと突き付けてきた。


「って、二人とも喧嘩しないでくださぁぁぁい!!」


 少し遠くで突っ込むキルディス。


『喧嘩はやめて、貴方達も救済されなさい!!』


 巨大な肉がもりあがったような鋼鉄の塊に4足歩行の、化け物と化した聖女がけたけた笑いながら突っ込んでくる。……が、その身体が一瞬で切り刻まれた。

 もちろん俺の蝙蝠&マリオネットの糸だ。

 大賢者に蝙蝠をじゃれつかせるふりをして、聖女が少しでも動いたら切り刻むように準備して糸を張り巡らせていたのだ。もちろん裏ボスのバグ技なので、魔法反射の鋼鉄の装甲すら切り刻む。そしてその切り刻まれてむき出しになった皮膚に、今度は大賢者の魔方陣が発動した。

 蝙蝠を振り払うふりをして、無造作にはなっていた大賢者の魔法は、攻撃魔法ではなく魔方陣を刻むものだったのだ。その魔方陣からの湧き出た魔法が、俺の糸で切られ、むき出しになった肌に直撃し、浸食していく。

 


『魔法反射の皮膚を剥がして魔法をぶつけてくるとは、やるわね。でもそれがどうしたの?私には復元能……がっ』


 そう言った、聖女が急に黒く変色しだした。


『な、な……に……これ』


 聖女がわなわなと震えながら、自らの手(足?)を見た。

 ぼろぼろと崩れ落ちていくみずからの手に、聖女が悲鳴を上げる。

 エルフの大賢者が使ったのは、回復すれば回復するほどその回復能力を異常化させて細胞が壊死する魔法。魔法をアレンジして作ったあいつのオリジナル。


 聖女は神ネロスに力をもらって浮かれすぎていた。

エルフの大賢者が復元しているのに、乱雑にあらゆる属性の魔法をぶち込んでいたのは、やけになっていたわけじゃない。聖女の特性を見るためだ。いくら再生能力が高くても、どこかしら弱点があり、大賢者はそれを試していたにすぎない。

 そして大賢者はあの短時間で最適解を編み出し、チート能力を使って対魔法を作り出した。ゴーレムを一撃粉砕した時点で聖女はその可能性を考慮しておくべきだった。大賢者を甘くみた聖女の怠慢が招いた敗北だ。


『ゆるさないぃぃぃぃ!!!』


 聖女は壊死しだした部分を捨てて、無事だった部分を分裂させて、数を増やす。だが、先ほどよりかなり小型で、皮膚も魔法をはじくタイプではなくなっている。


 が、おそらくこの行為はダミー。


 俺達に向かってくるやつは捨て駒。聖女本体は、核そのものをこの戦場から離脱をはかっている。逃げる気だ


 ぼろぼろと身体からはがれて風に流れて飛んでいる肉片のどれかに本体がある。


 それがどこか探るのは……


「散り散りになって逃げるというのなら、その全て滅してあげましょう」


 エルフの大賢者がものすごい悪い顔で、空中に舞い上がると、超巨範囲大魔法を唱えはじめていた。

 キルディスとカルナにそれを防ぐためか超強固な防御壁が張られる。

 おそらくエルフの大賢者が前もって準備していたのだろう。


「ちょ!?俺はっ!?」


 向かってくる聖女の残骸をエルフの大賢者の邪魔をさせないように倒しながら言う俺。


「貴方なら大丈夫でしょう。信用しています」


 詠唱が終わり、術を放つ段階で、エルフの大賢者がにっこり笑う。

 顔は笑ってるが目は笑ってない。


「つーわりには殺気駄々洩れだぞっ!」


「滅びなさいっ!!!!」


 エルフの大賢者が俺の突っ込みを無視して容赦なく超巨大範囲魔法をぶっ放すのだった。


★★★



 ――なぜだ、我らはパワーアップしたはずじゃ!?なのに何故負けている!?


 濁水のグーンはボロボロになった自らの身体を見て悲鳴をあげた、

 目の前には狂炎のガルフと憤土のデウウの死体が転がっている。


 突如、光神ネロスが、四天王の前に現れ、魔王の主は自分だと言い出した。

 世界を浄化するためにつくった存在だと、そして魔族は世界の浄化のための尊き存在だと。はじめは信じられなかったが、光神ネロスは封印された魔王を、グーンたちの前で吸収し、その力を得たてしまったのだ。

 魔王を取り込んでしまった以上、グーンたちは光の神の言う事を聞くしかなかった。

 だが、それも悪くなかった。


 強大な力と、何度もループして自分たちが殺されていた時の記憶を思い出したのだから。


 そう、自分たちは何度もそこにいるアレキアやシャルロッテ、ジャルガに殺されていた。


 だから今度こそパワーアップしたこの力で殺してやると誓ったのに、圧倒的大差でやられてしまったのだ。


「どうやら、貴方達も前世の記憶があるようですが……逆にそれが仇になりましたね」


 すでに、触手もすべてもぎ取られ、立てなくなったグーンにアレキアが告げた。


「なんじゃと……!?」


「お主らが、我らの戦闘パターンを覚えていて、弱いところばかりついてきていたのを気づかなかったとでも思っておるのか?」


 ジャルガがグーンを持ち上げて鉤爪を構える。


「私たちの弱いところを的確についてきてくれるので、助かりました。そのおかげで手に取るように、次の動きが読めましたから」


 シャルロッテが笑う。


「貴様ら……我々に記憶があるのを気づいておったか!?」


「ええ、マスターに指摘された、私たちの弱点ばかりついてきましたから」


 そう言ってアレキアはにっこり微笑んで剣を構える。


「無駄に頭がよかっただけに、策士策に溺れたの」


 ジャルガが首を切るポーズをとる。


「うちのマスターをなめないことですね」


 シャルロッテの言葉を最後に、濁水のグーンはアレキアに切られ滅びるのだった。



★★★


「……やっぱり怖い。エルフの大賢者怖い」


 エルフの大賢者の魔法で巨大クレーターが出来上がったのをみて、キルディスがうずくまってぶるぶるしてる。


「エルフの大賢者、大人げのなさと性格の悪さ、マスターといい勝負」


 と、ぶるぶるしているキルディスの背中をぽんぽん叩きながら言うカルナ。


 そんな二人を無視して、大賢者は大地に降り立った。


「……第八皇子。先ほどの話は本当なのですか」


「お前がどこから聞いていたのかわからん。どの部分だ」


「光神ネロス様が全てを滅ぼして新たな世界を作ろうとしているという話です」


「それなら……」


 俺が大賢者に答えようとしたその瞬間。


 ぶわっ!!!


 と、何か黒い霧のようなものがエルフの大賢者から沸き上がった。

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