第4話 宣戦布告 or 脈ありサイン

 帰宅の準備をしていた旅人たびとは信じられない光景に身体を硬直させた。


「旅人君の漫画を見たいと思って」

(可愛いのが……いる。可愛いのが目の前に)


 座っている旅人の目線と立っている未来の目線が揃う。旅人は堪らず深いため息を吐いて頭を抱えた。


(初めて同じ目線になった……。死ぬ)



(こいつ、ため息をついて呆れてる?頭まで抱えて……。私の漫画なんて見るまでもない、そう言ってるのか?)


 旅人の殺気に耐えながら未来は負けじと言葉を続ける。


「それで?旅人君はどんな漫画を?」

「……」

(無視かよ!感じ悪っ)


 未来の目つきがどんどん険しくなる。


「旅人は少女漫画描くんだよ。ほら、こんな絵」


 助け舟を出したのはひかるだった。机の上に置いてあったルーズリーフを差し出す。

 それを渋々と受け取った未来は目を見開いた。


(……上手い!繊細なタッチが少女漫画に合ってる。身体のバランスも顔のバランスも申し分ない。何よりキャラクターデザインが良い。こいつ……やるな。私の事を見下すだけのことはある)

「うわー!かっわいー!男子だんしが描いてるとは思えない絵柄だわ」


 隣から顔を出した舞衣が声を上げる。舞衣はその可愛らしいキャラクターを見て首を傾げた。


(待って……。このイラストの女の子……未来に似てない?)


 肩に掛かるぐらいの髪の長さに、丸い顔に大きな瞳。荒っぽい雰囲気を除けばそのイラストの少女は間違いなく未来だった。


(旅人君、未来のこと好きなの?)


 驚いた顔のまま旅人を眺めるが、頭を抱えているためその表情は読み取れない。


「俺、ちょっと他クラスの奴らと話してくるから。しっかりしろよ!」


 光は旅人の背中を叩くと廊下に待つ他の生徒の元に駆け寄った。


(あ……。いまのシチュエーション、めっちゃ良き)


 舞衣が別の光景にときめいていると、未来が口を開く。


「良かったら……これからうちで漫画創作会でもしない?」

「え?未来、それって私らだけでやってるやつ……」


 舞衣が困惑していると、弾かれたように旅人が顔を上げる。


「読者だけじゃなくて漫画を描く奴からの意見も欲しくてさ……。どうだろう?」


 旅人はまだ無言を貫く。その様子を見て未来は内心舌打ちをした。


(こいつは何ですぐに答えないんだよ!めんどくせえ!)


 未来はルーズリーフを机に叩きつけながら至近距離で旅人を睨んだ。旅人が腰を屈めているお陰で、見下ろすことができる。


「それとも、自分より実力が下の人間との馴れ合いはごめんってか?」


 旅人は顔を俯かせたまま静かに答えた。


「……いや。行く」


 立ち上がると、口元を押さえながら凶悪な笑みを浮かべる。


「その実力……見せてもらおうか」

(なんて殺気だ!やっぱりこいつ、私を敵視してる!同じ漫画描きとして!)


 未来は好敵手と向かい合った主人公のような気持ちになりながら頷いた。

 


 未来達を背にした旅人は教室の出入口のドアに寄りかかって胸を押さえる。


(……急展開すぎる!青空さんの家に?いいのか?俺の心臓が持たない)


 旅人の高圧的な反応は全て照れ隠しだった。


「あれ?旅人、どした?」


 未来の可愛さに苦しむ旅人の元に光が戻って来る。旅人がぼそぼそとこれまでの経緯いきさつを伝えると目を輝かせた。


「え?青空先生の家?行く行く!」

「え……。お前も?」


 旅人は少しだけもやっとした気持ちになる。それが何なのか分からないまま先頭を歩く可愛らしい小動物について行く。





「何なの?あいつら……。光君を連れまわして……!」


 その光景を睨みつける存在がいることも知らずに……。


 


 


 


 



 



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