第10話
家に着いた頃には夕日は完全に沈み、空にはきれいな星空が煌めき始めていた。雲がほとんどなく、月も今日はよく見える。本当にきれいな夜空だ。
「じゃあお先にお風呂に行かせていただきますね」
彼方ちゃんがこの前買った自分用のバスタオルを持ってお風呂へと向かった。
その間、僕は精神統一を兼ねた夕食作りだ。
もう何日か経つのに彼方ちゃんがお風呂に行くと妙にそわそわする。そのため僕は彼方ちゃんがお風呂に行っている間に夕食作りに没頭する。
ちなみに今日の夕食はチャーハンだ。
理由は彼方ちゃんが初めて来たときのチャーハンが少ない材料での間に合わせだったことだ。彼方ちゃんがそのことを偶然思い出して「佐渡さんの本気のチャーハンが食べたいです!」とお願いしてきたからである。
あの彼方ちゃんの純真無垢な顔で純粋にお願いされて断れる人がいるというのならその人を僕は見てみたい。
といっても、僕が本気で料理しても料理人のようなものが作れるわけではない。手を抜いたといっても、肉を入れていない、水分をちゃんと飛ばしていない、など普通の人でも平然とやっていることだ。
だから一度断ったんだけど、彼方ちゃんに「それでもかまいません!」と強引に押し切られてしまった。
「とりあえずやれるだけのことはしよう」
そう言って僕は自前のエプロンをつけて料理を始めた。
「……ふう……上出来かな」
額に浮かぶ汗を拭いながら、出来上がったチャーハンの出来を見る。どうにかおいしそうなチャーハンができた。
自分で味見もしてみたけど、今まで作ってきたチャーハンの中で一番上手にできたと思う。
彼方ちゃんはまだお風呂から上がってないようなので、とりあえずテーブルをだして拭くことにした。
「……よし。もうすることはないかな。後は彼方ちゃんが上がってくるまでちょっと休憩してよ……っと」
テーブルの上にチャーハンを置き、使った調理器具を洗い終わり、汚れたキッチンを掃除し終わった。完璧である。
その頃ちょうど彼方ちゃんがお風呂から上がってきた。
「いいお湯でしたー。うわー。おいしそうなチャーハンですね!」
「うん。自信作だよ。たぶん今までで一番上手くできたと思うから期待してもらっても大丈夫だと思うよ」
「はいっ。それじゃあ早くバスタオルとか片しちゃいますね」
彼方ちゃんはバスタオルをきれいに畳んでハンガーに掛け、自分の場所に座った。
もう僕の座る場所、彼方ちゃんの座る場所が決め事もなく決まっていて、なんだか本当の家族みたいで僕は気に入っている。
「じゃあ食べようか」
「はい! いただきますっ!!」
「いただきます」
そのまま僕は自分のスプーンを持たず、彼方ちゃんの方を見た。
やっぱり彼方ちゃんの感想は気になる。
彼方ちゃんはそんな僕のどきどきに気づかず、チャーハンを口に含んだ。そして口を可愛らしく動かし、飲み込んだ。
僕は恐る恐る話しかける。
「えっと……おいしい……?」
「はいっ。とってもおいしいです! やっぱり佐渡さんは料理がお上手ですね。あの時のチャーハンよりおいしいですし、これならいくらでも食べられそうですよ」
「そっか……それはよかったよ」
ようやく肩の荷がおり、僕も自分の分に手を伸ばした。
そしてなんらかの話題欲しさにテレビをつけた。チャンネルは特になにか見たいわけではないのでそのままにしておく。
テレビの中では今人気の美人アナウンサーがニュースをしていた。政治家の話しや、芸能人の話題など、特に興味のない話が話されている。
「……次のニュースは……」
アナウンサーが次のニュースを読み上げる。
「今日、午後二時頃××村の近くの○○山付近で車の転落事故がありました。被害者は……」
僕が少し顔をしかめていると彼方ちゃんが話しかけてきた。
「すいません佐渡さん。もうしわけないんですけど、私見たいドラマがあるんです。チャンネル変えてもいいですか?」
「いいよ。特に見たいわけじゃないし、食事中に暗い話は聞きたくないしね。それに僕……ニュース苦手なんだ」
彼方ちゃんが不思議そうに顔を傾げる。
「どうしてですか? やっぱり見ててつまらないとかですか?」
「そうじゃないんだ。ニュースって今の事件みたいに誰かが死んだとか、怪我したとか嫌な話が多いよね? 僕、そういう悲しい話……あんまり聞きたくないんだ……」
「ふふっ。佐渡さんらしい答えですね」
「そうかな?」
「はい。すごく佐渡さんらしいです」
そう言うと彼方ちゃんは今流行りの恋愛ドラマのチャンネルに変えた。
こういうところを見ると、まだ彼方ちゃんも高校生なんだと実感させられる。
でもだからこそ早く彼方ちゃんの両親をどうにかしなければならない。彼方ちゃんの身に何があったのかはわからないけど、やっぱりこのままではいけない。
「……がんばろう」
僕は今日二度目の決意をした。
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