公園
ホームルームを終え、一度も足を止めず、学校を後にした。
今日はすごく疲れた。
重たい足をどうにか前後させて、
自宅へ向かった。
学校から自宅までのルートは、アルファベットのLの字の端と端にある格好だ。距離にして1キロちょっと。
校舎を背に直進して、90°左に曲がると、遠くに自宅マンションが見える。
ちょうどその曲がり角に、公園がある。
いつもなら公園を左手に見ながら、路側帯を歩くのだけれど、今日は引き寄せられるように、公園の中に足を踏み入れた。
公園の入り口から出口を突っ切れば、数メートルはショートカットできると思ったからだ。
初めて入った公園は、とても静かだった。
ジャングルジムや滑り台と一体化し、化け物みたいになったタコが、おどけた顔で僕を迎えた。
いつもなら数人の小学生が、鉄棒やおにごっこをして遊んでいるのに、今日はとても静かだった。
僕は出口(というには大げさな隙間)に向かって少し歩いて立ち止まり、タコと見つめ合った。
遠くでカラスの鳴いている音が聞こえる。
僕はぐるりと方向を変えて、入り口近くにある公衆トイレの陰に移動した。
背中のリュックから眼鏡ケースを取り出し、眼鏡を外して入れた。
さっき校門前でもらった、塾の冊子やら消しゴムやらが入った透明の袋を一度リュックから出して、中身だけバサバサとリュックに戻した。
地べたに置いていた眼鏡ケースをその透明の袋に入れ、くるくると巻いた。
人目につかなそうな左から2番目の花壇をガリガリと掘って、眼鏡ケースを埋めた。
右左と首を振って、もう一度誰もいないことを確認して、黒い虹を描くように等間隔に埋められた、小さなタイヤの上に立った。
――――よし。
「おいーー!お前のせいでオレ死んだじゃんかぁー!」
肩と内臓がビクッと勝手に跳ねた。
心臓は工事現場の音くらい速く大きく騒いだ。
足の力が抜け、タイヤから滑り落ちて尻もちをついた。
え?
尻の汚れを払い、崩れるようにタイヤに腰掛けると、タコの向こうから、小学生が2人ゲーム機を手に現れた。
「ごめんって〜手冷た過ぎて操作ミスった〜」
「もう、何やってんだよ〜!てかやばいもう塾行かなきゃ!早く行くぞ!」
黄色い帽子やら、ランドセルやら色んなものを無造作につかみ、バタバタと隙間から公園を出て行った。
呆然とタイヤに座る僕を、タコが馬鹿にした顔で見ている。
花壇の眼鏡ケースを掘り起こして、
入り口から公園を出て、いつもの通り90°左折して自宅に向かった。
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