第4話~祠~
走り出した電車が車体を揺らせ始めると、少しバランスを崩した希望は、慌てて傍のつり革に摑まった。
学校までは、ここからは二駅だ。
小豆が今から何処へ連れて行きたいのか、全く見当もつかないけれど、もはや付き合う選択肢しかないのだけは、わかっていた。
「希望君、一つ手前の、次の駅で降りるわよ」
するといきなり、小豆が小声で囁いてきた。
「は?何言ってるんだよ。そんな途中下車なんてしたら、遅刻するだろ?」
「大丈夫。羽田君の緻密な計画なら、ぎりぎり間に合うはずよ。ね?羽田君」
そう話を振られた羽田は、ゆっくり二度頷くと
「あぁ、予定通りだと、チャイムが鳴るギリギリに校門に滑り込めるはずだ」
と、力強く語った。
いやいや待ってくれ。
何でそんな、一か八かなスケジュールを敢行しようとしてるんだ?これからこのまま学校へ行けばいいじゃないか!?
希望が全く理解できないまま困惑していると、電車は容赦なく次の駅に停車する為に、速度を落とし始め、そしてゆっくりと停車をした。
「さぁ!早く!!」
小豆は右手で、まだ半分眠っている多田をひっぱり、今度は嫌がる希望の手を左手でひっぱると、プラットホームに勢いよく降り立った。
それを背後で見守っていた羽田が、ゆっくりと降り立つと、電車の扉は、希望の気持ちを置いてけぼりにして、無情にも閉じられたのだった。
◇
「とりあえず時間がないし、駆け足でいくわよ!」
改札を、踊る様に飛び出した小豆に急かされながら、もはやすっかり諦めた希望は、今度は遅刻回避の為にそのミッションを大人しく、こなす事にした。
次の電車が来るのは10分後だ。
決してそれに乗り遅れるわけにはいかないのだ。
「で?小豆、一体どこへ行けばいいんだよ」
希望が腕時計の針を見つめつつ、そう尋ねると
「すぐそこに祠があるの、すぐその角を曲がった所なの。来て!」
小豆はそう言うと、角に向かって走り出したかと思うと、角を曲がってしまい、視界から消えてしまった。
「祠??」
意味が全く掴めないまま、希望、多田、羽田は、小豆の後を追って、角に向かうとそこを曲がった。
小豆の言った通り、その曲がり角の先には小さな、そして、とても古そうに見える祠があった。
希望は、祠を目の前にした所で、特に驚く事もなかった。
この辺りはわりと古い田舎町だし、そんな祠がとりわけ珍しいわけでもない。
この祠の存在は正直知らなかったけれど、そんなわざわざ、学校を遅刻するかもしれない危険をおかしてまで、見に来ないといけないものでもなかったはずだ。
そんな意気消沈な希望の様子に全く触れる事もなく、こっちこっちと小豆は皆に向かって、手招きをひとつした。
3人は、小豆の傍へ近づくと、その祠の目の前に立った。
「まずは拝まないとね!」
そう言って真剣に拝み始めた小豆に合わせて、自分も拝みはじめたものの、希望は左手の腕時計の、針の進み具合が気になって仕方がなかった。
あと、5分か・・・
拝み終えると、小豆はポケットからスマートフォンを取り出し、祠の屋根を、背伸びしながらカメラ機能で撮影をはじめた。
いきなり今度は何するんだよ、お嬢様……
そんな突飛な行動を、男子3人が黙って見守っていると、小豆が興奮した様子で、撮影したての画像を見せてきた。
「ここ見て!」
小豆の右手に握られた、スマートフォンの画面いっぱいに、瓦のアップ写真が映し出されていて、よくよく見ると、刻まれた文字が写っていた。
「嘉永?七年??あと、人の名前かな・・・、あれ?この名前どこかで・・」
希望が、祠の屋根瓦に刻まれた名前を思い出そうとしていると、羽田が何かに気づいた様だった。
「これ、昨日見せてもらった小豆の家の家系図にあった名前じゃない?」
「そうなの羽田君!!良かったぁ~おじいちゃんの言ってた通りね!」
小豆は謎に安堵の表情を浮かべると、さらに写真をパシャパシャと撮り始めた。
「つまり、この祠を作った人?いや、寄贈した人?それが、小豆のご先祖様って事!?」
多田がやっと眠気が飛んでいったのか、今度は逆に好奇心いっぱいに目を輝かせると、自分もスマートフォンを取り出し、その祠の撮影を始めた。
羽田はその文字を目視出来ないか、背伸びしつつ
「嘉永七年は実際はないんだよね。11月に安政に改元になって、当時は元旦まで遡って改元される仕組みだった。つまり、これはその年の11月以前に建てられた、って事になるかな」
と、推理をはじめた。
その言葉を聞いて、歴史のテスト勉強は必ず、羽田に教わろうと固く誓った希望だったが、まずはそれよりも、今朝からの流れを自分なりにまとめてみることにした。
◇
昨日解散した後、小豆は祖父から、隣駅のこの場所に、祠がある事を教えてもらった。
そして、その祠はご先祖様が関与している事を知った。
呪いと関係があるかもしれない、そう思った小豆は、すぐ確認したくなり、この朝の突撃を思い付いた。
いや、気持ちはわからなくはない。
自分がいつ死ぬかもわからない状況なのだ、
いてもたってもいられず、ましてや、ひとりで行くのは、きっと不安だったのだろう………
そう、脳内でまとめ終えた希望が小豆を見ると、小豆は今も尚、楽しそうに祠を写真に納めている所だった。
うん、全然、そうは見えないけど……
多分、不安だったんだよ……
希望は無理矢理、そう思う事にした。
「あ!電車!?」
気づくと、次の電車の到着まで、もうあと1分に迫っていて
慌てた4人は、祠に軽く会釈をすると、走って駅まで戻った。
何とか到着した電車に駆け込むと、4人が4人とも肩で息をして、空いていた椅子に座り込んだ。
「気持ちはわからなくはないけどさ、やっぱり強行すぎだって。放課後の方がゆっくり調べられたんじゃないの?」
息をきらせながら、希望がそう言うと
鞄からピンク色の水筒を取り出して、一気飲みをした小豆が、右手の甲で濡れた唇を豪快に拭うと、こう言った。
「だって、放課後は家に従兄弟を呼んでるんだもん。みんなに紹介するつもりだから、放課後は私の家に勿論集合するわけだし、朝しか時間はないでしょ?」
従兄弟?紹介?
初めて聞く話に面食らいながら、とりあえず既に放課後の
スケジュールは押さえられている事に、既に驚かなくなっている自分に、希望は驚いていた。
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