第3話~解明班~

 結局、テスト勉強も出来ぬまま、希望が自宅に帰ってこれたのは

 既に陽の暮れた夜だった。


「俺の貴重な時間がぁ・・」


 半泣きになりながらも、母親が沸かしてくれていた風呂を済ませると、

 夕食が用意されたリビングへと赴いた。


 するとテーブルの上には、希望が一番大好物のエビフライが待ち受けていた。


 実際、エビフライが「待っていたよ」と言ったわけでは勿論ないが

 希望にとってエビフライは、今日、唯一の救いであった。


「ありがとう、お母さん」


 そう、普段は絶対に言ったりしない、感謝の言葉を放ちながら、

 涙目でエビフライにかぶりつき始めた息子の姿を見て


 母親は何かを察知し、無言で自分のエビフライを1本、

 そっと希望の皿に移し乗せた。


 希望は白ご飯、エビフライ、キャベツの三重奏を口の中で奏でながら

 母親から分け与えられたエビフライに、タルタルソースをたっぷりとかけると、一気にそれをも自分の胃袋へと送り込んだ。


「はぁ~お腹いっぱい!もう入らない!ご馳走様!」


 希望は満足気にそう言うと、自分の部屋へと、テスト勉強の為に向った。



 ◇


 翌朝、昨日とは別世界な青空がひろがっていた。


 やはり天気は晴れがいい。気持ちが勝手に上向きになる。

 結局、人間とは、天気によって感情がコントロールされる生命体なのだ。


 つまり【呪い】って奴も、究極の晴れ女とか晴れ男を対峙させたら、勝てるのかも???


 唐突に閃いたそんな考えに、自分で自分自身がおかしくなりながら

 希望は、学校に向かう駅の改札機を、いつも通り定期券で通過した。


「おはよう希望君!!!」


 プラットホームで元気な声に呼び止められた希望が、声の主を探すべく振り向くと、そこには小豆、多田、羽田の3人が立っていた。


 何故この駅に?


 多田と羽田の家の最寄り駅は、この駅ではないはずだ。

 いや…電車通学だから、百歩譲ってここにいる事はありえなくはないとして


 小豆の家は学校の近くなのだ。昨日訪れたのだから間違いない。

 何でここにいるんだよ、どう考えてもおかしいだろ。


 希望は全く理解できずに、そこに呆然と立ち尽くした。


「いや、朝早くに小豆からラインが来てさ。3人で待ち合わせて、

 希望をここで待ってようって話になったんだ」


 羽田がすぐに説明をしてくれたものの、希望には全く解せなかった。

 昨日も遅くまでずっと、古文書やら呪いやらで一緒にいたじゃないか。


 何かそれから、新しい発見があったのかもしれないけれど

 それは、今日の放課後でいいじゃないか!?



 すると小豆が間髪入れずに、希望を睨みつけると


「希望君、今、放課後でいいじゃないかって思ったでしょ」


 と、言ってきた。



「いや、決してそんな事は…」



 見透かされた事にたじろぎながら、希望が多田に救いを求めるべく

 視線を送ると、あろう事か、多田は立ったまま眠っていた。


 いや、待て、そこで寝てる場合かよ。器用にもほどがあるだろ。

 それか、そんなに朝早く小豆から集合をかけられたのだろうか。

 それは、何だか自分だけいつも通りで申し訳なさが…


 そんな多田に同情していると、電車が到着するアナウンスが流れ始めた。


「とりあえず学校に行く前に少しだけ寄ってほしい所があるの!とりあえず

 電車に乗りましょうよ!」


 寄る所?


 希望は、小豆の言葉に全く思い当たる所がないまま

 滑り込んできた、その通学電車へと乗り込んだ。


「ちょっと!多田君!ちゃんと起きてよ!」


 振り向くと、魂が抜けかけの多田が小豆に

 腕を組まれ、引きずられる様に車内へ引っ張られてくる所だった。


 希望は、未来もしこのふたりが結婚したら

 結婚式の入場も、きっとこんな感じなんだろうなと

 一瞬、思ったけれど、急いで脳内のごみ箱フォルダへと封印したのだった。


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