三題目 LINE、執筆、。(読点) 「終わりの。」
「赤 紅 朱
視界1面に広まる色
それを自分の血だと理解するのに
意識を失っていた僕は0.8秒の時間を要する
コンクリートが打ちっぱなしの扉が1枚しかない部屋
両手首、両足首にかけて僕の身体を縛る縄
傷だらけの僕
そして目に入ったのは
棘の鞭を持った父の姿」
「お前いいから学校来いよ」
このようなメッセージが送られて来てから早三ヶ月と十日。かつての友人から延々と文章の羅列が送られてくる日々に僕は苛立ちを確実に感じ、ブロックをしようか悩んでいたところだった。
◇
「俺、小説家になるわ!」
「お、おう。いいんじゃないのか?」
友人は唐突に俺にこう宣言し、それを聞いた俺は驚きから空返事をしてしまった。とはいえこいつは普段から奔放なやつで急にこういうことを言い始めるのである。しかし今思えばここで少しばかり止めておけばと後悔している。
「だから俺、明日から執筆で忙しいから学校いかねぇから! それじゃあな!」
「は!? お前待てよ!」
友人は俺の声に一切振り返らず、走って去ってしまっていった。元から自由なやつだが今日は特段と自由すぎる。まぁ飽き性なやつだし、そのうち普通に学校にくるだろうと思って、重くは受け止めなかった。
しかし友人はその後一向に学校には戻ってはこなかった。
◇
「お前、マジで学校来いよ。」
さすがに友人が心配になった俺はLINEを送ることにした。あんな奔放な友人とはいえ、数少ない友人だ。もし宣言した手前戻りにくくなったとかだったらすぐに戻ってこいというところだ。
そんなことを考えているとスマートフォンから通知のバイブが鳴った。飛びつくようにスマートフォンを見る。通知は友人からのLINEだった。
「学び舎
そこで過ごす日々は青く
しかし我にはほろ苦い」
俺は硬直してしまった。そして少しむず痒い気持ちになった。友人から唐突に送られてきたポエムなのか小説なのかよく分からない文章に対して。
そしてツッコミどころが満載だった。まず第一に句読点が使われていない。小説を書いたことなんて無いし、学校で仕方なく読むときがあるくらいだがそのくらいは分かる。
そして本人としては小説を使い、上手に返信したつもりなのだろうが回答になっていない。そしてほろ苦いって……よく分からないけど学校に行くつもりはどうやら無いらしい。
「句読点をつけろ。これじゃあ文として成り立っていないぞ。」
とだけを返信しておいた。既読はついたが、返信はこなかった。なんだこいつはと正直に言うと思った。
◇
「うぉっ!?」
滅多に学校では鳴らないスマートフォンの通知に驚いてしまう。通知はなんと、昨日既読無視を決め込んでいた友人からのLINEだった。
「句点 それは物語を中断させるもの
読点 それは終わりを告げるもの
先の回答としては、」
相変わらず訳の分からない文章だ。そして残念ながら俺のアドバイスは聞き入れてもらえなかったようだ。
そして先の回答は、って学校は中断ってことか? これじゃあ文章じゃなくて暗号文だ。自分で書いていて気持ちいい文じゃなくて伝える文を書け。とでも言いたかったが何だか言い過ぎな気がしてきたので、
「句点は間に入れるもんだぞ。少しは勉強してから書け。」
とだけ返信した。昨日と同じく既読はついたが、返信は来なかった。
◇
それからも相変わらず句読点が使われいない、もしくは変に句点だけが使われている文章だけが延々と送られてきた。最初の方はしっかりと突っ込んでいたが、段々面倒くさくなってきて返信するのを辞めてしまっていた。
そして今日も通知が響いた。返信してないというのに、もはやメモ代わりにされているのではないかと思ったがその日のLINEはいつもとは違うものだった。
送られてきたのは見慣れないサイトのURL。リンクを開いてみると、それは小説が多く投稿されているサイトのものだった。しかし飛ばされたのはメインメニュー。てっきり友人のページにでも飛ばされると思ったのでもう意味不明だ。
探せということかと思い、仕方なく友人の本名を入れてみるとヒットしてしまった。ネットで本名を使うということは危険だというのに、まぁそれほど本気だということなのだろうか。
そして投稿されている小説を見たら、俺に送ってきていたものばかり、というか全てが俺に送ってきたものだった。
ただ残念なことに良い評価はついておらず、俺のツッコミと同じような……いやかなり手厳しい言葉ばかりがコメントされていた。当然だ。こんな句読点の使い方をしているのだから。そしてそのコメントにも一切の返信はついていなかった。
「だからちゃんと句読点を使えよ。そして周りの意見をしっかり聞き入れろ。」
どうせ届かないであろうLINEを送って床につく。それからしばらくの間友人からの小説のLINEは送られてこなくなった。その間、特別友人のことを気にかけなかった。
◇
約一ヶ月ぶりに友人からのLINEの通知が鳴り響いた。ただそれは若干小説とは言えないようなものだった。言うなれば、あの日肉声で俺に告げた宣言に近いようなものだった。
「私が読点を使う日も近い」
と言いながら相変わらず読点がついていない。でもようやく使う気になってくれたなら何よりだ。尖りすぎていた友人がようやく普通の小説家の第一歩を歩んでくれることに一人ながら乾杯したいくらいだ。
「いいことじゃないか。」
そう返すといつも通り既読はすぐついたのだが、今日は珍しく返信が帰ってきた。俺は本来当然であろう光景に驚き、スマホを手放してしまう。
「心外だよそれは」
珍しく、そして久しぶりな素の友人からの返信に困惑してしまう。読点使う宣言を止めてほしかったのだろうか? 尖っている自分の文を好いていて欲しかったのだろうか? 考えるとなんだかめんどくさくなってきた。返信を返すことなく寝た。
◇
朝起きるとその友人からの通知が来ていることに気づき、LINEを開いた。
「さようなら。」
初めて読点付きで送られてきたメッセージだった。しかしようやくつけたかという感想が出る前に、なんとも言えないゾッとする気分になった。
その日以降友人からLINEが来ることも、友人が学校に来ることも無かった。
教室から机が一つ消えた。
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