最終話 ⬛︎⬛︎⬛︎好きの憶月フィーカ






――――記録――――


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年 ⬛︎⬛︎月⬛︎⬛︎日


side:⬛︎⬛︎⬛︎



『…聴こえますか?


【⬛︎⬛︎⬛︎好きの憶月フィーカ】です。


ねこ以外は誰も居なくなった終末世界から、

旅の記録や作った音楽を配信しています。

どこか遠くの誰かに届きますように…』



―どこか遠くの世界の、

古いアンテナから配信されている、ノイズだらけの映像。

そこから聴こえてくるのは、

ねこ以外はだれも居なくなった終末世界での、

少し不思議な、旅の日記でした。




―1番目の旅人も、2番目の旅人も、3番目の旅人も知らない人だったけれど…

なぜだか私は、この映像の中の旅人とは…いつかどこかで出会ったような気がしました。



『今日はコーヒー湖の近くで、【記憶好きの物知りねこ】さんに出会いました。

その子はなんでも覚えるのが好きっていう、不思議なねこさんでね?


なーんでも知ってるの?ってきいたら


「そりゃあもう、なぁんでもさ!!」


って、自信たっぷりに言うから…』




―私は【記憶好きの物知りねこ】のことを、ずっと前から知っていました。


彼はある日は【かつおぶし好きのヒゲ曲がりねこ】として、またある日は【物語好きの紙芝居ねこ】または【お話好きの紙芝居ねこ】として…

これまでに何度も出会ったねこでした。




『私は、コーヒー湖について聞きました。


「あの湖はなぜコーヒーでできているの?」


「あんなに大きなコーヒーは誰が作ってるの?」



すると、【記憶好きの物知りねこ】さんは…



「コーヒーねこって呼ばれてる、からだがコーヒーでできている変わり者のねこが居るんだ。その猫は、ずっと世界を食べ続けているんだよ」


「じぶんが好きじゃない世界を食べて、じぶんが好きな、コーヒーしか残らない世界を作っているんだ」


「コーヒーになった世界のことは、もうボク以外…だれの記憶にも残らない」



…そう言いました』





―【コーヒーねこ】のことも、本当はずっと、ずっと前から知っていました。


詳しいことはなにも思い出せないけれど…

確かに私は【コーヒーねこ】のことを憶えていました。





『私はびっくりして…忘れちゃうのも、全部無くなっちゃうのも、寂しいなぁ…って思いました。


でも…コーヒーがすきで、

それ以外は何も好きじゃなくて、

ぜんぶ無くなってしまえばいいって、

思ってる人だって、居たっていいよね…?


そう言ったの。


そしたら…


「君は同じことを言うんだね。

君は忘れているだろうけれどね」って…』





―旅人は…何を忘れたんだろう。





『私ははじめましてじゃなかったことにびっくりして…「忘れてごめんね、前には私とどんなことを話したの?」と聴きました。


「そうだなぁ…まぁ、

なんやかんや、いろいろさ」


なんだかめんどくさくなったのか…記憶好きの物知り猫さんは、ゴロゴロ、くるくる喉を鳴らして笑いました』






―【私】は…何を忘れたんだろう。






『教えて貰えなくて残念だったけど…


「でも、この世界をコーヒー猫が食べてみんな消えてしまう前に、どこか遠くの誰かに、私の声が届いたらいいなぁ…」


私がそう言うと、記憶好きの物知りねこさんは…






「とても不思議ことを言うね」







って、おかしそうに笑って』






―なぜ、忘れていたんだろう。






『ゴロゴロ、くるくる、くるくる、

喉を鳴らして、笑って』





―どうして、忘れたかったんだろう。






『そして最後に…』






「ねこ以外、もう誰もいらない。


人間なんか、みんな居なくなればいい。


嫌だったことも、悲しかったことも、


全部、ねこがたべちゃえばいいのに」






「そんな世界を願ったのは【きみ】じゃないか」




…そう言いました』







―私の名前は…旅人と同じ【憶月フィーカ】




旅人の映像は、そこで終わりました。










―このお話は、


これで…おしまい。




【完】




next story…

「⬛︎⬛︎の多い、星空店」

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憶月フィーカの日記 -Prologue- 憶月フィーカ Vtuber @okuzuki_fika

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