合流と酒と兵隊


 露店が並ぶ通りは、日本人よりも外国人客の方が目立っていた。


 人間で、普通の外国人が1割。

 日本人が0.5割。

 他は、である。


 その中をカッソは歩き、美味そうな匂いに鼻をヒクつかせる。


「いいねぇ。奴隷ってのはよぉ。こうやって、活気があって、飼い主喜ばせるもんだよなぁ」


 にぃ、と笑い、汗を流して働く人間達を見て言った。

 獣からすれば、人間など取るに足らない奴隷。


 この辺の認識は、ある意味で、獣や一部の人は共通している。

 共通している所があるからこそ、上手く溶け込めているのだろう。


 もっとも、獣にとって、人は下級生物であることに変わらない。


 上下を革でコーデした、強面のカッソ。

 その後ろを気だるげに歩く女がいた。


「だりぃ。……肉焼くなよ。クソ、生の方が絶対に美味いよ」


 黒い髪にピンクのメッシュを入れた、目つきの悪い女だった。

 セミロングの髪は、適当な結び方をしたツインテール状にしており、上下はダボダボの白いジャージ。


 だらしなく前は開きっぱなしにしているので、中に着たヒートテックが見えていた。


 けれども、露出した腹部は、見事に締まっていた。

 筋肉の溝が見えているくらいなので、一見すれば格闘技か何かをやっていると見られるだろう。


 彼女は、『リッシュ』。

 キング派の兵隊の一人だ。


「早く、同居人連れてこいよ。クソが」

「落ち着けって。面倒なことは、全部他の奴にやらせりゃいいんだよ」

「アンタは、四六時中女を犯すだけ犯してるだろうに」

「ははっ。他にやる事がねえんだよ。ブスでも我慢するしかねえだろ」


 そんな柄の悪い二人を連れているのが、先頭にいる狩人だった。


「現地の人に失礼な事言ったらダメよ」


 見目麗しい女性だった。

 白いキャミにジーンズという格好で、極めてラフな格好をしているが、薄く浮き出た筋肉の溝が動ける体であることを証明している。


 狩人の『フランソワ』は、赤毛の長い髪にパーマが掛かっており、ふわふわとしている。

 そして、胸は大きく、尻や太ももが発達していることから、運動が趣味の陽気なお姉さんにしか見えなかった。


 三人は何か目的があって、露店の並ぶ通りを歩いているわけではない。

 カッソとリッシュを除いた獣たちに、ギーズの血の場所を教えて、襲うポイントをサポートしてあげただけだ。


 つまるところ、現地の食べ物を飲み食いしながら、待っていようという魂胆こんたんだ。


「ねえ。酒飲みたい」

「昨日、たらふく飲んだろうが」

「足りないっつうの」


 フランソワは辺りを見て、酒を飲める店を探した。


「んー、ラーメン食べながらビールとか?」

「賛成っ」

「奴隷がクソマズい料理だしたら、暴れるぞ」


 と、言いつつ、


「いや、ラーメン美味いよ?」


 リッシュはすでに食べているので、その味を知っていた。

 酒を飲む事と食べる事が好きなリッシュは、こういう所に正直だった。


「うっし。あそこで飲んで、ハシゴする頃には仲間戻ってくんだろうし」

「ハシゴ?」

「テキーラかましたいなぁ。あー、やっべ。早く飲みたい」


 二人を置いて、近くのラーメン店に入っていく。

 その後ろをカッソが「待てや! 聞いてねえぞ!」と怒鳴りながら追いかけた。


「ま、……上手くいくといいけどね」


 フランソワは肩を竦め、二人を追いかけた。

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