従者の愚痴


 ユウが朝食を食べている間、グリッドはスマホで仲間に連絡を取っていた。


「それでぇ。マジであり得ないっていうかぁ」

『それ以上はよせよ。聞かれるぞ』


 通話の相手は、男だった。

 同じ仲間であり、違う地区で仕事をしている者だ。


「だってぇ、愛情が激し過ぎるのよ。あり得る?」

『今に始まったことじゃないだろ。それに、基本子供は好きだったじゃないか』


 クイーンは一部の王族や周囲にいる配下は殺す。が、子供は基本的に生かしていた。


 ややこしいかもしれないが、王室にいる王族たちは人間だ。

 その周囲を獣たちが囲んでいる、といった図式である。


『あの人のおかげで、俺たちにとって住みやすい社会が出来上がったんだ。これが瀉血しゃけつをやってた時代に戻ってみろ。俺たち死ぬぞ』


 ほとんどの人間は、絶対に信じないだろう。

 瀉血はから、始まったものだった。


 人間と獣の歴史なんてものは、それだけ長く、過去に遡ればもっと激戦を繰り広げた時がある。


「そうだけどぉ。ユウくんが心配でさ」

『お前がしっかり見てりゃいいだろ』

「……だったら、アンタがこっちにきて、本人に言ってみなさいよ」

『ムチャ言うなよ』


 通話越しに、怯えた声が聞こえてきた。


「とりあえず、異常はないでしょ。んじゃ」


 通話を切り、振り返る。

 目の前には、悲しそうに表情を歪ませる生気のない顔があった。


「――っ――」


 死ぬ。

 直感が叫んでいた。


「楽しそうね」

「いえ」

「わたくしは、仲間外れ?」

「そんな、滅相も……」


 グリッドは震えた。

 主人の愚痴を本人に聞かれたのだから。


「従者の愚痴くらい許してあげる。でも、本人が目の前にいるのだから、直接言ってはどう?」


 グリッドは離れて、土下座をした。


「すいませんでした!」


 朝から、元気の良い謝罪が響き渡った。

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