甘い朝


 朝、ユウは寝苦しさにうなされていた。


「んふぅ、ふぅ、……ユウくんっ……んん」


 頬に熱いキスの雨が降り注いでいた。

 集中的豪雨と言っていい。


 スカーレットの薄桃色をした唇が、頬肉に吸い付いて、小さい水音を何度も鳴らしていた。


 濡れた唇は光沢を帯びて、まだ足りないと言わんばかりに、ユウの頬に押し付けられる。


「ユウくん。ユウくんっ」


 それを目の前で見ていたグリッドは、あからさまに「うわぁ」と言いたげに眺めていた。


「ん、……ん、なに?」

「あ、お、おはよう」


 愛情たっぷりのキスをしている最中に目を覚ましてしまい、スカーレットは残念な気持ちを押し殺した。


「朝よ」

「うん。……なんか、ほっぺ、ヒリヒリする」

「そう。虫が湧いたのかしら」


 グリッドは、主人を見つめていた。


「さ、顔を洗ってらっしゃい」

「うん」


 眠い目を擦り、ユウが風呂場の洗面所に向かう。

 奥へ行ったところで、ようやくグリッドが口を開いた。


「……なに、やってんスか?」

「愛をぶつけていただけよ」

「愛って。夜這いじゃないですか」

「朝じゃない」


 しれっと言う主人に、疑惑の目をぶつける。


「愛のない行為は、ただの野蛮行為。けれどね。愛があるのなら、それは天使のたわむれと同じ、神聖な行為の一つよ」


 じっと見つめてくる生意気な従者を見下ろし、「なに?」と威圧的な声を発する。


「……何でもないっス」


 従者の立場では、それ以上のことは言えなかった。

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