従者の考え


 狭いアパートの一室は、玄関先にキッチンがあり、入って右側に風呂場がある。


 その隣りがトイレ。

 キッチン前はダイニング。

 ダイニングの隣がリビング兼寝室となっていた。


 六畳半のリビングで、三人は川の字になって寝ている。


 ユウが熟睡して、しばらく経った頃。

 グリッドは寝返りを打ち、ユウの隣で眠る主人に声を掛けた。


「スカーレット様」

「……なによ」

「今後、どうするつもりで?」

「どうするも何も。わたくしは、ユウくんと結婚するつもりよ」

「んもぉ」


 一度言ったら聞かない性格のスカーレット。

 グリッドは顔を両手で覆い、眉間に皺を寄せた。


「いつまでも、こんな生活続けられませんよ」

「不満かしら?」

「そうではなくて。ユウくんは、狩人の血を引いてるんですよ」


 スカーレットが黙る。


 狩人の血。――ギーズの血と呼ばれるものだ。

 血族の総本山はフランスにある。


 この血を受け継ぐものは、人間の中でも特殊な体質を持っていて、『毒で傷が癒える』という特性がある。


 毒は、水銀から、サソリや蛇の猛毒、神経毒を使ったものまで、多岐にわたる。

 だが、大抵は水銀を持ち歩き、他にはサソリやヘビの毒から生成されたものを使われている。


「普通の人間からすれば、平和な世の中じゃないですか。多少不自由があったって、普通に生きていけるんですから。死んだら、墓場を掘り返して、我々の仲間が食べる。火葬なら、骨をしゃぶる。そうやって、サイクルが回ってるんですから。……まあ、考えると、生きたまま食ってる奴だっていますけどね」


 ユウは顔をしかめて、目の前のふっくらした青白い胸に顔を埋める。

 スカーレットは愛おしそうに、優しく抱きしめた。


「でも、狩人となったら、話は別ですよ」

「……そうかしら」

「ええ。だって――」


 グリッドが悲しげに眉を伏せた。


「――と、獣が死ぬんですから」


 狩人は、普通の人間ではない。

 獣と人間の二極化で世界を見れば、圧倒的に人間が負けている。


 しかし、負けていても尚、狩人というのは厄介な存在であることに変わりはない。


 もしも、フランスの狩人のように、戦えるのであれば普通に近い日常生活を送れるだろう。


 ところがユウの場合、戦う術や能力がない。

 グリッドが言いたいのは、「先の事を考える時期がきた」、ということだ。


「だから、世界のかじ取りを後任に託したんじゃないの」

「知ってますけど。上手くいくのかなぁ」

「不安になる事を言わないで。殺すわよ」

「……やめてください」


 ママとお姉ちゃんにも、悩みがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る