ママと一緒にお風呂


 浴槽よくそうでジッとしていると、ユウは斜め後ろから視線を感じた。


「はぁ、……はぁ、……ユウくん」


 ママである。

 とろけ切った青白い顔は、いつもより紅潮こうちょうしていて、赤らんでいる。


 初めてではない。

 である。


(細い腰。ちっちゃい頭。汗ばんだ肌。どれもが人形細工のように精巧せいこうで、わたくしの子宮に恋をさせてくる)


 と、考えているが、できる事なら自ら手を出す真似はしたくなかった。

 ただし、いつでも受け入れOKだ。


 その主人の後姿を背後から見守っているが、グリッドである。


(またやってるよ。ほんっと、いい歳して発情なんて。あれがクイーンなんだから、世も末だよねぇ)


 忠誠心はある。が、自分の中での評価は嘘を吐かない従者である。


「ね、ユウくん」

「……なに?」

「背中、流してあげてもいいわよ」

「え、いいよ。自分で洗えるし」


 すると、スカーレットは真顔になり、明らかに落ち込む。


(あ~あ、フラれてる)


 口をつぐみ、上目で睨むようにして、スカーレットが言った。


「何で、断るの?」

「恥ずかしいもん」


 すると、スカーレットはおもむろに服を脱ぐ。

 脱いだといっても、半端なもので、下着とパンストだけは残した状態だ。


「これなら、恥ずかしくないわ」


 控えめに入ってきたママに驚いて、ユウは前のめりになった。


「入ってこないで!」

「お、お願いっ! どうしてもユウくんの背中を流したいの!」


 そんな主人の姿を見て、グリッドの頭にはある光景が浮かんだ。

 過去にキング派のリーダーと対峙した時、豪華な客間で相手の頭を踏みつけ、底意地の悪い笑みでこう言い放った。


『あっははは。懇願こんがんする者として、相応しい態度があるのではなくて?』


 そこで過去のリーダーは、悔しげに言った。


『はぁ、はっ、お、ねがいだ。私が悪かった。言いすぎたよ』

『そう? ふ~ん』


 少し考えた後に、口角を吊り上げ、スカーレットが笑う。


『駄目ね。あなたを許す気分にはなれないわ』


 足の下で、赤い飛沫が散乱した。

 硬い果実を踏みつぶしたように、硬い殻は破裂し、中の液体が床一面に広がっていく。


 敵と定めたものには容赦はしない。

 それがクイーン・スカーレットだ。


 それが、現在。


「お願いします。背中を、流させてください」


 狭い浴室のタイルで、プライドの高い女王様は土下座をしていた。

 義理の息子に頭を下げ、背中を流したいと懇願している。


 プライドの高いクイーンだが、ユウが相手だと、その鼻っ柱はすぐに折れてしまうほど、超が付くほど、溺愛できあいしていた。


「顔あげてよ!」

「じゃあ、……いいの?」

「うん」


 花開く乙女の笑顔で、スカーレットは正座をした。

 浴槽から上がり、椅子に腰を下ろすまでの間。

 ママは息子の成長を見逃さなかった。


 にんまりと笑って、ワクワクした気持ちになっていた。


「かわゆぅっ」


 洗剤をスポンジに染み込ませる間、ずっと無防備な背中から目を離さない。ツルツルの筋肉がまるでない背中は、母国で見たことがなかった。


 西側では、高校生となったら、もう肉体的にも大人同然である。

 ところが日本では、個人差はあれど、若々しい。


 その点、ユウは肉体的な成長がほとんどなく、天使そのものだった。


「はぁ~っ、スベスベしてる」

「……いいよ。そういうの」


 前かがみになり、チラッと後ろを窺う。

 水に濡れたパンストは光沢を放っていて、中には青白く、ムッチリと発達した大人のももがある。


 下着は赤色で、とても煽情的せんじょうてき


 相手がママとはいえ、目のやり場に困った。

 艶があり過ぎて、美しかった。


 その言葉を直に伝えるわけにはいかず、ユウはグッと堪える。


「しあわせ~っ。あはっ」


 ママは悦んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る