キング派の長


 巨万の富を持ち、イギリスのスコットランドに大豪邸を構える男がいた。


 名は、『ウィリアム』。

 キング派の現リーダーである。


 広い庭を一望できるテラスで、椅子に座り、部下からの報告を受ける。


「ギーズ家との会合の予定が決まりました。今から、ちょうど一週間後の昼にお会いするとのことでした」

「ご苦労」


 椅子から立ち上がり、柵に手を突いて、ウィリアムは険しい表情を浮かべる。


「ようやく、クイーン派の連中を隅に追いやることができる」


 悲願であった。

 クイーン派、とはその名の通り、スカーレットを筆頭にした派閥だ。


 キング派は、獣が中心の世界を作ること。

 クイーン派は、スカーレットを中心に世界を操作すること。


 この二つの違いがある。

 世界に多大なる影響を与え、実質経済や国際的な政界で、世界を牛耳るイギリスを押さえた時点で、獣は人間に勝っている。


 しかし、今度は獣の中で、二つの派閥が争っていて、キング派はスカーレットにイジメられていた。


 世界の根幹こんかんは、想像よりずっとシンプルだ。

 様々な要因が重なり、複雑に見えているだけ。


今、我々が台頭たいとうするべきなのだ」


 後ろに控えた部下は、達成目前を前に涙をこらえる。


「そのために、ギーズの血を得なければなるまい」

「抜かりありません。すでに、ギーズの分かれた血の現在地を絞っております」

「どこだ?」

「……日本です」


 顎を持ち上げ、ウィリアムは肺いっぱいに空気を吸い込む。

 フランスは狩人の総本山なので、手が出せない。

 だが、日本となれば話は別だ。


 例え、会合が上手くいかなくても、


 日本の人間には気の毒だが、日本は敗戦国。

 西洋列強にはすでに逆らえない昨今、実質陰から国を押さえつけているイギリスのバックアップがあれば、容易に兵隊を送る事ができた。


 何より、人間一人をさらうなんて、朝飯前であった。


「先に配置へ着かせたまえ。会合が終わり次第、すぐに血を持ってくるのだ」

「御意」


 頭を垂れ、部下の男はテラスから立ち去った。

 残されたウィリアムは何もない一点を睨みつける。


「この世界は、クイーンに渡してはならぬ。我々、キングが治める。そうあるべきなのだ」


 柵を握りしめる手に、力がこもる。

 手の平の中で、柵の一部が木のクズとなっていた。

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