友達の目


「ユウの姉ちゃんって、メチャクチャ可愛いよな」


 友達の『深田ふかだシンイチ』が、昼休みにそんな事を言ってくる。


 ユウにとっては、親友だ。

 中学時代からの付き合いで、ユウの家庭事情も知っている。

 出っ歯で、角刈りがトレードマークの友人は、卵焼きをモソモソ食べている。


「どこの国の人だっけ?」

「イギリス、だったかな」


 ユウは義母や姉代わりのグリッドの事を何回か聞いた事はある。

 けど、実は義母や同居しているお姉さんのことは、『親戚』という事以外は、あまり知らない。


 ズケズケと物を聞ける立場ではないし、可愛がってくれるだけで、ありがたいと素直に感じている。


 それにママはママ。

 お姉さんは、お姉さん。

 認識なんて、そんなものだった。


「イギリスって、何があったかなぁ」

「分かんない」

「んー、美味しい料理って何だ?」

「……分かんない」

「まあ、何にせよ。可愛いお姉さんがいて、羨ましいよ」


 ウインナーを食べつつ、にやけを抑える。


「そういや、おばさんの顔しばらく見てないな」

「あ、うん。遊びに来てないもんね」

「でも、俺、あのおばさん苦手なんだよ」


 シンイチが苦い顔をする。


「や、すっげぇ、美人だよ。見たことがないくらい。もう、人形じゃないか、って思ったくらい」

「う、うん」

「でも、こう、圧を感じるというか」


 ユウには分からなかった。

 だが、昔にユウをからかった時、本能に直接危険信号を飛ばすが如く、強烈な殺意を感じたことがある。


 そのせいで泣いてしまい、ユウと一緒に逃げたことがあった。


「ママは、不器用だから」

「まあ、愛されてて何よりじゃん」


 二人で笑いながら、ご飯を食べた。


 二人のいる教室から、かなり離れた位置に老夫婦の住む家がある。


 その家の真上には、しゃがみ込んで双眼鏡を覗く人影があった。

 スカーレットママである。


「……かわゆ」


 常に見ているママは、キュンキュンしていた。

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