5. あの人。
第20話
適当に誤魔化したと思ったけど、やっぱり白雪さんはそれを忘れていなかった。
確かに……、白雪さんなら気にしてるかもしれない。でも、それくらいは適当に無視してもいいんじゃないかな……。それはリレーが始まる前のことだった。俺が星宮さんに呼び出されて、人けのないところで話をしたことを……なぜか白雪さんは知っていた。
「早く答えて、なぜ二人が一緒にいたんだ?」
「少し話を……しただけで」
「なんで……?」
なぜか、理由を話したらすぐ怒られそうだった。
「その……、なんでもないです」
「…………」
「本当に……、何もなかったので」
今夜は白雪さんの家に泊まることにしたけど、ずっと我慢してきた彼女の欲求に体がすぐボロボロになってしまう。多分三回くらいやったかな……? 布団の中で俺を抱きしめる白雪さんに……、わけ分からない恐怖を感じていた。
「私以外の女の子と、人けのないところで話をするのがおかしいとは思わないの?」
「その通りです……」
「ねえ、私に言えないほど重要なことなの……?」
「いいえ」
「なら早く言ってよ」
「あの……、生まれてから初めて……、女子に告られました」
言ってもいいことなのか、それがよく分からなくて言えなかったけど……。
その顔を見るとどうやら気に入らない様子だった。
「ふーん。それで? なんって答えた?」
「普通に断りました。彼女とか……、俺には遠い未来の話です……」
「うん? なんでそう思う? 私は? 私は普通の友達なの……?」
「えっ……、白雪さんは……。その……」
ずっと俺たちの関係が曖昧だと思っていたけど、どうすればいい?
あの日から俺たちの関係はどうなったんだろう……?
俺たちは一応友達だけど……、こっそりそれ以上のことをやってきた。どはいえ、恋人でもない……そんな関係。俺は否定したかったけど、この関係を説明できる単語をすでに知っていた。口に出したくないから、ずっと言えなかっただけ。
「うん? 私は樹くんの何?」
「…………とも…」
「友達? お互いの体温がちゃんと伝わるほどくっついているのに、友達って言ってるの……?」
「じゃあ……、どんな関係ですか……? 説明できないんです」
「言ったでしょ? 今日」
「はい?」
「体育祭で、ちゃんと私は樹くんとの関係をみんなの前で話したから」
「じゃあ……、恋人ですか?」
「うん。初めてからそうするつもりだったよ。何? 文句ある?」
「いいえ……。俺なんかが白雪さんと付き合ってもいいんですか……?」
「なんかじゃないよ? 変なこと言わないで」
「はい……」
「樹くんは、大切な私の彼氏だから」
「はい……」
そのまま裸の二人は静かに……、ベッドでキスをする。
友達から恋人まで……、不思議。でも、俺と白雪さんはいつの間にかそんな関係になってしまった。わけ分からない状況……、俺は彼女に俺のどこが好きなのかすら聞けなかった。そのまま付き合ってしまって、その一言で俺たちは恋人になる。そして自信がなかった俺は……、ただキスをする時の感触を覚えるだけ……。
「ううん……。なんか、樹くん前よりもっとエロくなったような気がする」
「それ……、白雪さんが教えてくれたこと……だと思う」
「ねえ、私のこと美波って呼んでくれない……?」
「下の名前でですか?」
「うん。下の名前……」
夜の11時、部屋には俺と白雪さんの声しか聞こえないほどすごく静かだった。
俺はその細い体を抱きしめて、白雪さんと目を合わせる。
「み、美波……」
「うん。もう一回……」
「美波……」
「うん……。好き」
また……首を噛まれた。
……
そして翌日。白雪さんが体育祭で言い出したその言葉が、校内に広がっていた。
昨日彼女の家に泊まったから登校するのも一緒で……、下駄箱で周りのクラスメイトたちに睨まれている。
なんか、すごく不便だ。
「樹くん?」
「はい……!」
「何? 気にしなくてもいいって……、彼女でしょ? 今は」
「あっ……、はい」
「手」
「はい……!」
さりげなく手を繋ぐ白雪さんと、そのまま教室に入る俺だった。
「マジか……、あの二人が……?」
「ありえない……」
来た……、あの反応……。
やはり俺なんかが白雪さんと付き合うのはダメかもしれない。
「おっ! 雨霧! 白雪と付き合ってんのか!」
「あっ……、えっと……」
「うん。私たち付き合ってる」
「へえ……、いいじゃん。お似合いだから……! 水原もちゃんと見ろよ! いつも変な男と付き合ってるから心配だぞ」
「はあ? なんで、私の話をするのよ……!」
「水原がいつも変な男と付き合ってるから……? たまにはこの二人みたいな恋をしてみてもいいじゃん」
「……うるさいね! 私だって……、むっ! 知らない!」
なんか、水原さん怒ったような気がするけど……。
それより……俺たちみたいな恋ってなんだろう。
白雪さんの部屋でこっそりやっているのを、この人たちは知らないから……。言わない方がいいかも知れない。
「全く……、いつも喧嘩ばかりで……。中学生でもあるまいし」
「でも……、俺にできるのはこれくらいだからな〜」
「……はいはい」
「あっ、そうだ。今日あの人、来たぞ? 部室に行ってみたら……?」
「あの人……? え……、名前忘れちゃった……」
「
「だって、全然来ないから……あの先輩」
この4人で話すのは苦手じゃない……。
俺とは全然関係ない話だけど……、そこにいられる。不思議。
「じゃあ、私たちも行ってみようかな。樹くん?」
「は、はい?」
「部室に行ってみよう」
「はい……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます