第14話
さすがに、体育祭で何かをするのはまだ無理かも……。
でも、意外だったのは白雪さんがそれ以上を言わなかったこと。普段なら「私がいるから今年は一緒に何かをしよう」と言われるはずなのに。あの日……、白雪さんはただ黙々とお昼を食べるだけだった。そして「しよう」と言われた時に備えて、心の準備も済ませておいたけど、いつも自分が欲しいのをやらせる白雪さんが今度は何も言ってくれなかった。
「そろそろ……、教室に戻った方がいいんじゃないですか……?」
「もうちょっと……、続きが気になる」
「はい……」
俺の膝に座って本を読む白雪さん……。
いつもこんな風に座るからもう慣れたけど、なんか猫みたいに見える……。そしてちょっと暑い……。ずっとくっついていたからな。
「ううん———! やっぱり、部室で本を読むのはいいことだよね? どう思う? 樹くん?」
「は、はい……」
振り向く白雪さんが微笑む。
しかし……、こうやって後ろ姿を見ると……白雪さんの細い体が見える。ちゃんとご飯を食べてるのか心配になるほど、彼女は細い体をしていた。てか……ずっとあんなことをやってきたのに、今更それに気づいたのか。
「後ろからエッチな視線が感じられるけど……、樹くん我慢できないの?」
「えっ……? そ、そんなことないです。ただ、体が細いなと思って」
「ふーん。いつも見てるくせに今更……?」
「…………」
「私の裸姿なら初中見てるんでしょ? それを今更気づいたのは、ずっと私に集中していなかったってことだよね?」
「いいえ! いいえ……。あの……、やる時には顔だけを見ていたから……、それより恥ずかしいことは言わせないでください」
「ふっ」
そして頭を猫みたいに擦り付ける白雪さんが、俺の頭を撫でてくれた。
この人はどうして俺を大切にしてくれるんだろう……? あの図書館で会えなかったら、俺たちはこうならないはずだったのに……、俺は白雪さんから離れないようになってしまった。それは拒絶してもいいことなのに、気づけば白雪さんの話ならなんでも聞いてあげる俺がいて、なぜか見えない首輪をつけられたような気がする。
俺を見つめるその目が、ちょっと怖かったかもしれない。
「ねえ……! 二人とも、私はまだ反省文書いてますけど〜?」
「あっ、芽依いたの?」
「先からずっとここにいたよ! 私のこと無視しないで!」
「リレーに出たいならそれから終わらせて」
「……っ、本当に……彼氏のせいで私がいつも……」
「だから、あの人はダメってそんなに話してあげたのに。それは私の話を無視した芽依のせいだよ」
「うるさいね……。もう彼氏なんか作らないから!」
「そう?」
いつも忙しかったのは彼氏のせいだったのか……。
てか、学校をサボるくらいなら相手がヤンキーってことか……? いくらヤンキーだとしても……、普通なら学校をサボったりしないけど、水原さんは……成績もいい人なのにどうしてあんな人と付き合ったんだろう。俺の頭で考えてみてもよく分からないことだった。
「そういえば、今日クラスTシャツがくるらしい」
「そう? じゃあ、そろそろ行ってみようか? 樹くん」
「は、はい……!」
「私も!」
「芽依、反省文は?」
「……っ、ずるいよ! 私を置いて行かないで……」
「それはずっと部室に残された私が言いたかったことだよ? それから早く終わらせてね」
「はい……」
なんか、可哀想だけど……。
仕方がないこと。
……
「みんな! クラスTシャツきたぞ!」
「おお! やっと来たのか!」
ざわめくクラスメイトたちは、後ろに「南」と書いている白いシャツを着ていた。そして体育祭と一切関係ない俺も白雪さんに「着てみて」って言われて……、さりげなくシャツを着ている。なんか、慣れていないっていうかこんなの初めてだ……。
「あっ……」
「どうしましたか?」
「ううん……。ちょっと恥ずかしいのが丸見えになっちゃってね……」
「えっ! そ、それが見えますか?」
「ちょっとかな?」
「す、すぐ着替えます!」
初めて白雪さんとやったあの日から……、永遠に消えない痕ができてしまった。他の人には体がボロ雑巾みたいに見えるかもしれないけど……、白雪さんはこれを自分の「愛」だと俺に言ってくれた。白雪さんが大切にしたいのはずっと友達だった水原さんより俺だって……、キスをする寸前にそれを言われた。
「あっ! 白雪! 水原は?」
「委員長? 水原なら部室だけど……?」
「そう? リレーのことで話があったけど、今はダメか」
「ふーん。もうちょっとでくるかも?」
「ありがとう。おっ! 雨霧! 髪切ったな」
「は、はい……」
「いいぞ! 似合う!」
「……ありがとう」
この人、めっちゃ明るい……。
今まで俺に声をかけた人たちはほとんど白雪さんのことばかりで、知らないうちに委員長のことを警戒していた。
「あの人、明るいよね?」
「えっ? どうして?」
「委員長はいい人だよ。私と同じ中学校だったから、どんな人なのかよく知ってる」
「へえ……、そうでしたか」
「もちろん……、変なことはしてないから誤解しないでね」
「は、はい……。誤解なんかしてません」
「私には樹くんだけだから……」
向こうから二人を見つめるナナミ、そして体育祭が始まる。
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