4. 体育祭、注目を集める。

第13話

 髪を切ってから周りの反応が変わったような気がする。

 普段なら誰も声をかけない休み時間なのに、今はクラスの女子たちに囲まれて本を読めない状況になってしまった。一応窓側の席だから、人たちに囲まれてしまうと出られなくなる……。その質問にいちいち答えるのも面倒臭いのに……、なんでこんなことになってしまったんだろう。


「あのね。雨霧くんはどこに住んでるの?」

「えっ……? 学校からあんまり遠くないところに住んでます」

「へえ……! 私も私も! 近いところに住んでる!」

「は、はい……」

「ねえ! 雨霧くんはどうして敬語なの? 白雪と話す時もずっと敬語だったし。もしかして女子が苦手?」

「いいえ……。そんなこと……」

「なんでいつも一人で本を読んでるの? みんなと一緒に遊ぼうよ! 雨霧くん!」


 嫌なことばかり聞いてるからちょっと嫌かも、この人たち……。

 小説の続きも気になるのに……、この人たちの話が終わらない。俺を暗いオタクだと思っていた人たちがどうして今更声をかけてくるんだろう……。そして、その中には白雪さんと口喧嘩をした「星宮ほしみやナナミ」もいた。最近、よく俺の話をするって水原さんに言われたから……なるべく注意しないといけない。


「ねえ、雨霧くん……! そろそろ体育祭だけど、私と二人三脚しない?」

「はい……? いいえ。俺はそんなこと苦手なんで……」

「いいじゃん! 私、雨霧くんとやりたい!」


 全然知らなかったけど、もう体育祭の時期なのか……。

 中学生の頃には何もやってないから体育祭など気にしていなかったけど、今は高校生だから俺も何かをやるべきかな。


「いいえ……。だから———」

「あのね。無理って言ってるのに、どうしてそこまで執着するのかな……。日本語分からないの?」


 ざわざわしている女子たちの後ろから、白雪さんの声が聞こえた。

 そういえば、白雪さん…先部室に行ってくるって言ったよな。


「樹くん」

「はい!」

「待たせてごめんね」

「いいえ……。あの! 白雪さん……。この前に貸してくれた本、すごく面白かったです」

「そう? よかったね」


 白雪さんの登場とともに周りが静まり返る、やはり女子たちも白雪さんのこと……苦手なのか。

 先から積極的に話していた星宮さんも、今はじっとして何も言わない。


「それで、話は終わったの?」

「あっ……、うん」

「ごめんね。雨霧くん」

「いいえ……」


 彼女の一言は、まるで警告のように聞こえる。

 あの女子たちの悪口はしてないけど……、なぜかわけ分からない圧が感じられた。


「お昼一緒に食べようと私が言ったのに、急に芽依に呼び出されて。ごめんね……」

「いいえ。気にしなくてもいいです」

「優しいね」


 今日のお昼は屋上で白雪さんと二人っきり。

 教室を出る前に「部室じゃダメですか」って聞いてみたけど、どうやらよく学校をサボる水原さんが反省文を書いてるみたいで、今は邪魔しない方がいいと言われた。てか、普段から忙しいって言われたけど、他の意味で忙しそうな気がする。


「天気いいね。樹くん」

「はい。本当にいい天気ですね」

「そういえば……、先体育祭の話をしてたよね? あの女子たちと」

「あっ……、はい。星宮さんが俺と二人三脚がやりたいって……、いきなりそんなことを言われてすぐ断りました」

「うん。よくやった。そんなことはすぐ断るのよ。分かった?」

「はい……」


 白雪さんはこんな風に、自分以外の女子と何かをするのを嫌がる。

 水原さんは信頼できる人だから何も言わないけど、この前に口喧嘩をしていたせいか、星宮さんのことはすごく警戒していた。俺もあんな人は苦手だからあんまり近づかない方がいいと思う。でも、やはり人と関わるのはすごく疲れることだった。


「それで、体育祭で何がしたい? 樹くんは」

「何もしたくないですけど……?」

「なんで……? せっかくの体育祭なのに?」

「中学生の頃にも、ずっとみんなが頑張る姿を見つめていただけで……」

「今年は私がいるのに、やらないの?」

「それは……。あの、ちなみに白雪さんは何を?」

「私? 男女混合リレー」

「へえ……、すごいですね!」

「えらい?」

「はい! すごいです!」

「じゃあ、頬にチューして」


 うん……?


「…………どうして、そうなるんですか……?」

「誰もいないから? 早く」

「は、はい……」


 まだお昼も食べてないのに……、俺は白雪さんの頬にキスをしてしまった。

 クラスの男たちが言う彼女って、もしかしてこんな感じかな……。


「ふふっ。もう私に慣れた?」

「いいえ……まだ」


 ……


 そして教室。


「何? あの女、自分がみんなに人気あるから調子に乗って……」

「でも……、白雪はみんなの憧れだから。そして男たちも白雪にずっと振られてるけど、それでも好きって言ってるし」

「あの人のどこが好き? 分かんない」


 この前、美波に睨まれたことを思い出すナナミ。


「で、あの二人まだ付き合ってないのに…どうしていつもくっついてるの?」

「あの二人、下校する時も一緒だったよね? 下駄箱で待つのを何回見たことある」

「雨霧くんがあんなにカッコいい人だと知らなかったから……。あ……! 先に声をかければよかったぁ……」

「暗いオタクって言ったのはナナミでしょ? 今更?」

「でもね……。後ろから気持ち悪いオーラが感じられたから……。だから、あの時はちょっと……」

「へえ……。じゃあ、また声をかけてみたら?」

「ううん……。雨霧くんは……白雪の話にすぐ反応するけど……。なんで……? なんで私のことはすぐ無視するのかな」

「何それ? ワンちゃんなの? あはははっ」

「でも、それが可愛いっていうか。なんか、従わせたいっていうか……」

「ふーん。でも、ナナミって白雪に勝てるの?」

「知らない……。ムカつくからもう言わないで、そんなこと」


 お昼を食べながら、樹と美波のことを話す女子たちだった。

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