3. 新しい部員、水原芽依。

第9話

「暑い……」

「そうですね」


 暑い夏の昼休み、俺は白雪さんと部室に向かっていた。

 やっと夏服に着替えてその暑さから解放されるのかと思ったら、真夏の天気にすぐ汗をかく。部室にはエアコンがないし……。白雪さんはずっと俺のそばで本を読む予定だから、体の変な匂いを彼女に嗅がせたくなかった。


 とはいえ、ほとんど白雪さんのせいだから……。

 暑い日にくっつくのはやばいと思う。


「あれ? 樹くん、こっち見て」

「はい……?」

「これ……」


 白雪さんが指したところには、何かが書いている紙が三枚置いていた。

 わけ分からない数字とアルファベット……、それに何かを言ってるような日本語まで。この暗号っぽく見える文字には他の意味が隠れてるかもしれない。なぜか、そんな気がした。それで、それが何を意味するのかは今から考えてみないと……。


「うん? これは……芽依めいの手紙かな?」

「誰ですか?」

「芽依は同じミステリー研究部の部員だよ。新しい部員が来たよって言ったら、樹くんと会いたいって言ったけど、あの子基本忙しいからね」

「へえ……、そうですか」


 そして再び紙を見つめる俺だった。


 一つ目の紙には大きい長方形一つと小さい長方形二つが描いていて、大きい長方形の中にはなぜか『Ⅲ』が書いていた。

 これはもしかして数字の『3』なのか……?


「樹くん、これは……?」

「えっと……」


 そして二つ目の紙にはアルファベットが『A<B<C=D』と書いていて、その下に『ただし、Aは学校で一番涼しい場所』と書いていた。


 学校で一番涼しい場所を『A』って言うのか……?

 涼しい場所……? もしかして図書館か? そこならエアコンもあるし。


「このABCDは多分特定場所を示す可能性が高いです。Aが学校で一番涼しい場所って言ったから……」

「だよね? それで……学校で一番涼しい場所なら……図書館かな?」


 やはりそうなるよな……? 今のところではそれ程度しか思い出せないけど、そうなるとこの長方形はいらなくなる。


「そして最後の紙には何が書いてあったの?」


 最後の紙にはなぜか『私は、叫びます』と書いていた。


「私は……、叫びますって」

「何それ……? 叫びますって……」


 席に座って考えてみた。

 大きい長方形の『Ⅲ』と『A<B<C=D』……。

 これが特定場所を示している手がかりなら、最後の『私は、叫びます』はなんだろう……? その文章をありのまま受け入れてはいけないような気がする。なんか場所は教えてあげたから、その場所に行く理由を教えてあげるって感じだ……。


「ふーん……。面白い問題だね。樹くんは解けそう?」

「か、考えてみます」


 そして俺は三階の『音楽室』と『化学準備室』を思い出した。


「あの、俺なりに考えてみましたけど……」

「うん」

「音楽室と化学準備室。選択肢が二つあって、俺は遠い音楽室の方に行きます。それで……」

「うん。私は化学準備室の方に行くね」

「はい」


 それが合ってるかどうか……、俺には自信がなかった。

 ただ……、急いで音楽室に向かうだけ。


 一つ目の紙、そこに描いている長方形は間違いなくこの学校を示している。

 大きい長方形は学校の先生や生徒たちがいる本館で、小さい長方形は別館と体育館だと思う。そして別館と体育館には本館と違って『Ⅲ』という文字が書いていなかった。それは多分その建物が三階まで建てられてないから書けなかったと思う……。


 だから、その紙が言ってるのは『本館の三階』だ。


 二つ目の紙に書いているわけ分からないアルファベット。

 それは『A』が涼しい場所だと教えてくれたからなんとなく思い出したけど、三階には『職員室』『音楽室』『化学準備室』そして『生徒会室』がある。一番涼しい場所はもちろん先生たちが仕事をしている『職員室』で、その次が『生徒会室』。そして残りの『音楽室』と『化学準備室』にはエアコンがない。


 音楽室は実際授業で行ったことがあるから分かる。

 そして化学準備室にエアコンをつけるわけないから、この二ヶ所だった。


「はあ……、はあ……」


 それで『C=D』は冷房をつけないから一緒ってこと。

 でも、どっちが正解なのかは分からなかった。

 最後の『私は、叫びます』はなんだろう……? それを解けないと……正解に辿りつかない。


 ドン…………!


 まずは音楽室に着いた。

 そして扉を開けた時、カーテンを閉じた薄暗い音楽室が見えてくる。


「間違ったのか……、こっちじゃなくて……。化学準備室の方だったのか……?」


 部室とは正反対の方向だから急いで走ってきたけど……。

 まあ、白雪さんの方が正解だったらそれでいいかもしれない。


 ドン…………!


 いきなり扉が閉ざされた。


「はっ? なんだ……?」


 そして誰かが俺の肩を叩く。


「だれっ———」

「ふっ」


 振り向くと、誰かの指先が俺の頬を刺していた。

 罠……? 罠かこれは……。


「こっちが正解。君ならきっと美波ちゃんを近い化学準備室に送るはずだと思っていたからね」

「だ、誰ですか?」

「私? 私は水原芽依みずはらめい。美波ちゃんの友達で、同じミステリー研究部だよ」

「あ、同じ部の!」

「うん」

「で……、なんで、こんなことを……?」

「誰もいない場所で、君と話がしたかったから」

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