第1話
俺の名前は
いや、そうなりたい人って言った方がいいか……。中学生の頃はいろいろ面倒臭いのが多くて、今は何も起こらなくてもいいから、高校生活を一人で静かに送りたかった。なるべく、クラスメイトたちとは距離を置いて、俺なりの適切な距離感を維持したい……。
でも、俺みたいなやつとは違って高校生活を楽しみたいやつも多いよな……。
目の前のあの人みたいに……。
「あの……! ぼ、僕は白雪さんのことが好きです」
マジか……、なぜ俺の前に告白の現場が……。
そこで告られている人は
クラスの中で静かに、一人で読書をするのが俺が知っている彼女のイメージ。
黒髪ロングで、スレンダーな女子。クラスでざわざわしている男たちがよく彼女のことを清楚系の女子って言っている。スカートの長さもちゃんと学則に従って、学則に反することは一切しないみんなの模範になる生徒。それが白雪美波だった。
「ごめんね。私は彼氏作る気ないから……」
「そ、そっか……。ごめん」
一応、図書館に行くためにはこの廊下を通らないといけないけど……。
早く終わらせてくれないかな……。
「……じゃあ、うん…。行くね」
「…………」
そのままどっかに向かう白雪さんだったけど、振られた方はショックを受けてずっと俯いていた。入学してから八人目か……。それより必死に断ってるのに、それでも告白をしようとしている人たちもある意味ですごいと思う。
とはいえ、俺とは関係ないことだから……無視した。
それに今日は読みたかった本が返納されるって図書委員に言われたから、急いで図書館に向かうことにした。
「…………あの、この前に『黒の扉』って小説が今日返納されるって言われましたけど」
「はい。ちょっと待ってください」
「…………」
静かだ。だから、図書館は好き……。
「すみません。確かに、今日返納される予定ですけど……まだですね」
「あっ……、そうですか?」
「すみません。黒の扉、持ってくるのをうっかりしました。今……、うん? 同じクラスの雨霧くん?」
そして後ろから白雪さんの声が聞こえた。
てか、めっちゃ借りたじゃん……。見た目でおよそ10冊くらいだけど、本当に本を読むのが好きだったんだ。白雪さんは。
「こんにちは、白雪さん」
「黒の扉、今部室から持ってくるから……。うっ……」
確かに10冊くらいならけっこう重いはず……。
「半分持ちます」
「いい……?」
「あの、先黒の扉が部室にありますって言いましたよね?」
「うん」
「一緒に行ってもいいですか?」
「構わない」
今日は初めて白雪さんと話をした。
でも、やはりこの人の特有な言い方っていうか……話しただけでその冷たい性格が見える。
「ごめんね。本を持たせて」
「いいえ」
一階から部室がある四階に着くと、扉の前に「ミステリー研究部」と書いていた。
そしてその片隅に「研究しない」と小さく書いている。一体、何をする部だろうと思いながら入った部室の中には、いろんな本がたくさん置いている小さな図書館みたいな感じだった。カーテンを閉じて薄暗い雰囲気を演出し、その真ん中の机にはランプが置いている。これ、ミステリーじゃなくてオカルトとかじゃないのか……?
「ねえ、雨霧くん」
「はい」
「本好き?」
「はい。好きですけど……?」
「興味があったら、うちの部に入らない?」
「あ……、考えてみます」
「そう? ありがとう。はい、これ黒の扉」
「ありがとうございます」
白雪さんに黒の扉とともに、ミステリー研究部の入部届ももらってしまった。部活なんか、まだ考えたことないからよく分からない。あれ以来、人と関わりたくなかったからずっとこんな風に暗いオタクを演じているけど……。部活みたいなこと、俺ができるかな。よく分からなかった。
高校生になってから前髪を伸ばして、ずっと「来るな」ってオーラを出している。
誰とも関わりたくない……、人と何かをするのが怖い。
だから……、白雪さんからもらったその入部届もすぐゴミ箱に捨ててしまった。
……
「また振られたのかよ……! これで八人目だぞ」
教室に戻ってくると、先振られた人が友達と話をしていた。
先生に自習って言われたから、特にやることもないし……。先借りた本を読みながら、あの人たちの話を盗み聞きすることにした。てか、俺も聞きたくないけど、すぐ隣で話しているから仕方がない……。
「どうしたら白雪と付き合えるんだよ……! 本当に分からない。白雪、クラスの女子たちとあんまり話さないから、何が好きなのかも聞けないしな……」
「そろそろ諦めろ……。お前だけじゃなくて、二年や三年の先輩たちも白雪に振られたぞ?」
俺にはよく理解できないことだった。
振られたら、他にいい人を探せばいいんじゃないのか……? 振った相手を振り向かせる方法など考えても無駄だから、いっそ他の女子と付き合った方がいいと思う。それは不効率的なこと……、振り向かせるのができるなら最初からそんな悩みなどしないはずだ。
「来たぞ! おい」
「…………」
そして白雪さんが教室に戻ってきた時、すぐ彼女の方を見つめる男たちだった。
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