第31話 でかぶつ

 どうする。

 考えていた時間は一瞬だった、だがその一瞬を目の前の魔物は待ってくれない。


 気づくと距離は縮まり、適当な大きさの岩をつなぎ合わせたような腕を振った。

 咄嗟に短剣でガードしたが体は飛ばされた。


 まずい、このままじゃ。


「危ない!」

「っ!」幸い飛ばされはしたがすぐ走れる体勢だ。

 走りながら短剣の鞘を外し、水斬りをあのでかぶつにぶつけるが、表面の岩を少し削る程度。


 それでもあのでかぶつが次の攻撃をする前「くっ!」短剣と鞘を左右で持って腕に立ち向かう。

 足と地面がこすり、跡が残るほど踏ん張ったおかげか派手に飛ぶことはなかったが、後退はさせられた。

 さすがに短剣で止めるのは無理があった。



 それでも、黒瀬さんは無事で魔物たちと距離を取っていた。

 あの拳だったらガードできたかもしれないが。



 周りには他の魔物もいる、どうすれば。 



 ……! 名案と呼べるような案ではないがもしかしたら。


「黒瀬さん、俺が魔物を引き付ける、そのスキにあのでかぶつに攻撃してくれ」ボデロックを倒せたあの拳ならあるいは、最悪倒せなくても町から離して洞窟内で巻いて状況を立て直すこともできる。


「……ああ了解」距離を取っている黒瀬さんは頷きながら了解してくれた。

 よし、やるか!



 右手に短剣、左手に鞘を持つ、進む先は洞窟の奥。

 水斬りを当てて意識を俺に向けさせる。

 よし、でかぶつは俺に注意が向いている。

 それはいい。



 だけど問題はある、周りにいるゴブリンだ。

 俺に注目している内はいい、だけど逃したら黒瀬さんも対処するだろうがそれも限界がある。

 現状、数は多くないが奥から1体2体と来ているのを見れば恐らくまだ来る。

 一体どうしてこうなったのか考えたいが終わったらだな。


 とにかく町に近づけさせる訳にはいかない。

 そのためにも、洞窟の奥に行ってでかぶつ共々引き付ける必要がある。


 だが通路の状態はでかぶつが中央で腕を振るい、その周囲にゴブリンが散らばっていて簡単に通れそうにない。


 まずは周囲の魔物から、水斬りをゴブリンたちに撃って邪魔されない通路を作る。



「はっ!」

 適度な距離を保ちながら水斬りを放つ。

 前のおとりの時と違って地面に当たるのは少なくほとんどがゴブリンの体や腕を切った。


 すぐに走り、できた通路を通り抜ける。


 ゴブリンがいなくなっても、でかぶつは中央に陣取っている。

 上空から振り下ろされる岩の腕を先に進むことで避け、そのまま地面に叩きつけられた腕を払った攻撃を飛んで避ける。


 敵味方関係ない攻撃。


 俺の周りにいたゴブリンはほとんどが巻き添えを食らって無惨な姿になっている。

 そもそも他の魔物を味方だと思ってないのかもしれない。

 非情だが、こっちとしては好都合だ。


 ゴブリンが少なくなったおかげででかぶつの攻撃にだけ注意して奥に進み「はっ!」水斬りをでかぶつに当てる。

 大したダメージはないが俺に意識を向けさせるためだ。


 町付近に近づきそうなのは黒瀬さんがやってくれてる、数は少ないから心配ない。



 俺はでかぶつが付いてこれるような速度で走り、前方と後方を同時に注視しながら進む。



 すると瓦礫が見えてきた。

 いやさっきから見えていたが目の前の状況に対処するので精一杯だったからはっきりとは見てない。

 それが嫌でも目に入るところまで来た。



 崩れた瓦礫は地面に散らばり剣やハンマーも見える。

 そして人も倒れていた、生きているのか死んでいるのかは分からない、一面血で真っ赤というわけでもないからまだ救いはある。



 できるだけ倒れている人に近づかないよう離れたが、瓦礫を漁るように徘徊しているゴブリンを数体見つけた。

 近づかないよう水斬りを放ち倒す。



 だが、瓦礫が散らばった地面は思うように動けず、倒れている人に当たらないよう狙いを定めるために少し止まってしまった。



「っ!」またも上空から振り下ろされる片腕に今度は避けることもできず短剣で受け止めてしまった。



 そのまま体がペシャンコになることはなかったが。

 重いっ「ぐっ」弾き返せるか、これを。

 まずいゴブリンが近づいてきてる、このままじゃ。


「足を叩く!」黒瀬さんの声が聞こえ同時にガンッという音も聞こえる。

 直後、上からのしかかる重さが軽くなった。

 今まで俺を潰すためだけの腕が少し上がった。


 すぐに腕から出て、ゴブリンを倒す。



 でかぶつは上げた腕を黒瀬さんに向けようとしたが「させるか!」水斬りを放つ。

 また片腕が俺に振り下ろされる。

 事前にゴブリンは一掃したから、今度はしっかりと回避。



「はっ!」ガンッガンッ「っ! 削った!」その言葉のすぐ、でかぶつはぐらっと揺れた。


「危っ」咄嗟に距離を取るが俺に向けて倒れてくるようなことはなく、片腕の拳を地面につけて自重を支えるようなポーズをした。


 見れば片足の、人に例えるならアキレス腱みたいなところが削れている。

 岩をつなぎ合わせたような体だが効いているらしい。


 自分の片足をやった人間を探しているんだろうか周囲を見ている。


 俺は水斬り短剣を鞘に入れしまい、落ちているハンマーを両手で持って跳躍。

 でかぶつの頭に向けてハンマーを振る。


 ガキンと音が響く。

 体の向きを直し腕で防御してきた「もう片足を!」

「了解」ガンッガンッと音は響き、俺はハンマーを振り続け。




がくん! とでかぶつのバランスは崩れそのまま頭から倒れた。


「はあ!」ハンマーを頭にぶつける。黒瀬さんも拳を使って殴っていた。



 どれだけそうしたか、ゴブリンも倒しながらハンマーで叩き続け、でかぶつは動かなくなった。



「はぁ」ガランと、持っていたハンマーが地面に落ちた音がした。



 どうしてこういつも急に何かが起きるんだろうか、人生とはそういうものなのか……いや今そんな小難しい話はいい。


 周囲を見て他の魔物がいないか、でかぶつに誰か押し潰されていないか確認した。


 魔物は倒し、倒れている人には近づかなかったからどっちも問題なかった。


 黒瀬さんも似たようにでかぶつの下を見ていた「目で見て誰もいないのは分かったけど一応」らしい。

 よく見てるな。



 再度周りを見て、倒れている人に近づいたとき。


「そいつを捕まえてくれ!」町の方から聞こえてきた。


 今度は何だ。


 顔を声がした方に向けると男が走ってきていた。

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