第30話 今の危機

 町に戻ったら魔物の死体を運んだり、怪我人に肩を貸したり。

 そしてすぐに怪我人の治療がされた。


 ただ俺が思っている治療とは少し違い何か飲んでいた。

 緑色の液体だ。なんだあれ?



「気になります?」同じく魔物を運んでいた黒瀬さんが聞いてきた。

「なります」

「薬草って呼ばれる草をなんか色々して作った薬です」簡潔な説明だった。

「なるほど」飲んだ人は少し楽になっているように見える。

 かすり傷も見えるところはゆっくりだが治っている。



「魔法管理所で飲んだことないんですか?」

「ないです」施設であれを飲んだことはない、施設で飲めるのかも知らない。

 飲むほどの大怪我をしたことがないというのもある。

 魔道具探しと能力者探しが主だったから。


 思い返せば、魔道具持ちの能力者と戦ったり、アジト襲撃に参加したり、最後のはイレギュラーが多かったな。まあどれも戦果が中途半端なのは、俺らしいとも言えるか。



 それから色々聞いてみると魔石みたく薬草も地下空間やダンジョンにあるものなんだとか。

 ただ魔石と違って草が生えているところにあるから、ここでは採れない。


「品質が高いのは作るのが大変だと、飲める人は限られるらしいですね」


 一瞬、限られた人に立花さん、秋山さん、渋谷班長が思い浮かんだ。

 そう思ったことが察せられたのか「思い当たる人でも?」と聞かれた。

「……いるけど飲めるかどうか想像でしかないかな」立花さんたちが実際飲めるかどうか分からない、そもそも施設に流通している物かどうかも不明だ。



「おーいこっち手伝ってくれ」喋りすぎた。

「黒瀬さん教えてくれてありがとう。今、行きます!」お礼を言って俺は声のする方に走っていった。


 魔物を運んだりしていたらそれなりに時間が経っていた。

 そもそも魔物討伐自体あまり時間はかからなかった、事前の作戦会議や終わった後の魔物を運んだりとかの方がかかった。

 そんなもんか。



 俺は休憩プラス着替えということで自分の部屋に戻ったが「本当にいいんだろうか」手元にある魔道具を見る。

 長から一時的に携帯を許可された。


 怪我人もいるし、もしものときに備えてだろうが監視もなく閉じ込められずという状況で魔道具を持てている。護衛のときは持っていたけど俺1人ではなかった。


 今は1人。

 少し緊張するな。

 それなりに信用されているのだろうか。


 とりあえず着替えよう。何が起きるかわからない、できることはやっておこう。




 着替えに時間はかからなかった。

 次の警備の時間までどうしようかと考えていたら。




 音が聞こえてきた。何かを壊すような轟音が。




「!」なんだ、と思うと同時、外に出る。

 休憩してから数十分も経ってない気がする。



「きゃああ!」悲鳴も聞こえてきた。

 あっちか! 


 高い悲鳴は集合所1の方向から聞こえてきた。

 轟音や悲鳴がした方向から人が走ってきている。

 そのせいか不思議と走る速度がいつもより速いように感じる。


「はぁはぁ」

 町は広くない。

 すぐに悲鳴を上げたであろう本人を見つけた。


 目に飛び込んだのはうつぶせで地面に倒れている少女。

 立ち上がろうとしているところを見ると何かにつまずいて転んだんだろう。


 あの子、鬼ごっこのときにいた子だ。


「!」なんで。

 うつぶせで倒れている少女の後ろ、俺から見て前に。


 ここ最近やたらと見かける。

 だけど町で見たことはない、見るはずがない存在。



 若干猫背気味で手には棍棒を持っているゴブリンが3体いた。


 その内の1体は石でできた棍棒を持って腕を天高く掲げ、少女に迫っている。

 どれぐらいでゴブリンが少女に棍棒をぶつけられるまで近づくか正確には分からない、ただ数秒もすればたどり着くのは確かだ。


 そうなれば地面に赤い液体が流れる。



 間に合うのか。

 そう思った瞬間。






 ゴブリンが吹っ飛んだ。


 拳をぶつけ間に入り。

 少女を守るように立っている。




 黒瀬さんは何も持たずゴブリンを倒していた。


「っ!」何も考えず、足は動く。


 もう1体は黒瀬さんが対処している。

 俺は残る1体に近づき、振り下ろされる棍棒を避け短剣の鞘を頭に突き刺し離れる。


 ゴブリンは、ばたんと倒れた。

 黒瀬さんのほうを見るとあっちも終わっていた。

 だけど、まだ奥にいる。


「はあ」後ろから声と呼べない声が聞こえてきた。

 振り返ると少女がゆっくりと首を振りながら口を開けていた。


 少女に近づく「立てる? よし……あの! この子を連れて行ってください」近くにいた人に少女を連れて行くようお願いした。


 すると少女は小さく頭を下げた。

 ここにいる子はやたらと礼儀正しいな。



「あの子の護衛をしてもよかったんですよ?」俺を見ず、目線をゴブリンに向けながら黒瀬さんはそんなことを言ってきた。


「魔物から町を守るのが仕事なので」それが今、俺がすべきことだ。そうそのはずだ。


「そうですか」彼女は近づいてきたゴブリンの攻撃を避け素手で攻撃した。

 ただの拳だが、その攻撃でゴブリンを地面に倒れさせた。

 本当、どういう拳をしているのか。


 俺も負けてられない。

 ゴブリンに接近して短剣を頭に突き刺す。

 ざっと見渡して魔物の数は多くない、町の中心まで入り込むことは防げそうだ。


「他に戦える人は?」なんで黒瀬さんしかいないんだろうか。

 怪我人は確かにいたけど、1人だけで任されるほど多いわけでもなかったはずだ。


「壁近くにいるはず。ただ私も何が起きてるか」

「俺もだ何が何だか」ただ魔物が町に入ってきたのは事実で、それを倒すのが俺の役割だ。



 俺たちは周囲を見て他の魔物がいないことを確認して、壁がある方に向かった。

 あっちから魔物が来たから危険かもしれないが確認しないと。


 黒瀬さんも同じ考えだった。一緒に走って先に進む。


 後ろから聞こえてくる困惑や恐怖が混じった声が徐々に遠くなっていった。




 道中、何かが崩れる音が聞こえた。

 想像したくないことが頭に浮かぶ。

 それでも足を止めることはしなかった。




「想像以上だな」数メートルはあろうかという岩が動いていた。

 まるで、でかいボデロックのようだ。

 こんなでかさの魔物、壁が存在しているなら通ることはできない。

 ふと視線を奥にやると瓦礫があった、何の瓦礫か考えてなくても分かる。


 不思議と、前に潜りスレンダー魔物に出会ったダンジョンを思い出す。

 急襲されてないだけましだろうか。

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