第29話 魔物討伐計画
俺は魔道具を持って魔物がいる場所、ダンジョンに入る。
魔物討伐に参加する人たちも一緒に奥に向かって歩いている。
魔物討伐計画の作戦は、まず俺と黒瀬さんがゴブリンとボデロックを引き付ける。
ゴブリンとボデロックだと足の速さが違うからしばらく引き付けて分断させる。
分断したボデロックは別のチームに倒してもらって、俺たちはゴブリンを十分に引き付けて後ろから奇襲もしてもらって倒すというのが作戦。
俺と黒瀬さんの役割はおとりだ、ゴブリンとボデロックを引き付けて分断させて最後にゴブリンを倒すんだけど、チラッと黒瀬さんを見る。
なぜ、おとり役なんだろうか。
「何ですか?」視線を感じたのか怪訝な表情で見てくる。
「黒線さんと一緒なのは久しぶりだなーと」いや、最初の護衛が1週間程前と考えたら言うほど久しぶりでもないか。
何を言おうか迷って変なことを口走った。
「ふーん……足の遅い私がおとり役なのは疑問ですか?」
「疑問ってほどでは、足も遅くはないと思ってます。なんで、おとりなのかなと単純に思って」子どもたちが色々言うほど足は遅くないと思う、鬼ごっこで走ってるときを見たらそれは分かる。
ギリ子どもたちに追いつけるか追いつけないかぐらいだった。
ゴブリン相手なら普通に逃げられるだろう。
それは黒瀬さんも思っているようで「ゴブリンやボデロック相手に追いつかれるほどじゃないです……それに、それなりに戦えますから。おとりといっても最終的に戦うので」
「なるほど」黒瀬さんの強さを見たから、心配はあまりしていない。
作戦自体が上手くいくかどうかは分からないけど。
「いっそのこと全員で魔物に突撃はしないんですね」油断するつもりはないが、武器も人も揃ってるならできそうだよな。
いやさすがに厳しいか。
「さすがに乱戦になったら厳しいと思いますよ。引き付けて分断して、後ろから急襲できるならそっちのほうが。やろうと思えばできなくはないでしょうけど」
あれだけの数の魔物は見たことないが、やろうと思えばできなくはないのか。
ふと前のダンジョンで戦ったでかいのを思い出す、あのでかいのがいればまた話は別なんだろうな。
「ゴブリンやボデロック以外の魔物もいるんですかね? 例えばでかい魔物だったり」
「……いますよでかい魔物も下に行けば。詳しくないですけど」詳しくないなんて言いながら色々と教えてくれる。
ゴブリンのでかい版、ボデロックのでかい版などなど。
なんというか鬼ごっこのときもそうだけど「優しいですね」ふと口に出た。
「……ぜんぜん」なんてぶっきらぼうに返ってくる。
周りの人はくすくすと笑っていた「……」無言で鋭い視線を向ける黒瀬さんの圧で笑い声は止まったけど。
そんな緊張感の欠片もないような会話をしていても足は進んでいる。
もうすぐ着く、そしてこれから少なくとも20体の魔物に追いかけられることになる。
「皆、所定の位置に。自分の役割を忘れるな、それでいて柔軟に動け」号令で各々散った。
「行きますか」
「ええ」俺と黒瀬さんも魔物の巣窟に向かった。
「すごい数」岩に隠れながら見るがやはり多い。
30体以上はいる、ゴブリンが半分以上いるだろうか。
どっから湧いてきたんだ。
「やります」俺は隠れていた岩から体を出した、魔道具を取り出し水斬りをゴブリンに向けて放つ。
水斬りはまっすぐと、地面に当たった。
つまり外した。
だが外そうと地面は傷つき、音は出る。
ゴブリンたちは襲撃者を探そうとキョロキョロ周囲を見てついに俺を見つけた。
瞬間、ゴブリンとボデロックが走り出した俺たちのところに。
おとりが始まった。
しっかりと引き付けながら俺たちは逃げ出す。
後ろにいる魔物は……引き付けられてるな。
時折、振り返り水斬りを放つ。
ゴブリンを切ったり、かすったり、外したりしながらも注意は引けている。
「1人だけで倒し切れるじゃないですか」横にいる黒瀬さんも後方を見ながら聞いてきた。
確かにこのまま続けていればそれなりに倒せはするだろう。
今は走ってそこそこ距離を取っているから外しているけど、止まりながらならそこそこ当たるだろう。
だけど「運が良ければかな。魔法を当てるなら立ち止まりたい、するとどうしても目の前の魔物に集中しちゃう。周りに意識がなくて後ろから魔物が来たら、ちょっと危ない感じに」
「なるほど。周囲に護衛がいればなんとか?」
「それもどうだろう」そこまで俺の戦闘力を評価する人がいるか、俺自身も正直倒しきれる自信はあまりない。そもそも護衛がいたら1人とは言えない。
なんて会話しながらもしっかりと後ろを見る。
結構引き付けてる、20体以上はいるな。
ボデロックとも分断できてる。
順調だな……もうそろそろか。
後ろから響く足音と叫び声、恐れず先に進み開けた場所に出ると「行くぞ!」隠れていたチームがゴブリンを後方から奇襲した。
突然の増援に対処しきれていないゴブリン。
俺たちももちろん逃げるだけじゃなく戦闘に参加する。
魔道具である短剣を鞘にしまい接近、混乱しているゴブリンに突き刺す。
「はっ!」黒瀬さんも手に持っている剣を使って戦っている。というか素手でゴブリンの攻撃を受け止めているときもある。すげえ。
結局、俺が3体のゴブリンを倒している間にすべてのゴブリンが倒されていた。
なんというか上手くいった、あっけないとも言える。
怪我人もいるにはいるが、死者はいない。
思ったより作戦通りに進んだ。
「どうですか、1人で倒せそうですか?」黒瀬さんが聞いてきた。
「厳しいですね」上手くはいったがやっぱり奇襲とボデロックを引き付けている人がいるというのはでかい。
「そうですか。後方の様子を見に行きましょう」
そうだ後方のボデロックのほうがどうなったか分からないか。
俺たちは急ぎ進んだ道を戻ったが、その必要がないということもすぐに分かった。
地面には割れた岩が転がっていた。ボデロックの残骸だろう。
そのまま大量の魔物がいたところまで戻る。
さっきまで魔物広場と化していた場所は、ただの開けた場所になっていた。
いるのは人だけ、ただその人たちの中には怪我している人もいた。
なんでも引き連れきれなかった数体のゴブリンやボデロックがいたらしく、それを倒そうとしたら奥に隠れていた魔物に不意をつかれ怪我人が出た、幸い死者は出なかったらしいが。
それでも中には、早く町に戻って治療したほうがいいような、倒れていたり血が出ていたりする人もいる。
もうちょっと水斬りを撃つべきだったかもしれない。
そう思っていたらリヤカーがやってきた「自力で立てそうにない奴はここに乗らせる」なるほどそのためか。
協力して倒れている人たちに肩を貸しながらリヤカーに乗せる。
ふと地面を見るとさっきも見たような岩が転がっている。
ボデロックの残骸だろうか、いやボデロックの残骸にしては岩が大きいような。
岩の表面の一部に光っているのが見えた。
宝石? 魔石? どっちか分からないが岩になにか埋まっている。
「それ、俺たちがボデロックを倒す前にもあったよ。たぶん魔石か宝石じゃないかな」まじまじと見ていたからか近くにいた人が教えてくれた。
「そうなんですか?」
「ああ戦闘中、邪魔だったよ」
「どうしてここに?」
「さあ、魔物がおやつ代わりに持ってきて食ってたんじゃないか」冗談を言うような口調だったが、少し納得してしまった。
ゴブリンが岩を食べるイメージは湧かないが、ボデロックならなんかイメージできる。大分、感覚的だけど。
岩が岩を食べるみたいな絵面にもなるが……まあ広義的かつ大雑把に見れば人間も似たような感じだろう。
ともかく俺たちは周囲に気をつけながら、複数あるリヤカーに怪我人や、余裕があったので魔物を乗せていき町に戻る準備をして出発した。
道中ほとんどといっていいほど魔物は出てこなかった。
もっと遠くか下に行けば、いっぱいいるんだろうが。ここ数日の探索と討伐の成果だろう。
危険なく町に戻ることができた。
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