第25話 鬼ごっこ
俺たちはこの町の1階にある広場に移動した。
広場というには狭いような気もする。
「ルールはこう!」少年は声高に鬼ごっこのルールを説明した。
逃げる範囲、制限時間あり、鬼がタッチしたらその人は見学。
俺が知っているルールとは違う部分もあったが、要はタッチするか逃げるかそれだけのシンプルなものだ。
鬼は俺と黒瀬さん、逃げるのは子供たち。
あのあと2人ほど集まってきて逃げるのが4人、鬼は俺と黒瀬さん2人の合計6人ですることになった。
「言っておくが舐めないほうがいい」とは黒瀬さんの談。
「それはまあ」基本的に能力は使えば使うほど強くなるから年齢が高い俺たちが有利ではあるが、ここで暮らしている子供たちもそれなりに使ってるだろうしな。
それに得意不得意がある、子供たちのほうが速い可能性も十分ある。
一応準備体操して調子を整えるか、今まで散々歩いたからやる意味あるか分からないけど。
「鬼ごっこね……。やるのは久しぶりだな。黒瀬さんはどうです?」
「なぜか私はたまにやってます。頼まれて暇なときに」
面倒見いいな。
「もう始めてもいい?」子供たちの声に俺たちはジェスチャーでOKだと合図する。
「じゃ10数えてね」思い思いの場所へと散っていく子供たち。
俺たちは10秒数えて鬼ごっこがスタートした。
逃げる範囲は町全体とはいかないが結構広い。
なんでも代々子供たちが遊ぶ場所というのは決められているらしく、さっきまでいた広場だと狭いし町全体は迷惑になるから、ここまでならという範囲があるらしい。
ときおり「おっやってるな。俺も子供の頃は」的な会話が聞こえてくる。
この町全体の習慣ってやつなのかもしれない。
祖父母から父母、父母から子へ。
それはともかく声が聞こえたならそっちにいるということ。
方向を変えてそっち方向に走る。
周囲を見ながら走っているとタッチするべき目標を見つけた。
「やばっ」あの子は確か、最初に黒瀬さんに追われてた少女だな。
俺を見てすぐさま逃げていく。
もちろんそのまま逃がすわけはなく追いかける。
しばらく追いかけっこをしていると、俺のほうが速いことに気づく。
これはいける。
そういう場所を遊び場としているから当たり前なんだろうが、幸い周囲にあまり人気はない。
一気に力を込めて地面を蹴るように走って急接近でもしようか。
なんて考えていたら、少女が走る方向を横に変え別の道に入った。
数秒遅れて入った道の前に着く。
細道だな、左右を見渡すまでもない幅。
しかし姿は見当たらない、もう奥まで行ったのかそれにしても速すぎる。
色々考えながらふと上を見てみた。
「いた」岩登りをするみたいに垂直の壁を登っている少女がいた。
壁にある出っ張りを使って登ったんだろう、その手はもうすぐで頂上まで届こうというところ。
登ってるところを邪魔するのはさすがに危険だなと思い登り終わるまで待った。
「ん?」登りきった少女は俺の姿を見つけたのか頂上から顔を出して手招きをしてきた。
なかなか顔を引っ込める様子がない感じ、簡単には登れないだろうと思っての挑発だろう。
「……よっと!」少し足を進めてから跳躍アンド左右の壁を蹴って頂上までたどり着いた。
少女は動かない。逃げる隙は与えずにタッチする。
「……」
「どうした?」
「すごい」そう呟いた。
きらきらした目で見られてる。
……そんな目で見るようなものじゃない、ただ似たようなことをやり続けたからできただけだ。
「……広場に行くぞ」なおきらきらした目で見る少女を連れて広場に向かった。
少女を広場に連れた後の鬼ごっこは苦戦を強いられた。
まず1人捕まえたことが子供たちの間で共有されたのかあの手この手で逃げられる。俺が入れないような隙間や狭い道を通られたり、追っかけていたらいつの間にか消えていたり、抜け道隠し道を知っているんだろう。
数日前に暮らし始めた俺と、たぶん10年前後暮らしている子供たち、町の詳しさでは話にならない。
一応「歩風より強いかも」という評価は頂いた、「めちゃくちゃ強いわけでもない」とも言われたけど。
似たようなことを最近聞いたなと思いながら黒瀬さんの姿を探したら意外と近くにいた。
建物を見上げている黒瀬さん、その視線を追ったら屋根にいる子供が地上を見下ろしていた。
さっきの俺と同じような状況だ。
さっきと違うのは分かりやすく登れそうなところはパッと見た限りないところだろうか。
黒瀬さんは周囲を見てその場から離れた。
言うほど足は遅くないな。
俺よりかは長く暮らしていると思うが、あんな屋根なんかの高いところに行かれたら足の速さ関係なく苦戦するものだ。
さすがにそう簡単に登ることができる子供はいないけど。
俺も探さないと。
足早に上下左右を見る、もちろん道中の脇道も見る。
鬼ごっこというより隠れんぼをしていたら「いた」子供を発見。
人がまばらにいる通りにいて、鬼ごっこに参加している子供でしかも最初に会った少年だった。
「まずっ」
「まあバレるよね」気づかれずに接近したかったがあっさりとバレ逃げられた。
鬼ごっこだからな追うのが俺の役割だ。
見失わないように追いかける、少年が脇道に入っていきそれを追いかける。
「待て!」言ったところでもちろん待つわけがない。
俺も脇道に入ったが……見失った。
上下左右見てどこにもいない、いやここに入ったのは間違いない。
やたらと入り組んでいる道を壁にぶつからないようにそれでいてスピードを出しながら走って探していたら、少しだけ違和感を感じた。
ん? ちょっと待て、ここって俺が道に迷ったところか? 建物に既視感を感じる気がするが、この町の建物って似たような感じなの多いからな。
岩を掘ったり岩で作ったり。いやでも、この感じ。
いやそれよりここらへんって遊び場としては範囲外だったはずだ。
ミスったな、止めるべきだったか。
足早に周りを見ながら声を出して少年を探す。
一体どこにいるのか……あっ。
見つけた、案外あっさりと見つけた。
あっさりだったけど現場はちょっと険悪だった。
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