第24話 人探し

 考えながら歩いていたら迷ってしまった。

 ……とりあえず歩くか。



 裏路地をうろちょろしていたら「なんだ」建物を背にして座っている男が睨んだように見てきた。

 もう1人いて計2人の目線が俺に向けられている。


 別に俺は何もしていないただ歩いていただけだ。

 ちょっと視線を男たちに向けて、人がいるな~ぐらいには思ったがそれだけだ。



「失礼しました」余計な争いを起こしたくないので背中を向けて離れる。特に何か言われることは……後ろから声がした。

 チラッと後ろを向く。


 ピッケルだろうか、を持った男とさっきの男が喋っていた。どうやら俺に何か言っているわけじゃないらしい。


 ピッケル。あの感じだと採掘メンバーの可能性があるなと思いながら足を進める。


 当たり前だけど、入り組んだ場所は案内があったほうがいいな。




 歩き回ってなんとか入り組んだ場所からは出れた。

 ああいう場所もあるんだなと思いながら散策していたら、所狭しと本が並んでいるのが見えた。

 書店、いや図書館だろうか? 足は自然と引き付けられる。



 すごい普通に能力について書かれてる。

 目についた本の表紙には、能力の文字が見える。

 地上にはまず置かれないだろう。


 ざっと見渡す。

 水魔法や魔道具について書かれた本とかはないんだろうか。



 探してみるが、絵本やら神話そういった類に魔法や魔道具が出てくるのはあるけど教科書みたいな感じのものは見つからなかった。

 魔法も魔道具も使う人が少ないからあっても仕方ないのかも。



「なあ」

「ん?」幼い声が聞こえた。声がする方に視線を向ければ声の主は少年だった。

「歩風どこにいるか知らない?」歩風……黒瀬さんのことかな。自己紹介で確かそう名乗ってた。

「いや知らないな」

「そう……! なら一緒に探そうぜ!」

「えっ」

「行こ!」半ば強制される形で俺は黒瀬捜索に参加することになった。なんで?


 特に断る理由もないと言えばないからいいけど。

 探しているときに迷うかもしれないし。いや地元民だから俺みたいになることもないか。



「ところでなんで俺に話しかけたの? 他の人とかじゃなく」

「最初に見つけたから」簡潔にして分かりやすい答えだった。

「最近一緒にいるし」

「まあそうか」別に俺1人に限った話でもないけど。


 しかしよく知らない人に話しかけられるなこの子。危機感がないのか、行動的なのか。


「一緒に探してくれるお礼に歩風について教えてやるから」

「いや別に、ああ何について教えてもらうかな」別にいいと言おうとしたら睨まれた。言いたいんだな。


 しかし何について聞けば……「この町でどれぐらい強いだろうね」ふと頭に拳でボデロックを倒した映像が浮かんだゆえの質問。

「やっぱ気になるよな」少年の顔の輝きが増した気がする。やっぱり強い云々の話は男の子が好きな話題なんだろうか。かくいう俺も嫌いじゃない。強くなりたいからな。



 その後少年によって語られる黒瀬さんの強さだが、あまり参考にはならなかった。

 そもそもここ近辺で強い魔物はいないから護衛メンバーなら余裕で倒せるし、強さ自慢的な大会も出ないからほぼ主観で語られた。まあ町にいる人の中では強いんだろうな、という結論に達したとき。


 目の前に黒瀬さんが過ぎ去った。なんだ? 

「俺、先回りするから!」そう言って少年も去っていった。



 ぽつんと取り残される。

 黒瀬さんが見つかったが、ここから普通に散策を再開するのも何か釈然としないものがある。




「どこにいるんだ」結局、黒瀬さんたちを追うという選択をした。

 去っていった方向からなんとなく場所は分かる、あとは運がよければ……いた! 黒瀬さんが走っている。それと黒瀬さんの前に、もう1人いた。


 これって「おらっ!」

「うお」走っている2人の間に少年が仁王立ちで立ちふさがった。

「あー何、邪魔してんの」前方を走っていたもう1人、少女は振り返り抗議の声を上げた。

「歩風、何してるの? 持久走?」

「鬼ごっこ」ああ、やっぱりそうだったのか。というかよく持久走だと思ったなこの子も。


「なら俺も一緒に遊ぶ」

「それは、いいけど」

「でも黒瀬って遅いよ」少女も会話に入ってきた。

「皆が速いだけだよ」



「どうせならあと何人か欲しい。うーん、そこそこ速い人がいれば」少年はでかい声でそう言った。まあいいや無事少年の目的も叶えたし、俺は特に何もしてないけど。


 どうしようこれから。


 とりあえずまた散策でも「ん?」なぜか黒瀬さんたちの視線が俺に。

 しばしの膠着。


「あー清心さんも参加しませんか?」子どもたちの期待するような視線が刺さる。

「……分かった」

 こうして俺は鬼ごっこに参加することになった。

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