第22話 採掘護衛

「ふぁぁ~。朝か?」扉を開けて外(洞窟内)を見る。


 ここの洞窟は朝昼夜の概念があって、全体の壁や天井の光の加減でそれが分かる、というのを知ったのは昨日。


 地上の太陽ほど主張の激しい明るさはしてないが。

 それでも朝は明るく夜は暗くなる。



 それを知った時は前に潜ったダンジョンに朝昼夜はあったんだろうかと疑問になった。長く潜ったわけじゃないから気づかなかっただけか、単にこことは違う可能性もある。


 勝手な想像だけど、ダンジョンや地下空間ごとの差異はかなりありそうな気がする。

 なんせ草木と空があるなんて話も聞いた。



 今は明るい、と思う。正直分かりづらい。

 そもそも時計があるからわざわざ外に出て確認する必要もないといえばない。

 ただ単に自分で扉を開けて外に出るというモーションがしたかっただけだ。


 あくびをしながら部屋に戻って色々と準備をして再度外に出た。

 ちなみに光っているのは岩だから、岩をくり抜いたであろう今住んでいる家の中も光っている。

 それを抑えるためか壁紙なんかが貼ってあったりもしている。



 昨日教えてもらった集合所1に向かう。



「ここだよな」ちらっと横を見るとでかい壁がある。

 この奥に魔物がいるんだろうか?

 昨日はぱっと見ただけだけど。


 壁は城壁のようで門みたいなのもある。

 この壁ならでかい魔物も入ってこれないんだろうか? でも魔物だったら突き破ってきそうな気もしてしまう、前のダンジョンででかいと魔物と戦ったからそう感じてしまうのか。



「何してるんだ?」

「あっ、すみません」色々と考えていたら後ろに人がいた。

 扉の前で考えることじゃなかったな。



「冒険者か何かか?」冒険者? そんな職業があるのか、色々聞いてみたいけど一旦後にして。

「清心です。伝暗長から聞いてませんか?」

「ああそうか、とりあえず中で話そう」

「はい」扉を開けて中に入ると数人の視線がこっちに向いた。



 魔物と戦っている人たちだろうか? パッと見て10人近くいる、服装はバラバラだ。

「魔法管理所から来たらしい、要は助っ人だな」

「清心灯真です。よろしくお願いします」皆の顔を見る……どうだろうか目に見えて嫌そうな顔をしている人はいない気がする。


 あっ、1人1人の顔を見ていたら見知った顔と目があった。

 というか昨日お世話になった黒瀬さんがいた。

 彼女も魔物と戦うんだろうか? 


「よし今日の作戦会議と自己紹介でもするか」後ろにいる男性がそう宣言した。


 簡素な自己紹介をして、すぐに作戦会議が始まった。

 作戦内容はこの洞窟にある魔石発掘の護衛について。


 どうやらここらへんに魔石が埋まっている場所があるらしく採掘しているときに魔物が来ないか護衛をするらしい。

 護衛メンバーは5人で残りが採掘メンバー。



 諸々の話を聴いて俺がするべきことも決まり各々準備に取り掛かっていた。

 俺も短剣を受け取った。


 うん、間違いなく魔道具の短剣だ。

 ん? なんか視線を感じる。

 周りを見ると皆の視線が俺の手元にある魔道具に集まっていた。


 本物か、初めて見た、などの声がぼそぼそと聞こえる。


 ここでも珍しいものなんだな魔道具っていうのは、そもそもダンジョンや地下空間なんかを作っているのが魔道具だからな。

 そう考えると魔道具を取ったら崩れる世界なんだよなここって、魔物もいるし怖くないんだろうか?



「よし行くぞ」号令で皆がぞろぞろと動き出す。

 後で色々と聞いてみようかなと思い後ろに続いた。



 連れ立って魔物がいる場所に行くため門をくぐる。

 傍から見たらこれから戦に行きそうな感じだが、当のメンバーに緊張感はなく周囲の見送りもない。

 これが日常なんだろう。



 俺はリヤカーを引くという任を遂行しながら奥に向かって移動していたら「ボデロックだ」先頭にいた人が後ろにも聞こえるように言った。


 ここらへんで出てくる魔物は作戦会議のとき聞いた、確か体が岩でできた魔物。

 周囲を警戒して追加の魔物がいないか報告する人もいる。


 そのまま護衛メンバーの1人がハンマーみたいな武器を持って突撃、ボデロックという魔物に叩きつけた。


 そのまま所定の位置に行くまで魔物が出てきたら似たようなことをした。


 階段があって分かりやすく下がるというのはなかったが、坂はあったからやっぱり深い場所に魔物がいて魔石もあるんだろう。



 しばらく移動して、俺はリヤカーを引くという任から黒瀬さんと2人で魔物が来ないか見張るという任に変わった。


 後ろに穴があってそこで魔石とか宝石とかを採掘している。

 残りのメンバーは採掘メンバーに付いたり、もうちょっと遠くのほうを見張っている。



「2人だけで大丈夫ですかね」

「ここらへんはあまり強いの出ないから大丈夫だと思います。奥に行けば強いのもいるでしょうけど」


 そんなことを話していたらゴブリンが一体こっちに近づいてきた。

 短剣を構える。


「俺がやります」

「分かりました」


 周囲を警戒した後、接近。

 ゴブリンの攻撃を空振りさせて頭に鞘付き短剣の切っ先を突き刺す。

 特に苦もなくゴブリンを倒した。

 特別強いという感じはない、前に潜ったダンジョンと変わらない。


 だったら俺も多少は役に立てるかもな。


「その魔道具、魔法管理所でもらったんですか?」

「ああ、もらったというか。色々あって拾ってそのまま使ってる」正直に言っていいものか、まあこれぐらなら大丈夫だろう。



「他にも魔道具持った人とかいるんですか? それみたいな短剣持った人とか」

「いるとは思うけど、あんまり魔道具持った人に会ったことはないかな」

「なら何持って戦うんですか?」

「警棒とか?」

「……案外普通ですね。あっ、次は私がやりますよ」黒瀬の視線の先、2体のボデロックが近づいてきた。



 改めて近くでみるとすごいな本当に岩だ、1メートル程度の岩を胴体にしてさらに岩でできた腕、足、顔がある。

 でも1人で2体はきつくないか。

 そう思って短剣を握る。


 ボデロックはそこそこの速さで腕を振ったが黒瀬は避け「はっ!」その掛け声とともに黒瀬が持っていたハンマーが岩でできた胴体を割った。

「おらっ!」一発で仕留めきれなかったのかすかさず次の一発が放たれる。


 それでもボデロックはもう1体いるが「えっ」そのもう1体のボデロックは吹っ飛んでいった、岩の破片を散らして。


 その光景自体はさっきも見た。

 決定的に違うのが破片を散らしたのがハンマーではなく、黒瀬さんの拳だった。

 追撃とばかりに放たれた攻撃も拳で、ボデロックは動かなくなった。


 なぜ素手? 見ればハンマーを持っているのは片手で、もう片方は空いている。確かにあれなら左右から来ても対処できるのか? 


「よく、素手で倒せますね」

「ええまあ、一応素手でも倒せます。奥に行くならさすがに素手じゃ無理ですけど、冒険者みたく奥に行って希少な魔石取るわけでもないですし。あと癖みたいなもんです」

 癖になるほど倒してきたのか。


「十分すごい。魔物とか怖くないんですか?」

「……まあなんとかなってます」本人はいたって普通だ。



「ん? 何か?」

「いや、なんでも」黒瀬さんの拳とボデロックを交互にじっと見てしまった。つい気になって。


 あっ、ゴブリン。

「倒します」ちょっと気まずい雰囲気を振り払うように言う。

「今更ですけど、鞘付けたままなんですか?」

「ああ、これは。ちょっとまだ上手く扱えなくて、見ててください」


 鞘を外して短剣を振る。

 水斬りが、近づいてくるゴブリンに当たった。

 うん倒せた、ここでも十分通用するな。


 黒瀬さんはゴブリンと短剣を交互に見て「すごいな」と言っている。


「ええ、ただ振ったら出てくるんで鞘付けてるんですけど」

「なるほど」

 その後も何度か会話を交わして俺たちは見張りを続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る