第21話 町の案内


「来たか」扉を開けるとすぐに人がいた。この人が長だろうか。

 射抜くような目を持つ壮年の女性という印象、その目が俺に向いた。


「……まあ座ってくれ」

「はい」対面の椅子に座る。

 秋山さんは何かを手渡している「これが魔道具です。じゃ清心君、あとは伝暗てんあ長に色々聞いてね」そう言って部屋から出ていった。


 こっちが挨拶する暇もなかった。

 色々とお世話になったからお礼ぐらい伝えたかったんだけど……もう無理か。次会ったときにでも言おう。


「ふっ。清心灯真で合っているか?」

「あ、はい。合ってます」扉に向けていた視線を伝暗長に向ける。

 手には布で包まれた何かがある、形的に短剣っぽいな。


伝暗希てんあ のぞみ、ここの長をやっている。町長と言ったほうが分かりやすいか。しかし本当に来るとはな、歓迎するよ」本当に来るとはなって言われても、俺自身もここに来ることを知らなかったからな。



「ここですることは魔物を倒す、でいいんですか?」

「ああ、魔物の脅威から守ってもらう」なるほど。

 魔物を倒すってことにずれはなかったな。


「大変だな。なんでも監禁されていたと聞くが」

「っそれは……はい。でも俺が何かしたとかというわけではなくて、魔道具なんですけど」良くない印象を与える前に説明を! と思い口を開くが「いやいい、大体の事情は聞いている」と言われた。


「まずいですかね」

「大体の流れは聞いているから心配しなくてもいい、上の小競り合いらしいな。わざわざ危険人物を寄越すこともないだろう」

「それは、良かったです」ほっと一息つく。

「ただ魔道具は預からせてもらう、必要なときに渡す。あと、本当にここで監禁されるようなことはするなよ」

「っ、はい」鋭い視線がより鋭くなった気がした。




 そこから俺が呼ばれた理由について話してくれた。

 ここでは魔石の発掘や魔物の討伐をしているらしい。

 それをするためには魔物がいる場所に行く必要があるが、普段より数が多いという状況が続いているらしく、魔物が多いという状況は色々と危険があるだろうということで俺が呼ばれたらしい。


 魔石については聞いたことがある、確か魔道具の代わりの武器として使われているだったはず。

 こういう場所で取ってるんだな。


「質問があります」

「なんだ?」

「この町に魔物はいないんですか?」ダンジョンだったらどこでも魔物がいると思っていたんだけど。


「町にはいない。少し歩けば魔物がいるところはある」

「町にいないんですか?」

「地下空間、君たちはダンジョンか。深さによるが、浅い場所は魔物がいないか弱いのどちらか。この町にはいない」

「そうなんですか」浅い場所が弱いは教えてもらったが、いない場合もあるのか。



 というかさらっと言っていたけど地下空間って何だ? それについて質問してみたら「人が住んでいる、もしくは魔物がいない場所を私たちは地下空間と呼んでいる。上にいる、というより魔法管理所は総じてダンジョンと言うみたいだが。ここでのダンジョンは魔物がいる場所を指す」と返ってきた。



 初めて知った。この場所自体知らなかったから当たり前か。

 そういえば秋山さんが知っている人間が少ないと言っていたな。

 ……もしかして、すごい場所に来たんだろうか。



 そんなダンジョン、地下空間で俺がやることは、魔物がいる場所に行って倒したり、魔石を取るときの護衛、魔物から町を守るなど。

 期限については不明、周囲に魔物が少なくなったら考えるらしい。



 なぜ俺がここに来たのか不思議ではある、施設だったらもっと魔物を倒すことに長けた人はいるだろうに。

 一回魔道具を取ってきただけなんだけど。

 それともこれも実験で、俺がどれだけやれるか見るため? だからこそここに送られたのか? 


 長からは役に立ってくれよと念を押された。

 役立たずとは思われたくない、やれるだけやろう。


 それからお金を渡され住む場所を教えられた。

 本格的に何かするのは明日。

 俺以外にも魔物と戦う人はいる、そういう人との挨拶も明日するらしい。



 時間と場所を教えてもらって、俺は席を立ち出ようと思い扉を開いたら目の前に人がいた。


 ショートヘアで、俺を探るような目で見てくる女性、その人も長に用事があったのか目の前にいる。


「ん? っ!」

 2歩ほど下がられなお探るような目で警戒? されている。少し驚かせてしまったかも。



「ちょうどいい黒瀬、家と何か食うところを案内してやってくれ。あと集合所も」いつの間にか長が近くにいた。

 黒瀬と呼ばれた女性は俺と長を交互に見ている。


「……私が? というか集合所って」困惑する黒瀬さんに長が説明することで疑問符を解消していく。


 なおその説明の間も俺のことをチラチラ見ている。

 なんだろうか、顔に何かついてるわけじゃないよな? 手で触って確認してみたが何もなかった。


 そして説明が終わり「分かりました。案内します」俺は1人でうろうろする必要がなくなった。




「ここ一帯は飲み屋的なそういった場所です」

 案内してもらう道中、俺は黒瀬さんに町の説明を受けていた。


 最初に驚かせてしまったから心配だったが、今はそこまで敵意を感じない、気がする。あくまで気がするだけだけど。

 ときおり視線が合いながら、ここはこうと教えてくれる。

 そのおかげで町のことは大体分かった。



 一番上に長がいて、その下に住宅街、そのさらに下に飲み屋というか騒ぐ場所プラス魔物がいる場所に通ずる道がある。

 簡単に言えば3階建ての町ということだ。


 四角に切り抜いた洞窟にバベルの塔を置いたという説明でもいいかもしれない。

 ただ完全な塔というわけでもなく、3階が壁と接していたりして傾いている塔だ。

 1階の隅らへんに岩を掘ったのか広場みたいなのもある。




 次に案内されたのは集合所。

 この町には1階に、魔物がいる場所に通じる道が2つある。


 その道は一本道で洞窟というよりでかいトンネルに見える。

 そしてそのトンネル内に町を守るためか壁があって近くにある建物が集合所1、2と紹介してもらった。


 長の言葉を借りるなら、地下空間にあるダンジョンへの道。



 集合所から離れて最後に案内してもらったのは1階にある、俺がしばらく住む家。

 建物と建物の隙間に扉が見える。

 広さは期待しないでおこう。


「あと食べる場所は……あそこでいいと思います。武器庫っていう店でいいと思います」手で示してくれ場所は秋山さんと来たときにちらっと見たファンタジー作品の酒場みたいだと思った建物だった。


 しかし武器庫っていう店名だったのか。紛らわしい名前だな。

 ここだと普通に剣とか売ってる武器屋があっても不思議じゃないように思う。



「案内してくれて、ありがとうございます」

「いえ」


 そして黒瀬さんは去った。


 よし、ひとまずご飯だ。

 俺は武器庫に向かった。




 ご飯を食べ終わり、案内してもらった家のベッドで横になった。

 食事は外れを引くことなく美味しかった。

 味は施設と同じではないにしろ舌に合わないってことはなかった、それを言えば言語もか。


 当たり前のように俺の言葉は通じていたし、相手の言葉も聞き取れる、文字だって読める、違うのは通貨ぐらいか。



「ふぁ」あくびが出た。

 特に何か疲れたことをしたわけではないが、ご飯を食べて横になったからだろうか? 寝るだけなら問題ない部屋だが、あまり広くはない。

 そして外の声がうるさい、酒場に近く騒ぎ声が響く。


 立地としてはあまりよくない、なんでこんな場所に部屋を作ったのだろうか? 不満というより疑問が出てくる。

 デッドスペースを有効活用したい人が作ったのだろうか?



 今考えることじゃないな。

 ともかく扉は自由に開閉できたし鍵もかけられる。

 図らずも施設で立てた目標は達成した。


 まったく予想できなかった場所と状況だけど。

 運よくここに来れただけという気もする。


「……寝よう」

 明日に向けて英気を養うことに決め、目をつぶった。




 ……賑やかだな。

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