第20話 新天地
朝起きて洗面台で顔を洗って歯を磨いてベッドに座るいつものルーティンをこなす。そして秋山さんが来る間は色々と考える時間になる。
考えるといってもできることは限られる。
思考の整理といったほうがいいな。
ここ数日は渋谷班長の勧誘と立花支部長との会話があった、いやこの部屋に閉じ込められてそれ以外にも色々考えることはあるんだが考えてもどうしようもないのが現状。
ともかく俺は勧誘を断って、そのことと今までのことを立花支部長に話した。
これぐらいのもんか。
「はぁ」光明が見えてこない。
いつになったらこの部屋から出られるのか。
秋山さんは近々引っ越しがあるかもなと言っていたけど、それもどうなるか分からない。
勧誘を受け取っていたら出られていたのか。
しかし、なんでも人の言うことを聞いて付いていくだけでいいとは思えない。
今の俺が言えたことではないけど。
それでも結局、使われるだけ使われて今みたいな状況になる可能性もある。
いやそこまで悪い人間か分からないから憶測でしかないな、止めよう。
せめて断るではなく、引き伸ばしたほうが良かっただろうか咄嗟に断った感じになったからな。また考えてくれ、と言ってたけど……。
前よりかは自由だが、なんとかしたい。
そう漠然と思いはするがうんうん考えても解決策は見つからない。
与えられているだけの現状をどうにかしないといけない。
渋谷班の情報も選択も自分で得られるようにならないと。
そのためには優秀な人材だと思わせる、もしくは根回し? 前者は結果を出せる機会があればいい、後者は誰にすればいいだろうか。
「時間だ」いつの間にか秋山さんが来ていた。
考えるのを止め立ちあがる。
「喜べこの部屋から出られるぞ」
「えっ」噂をしていたらとはこのこと。
ただその言葉を聞いても素直に喜ぶことはできなかった。
なぜなら、詳しいことを教えてもらえなかったからだ。
「あのどこに行くんですか」
「付いてくれば分かる」
それだけ言って秋山さんが先導する。
牢屋を出て、俺が持っている数少ない服とかを持って、昨日までとまったく違う通路を通って車に乗って施設を出た。
俺の意志など無関係に車は進む。
「あの何をしに行くんですか?」
「着いたら話すよ」という無意味な会話を車内でした。
そして30分くらいでとある建物が目に入る、俺がいた施設ほど大きくない無骨な建物。
周囲に民家なんかはない、施設と負けず劣らず怪しそうな建物と思ってしまうのは先入観のせいかもしれない。
車はその建物に入るためか一旦止まってしばらくして再度発進、建物の中に入っていった。
車が完全に止まり俺と秋山さんは降りた。
周囲を見ながら先に進む。
ここで施設みたく魔道具とかを集めてくるんだろうか? でもそういう感じでもなさそうなんだよな。
この建物自体も外から見ただけじゃそこまで大きくなさそうだし、通り過ぎる人の数も施設より少ない気がする。
廊下を進み続けると異様な場所に出た。
ぽっかりと穴が開いている、建物の中に。
いや適切な言葉じゃないな、なんといったらいいか階段があった、下りの階段で小さくない。
ただこれは建物と一緒に造られたものじゃない、最初からある階段の周りに壁なんかが立てられたと感じる。
まるでこれは「ダンジョンの入口だと思ったか」
「……心でも読んだんですか?」
「大体の人がそう思うよ僕も思ったから。そしてそれは真実だ、広い入口だろう」そう言って秋山さんは躊躇わずに進んだ。
入るのもやっとな入口とは違う、2人ぐらい余裕で横並びできる幅がある。
足を進めて階段をおりる。
入り口は色々あると聞いたけど、こういうのもあるんだな。
1回しかダンジョンに入ったことがないけど、妙な気分だ。普通に階段をおりるようにダンジョンに入るのは。
見たことある内装、洞窟形だろうか。
また魔道具を取ってくるのか? いやでもこのダンジョンを囲っている建物は昨日今日できるものじゃない、少なくとも数年前からあるはずだ。
だとしたら、なぜ今更ってことになる。たとえ取るにしてもなぜ俺がという疑問もある。
うーん、色々考えても答えは出ず。
結局、階段をおりきった。
そして中にも人がいた、先に来て中を調べていたという雰囲気ではない。そもそも地上にいた人たちと服装も違う。
秋山さんが気軽に近づいて話しかけた。
内容は、怪しいものじゃない許可もある的なことを言っていた。
しばらくして先に進めた。
曲がったり下ったりする途中で「結局、俺はここで何をするんですか。そろそろ教えて欲しいんですけど?」
「だな。清心君にはここでしばらく暮らしてもらう、向かっているのは君がこれから住む場所だ」
「……色々聞きたいこともありますけど、なんでもうちょっと前から教えてくれなかったんですか?」
「施設でも知っている人間は少ないから情報の秘匿と、あとはできる準備もない言ったところかな」
「施設でもほとんど人と会ってないですけど」あと準備に関しては俺個人の心の準備があると思う。準備できようができなかろうがここに来ることは確定だろうけど。
「僕も聞かされたのは最近だよ、知ったこっちゃないだろうけど」
「そうですか。なら、俺はここに住んで何をするんです?」
「単純に言えば魔物を倒してもらう」
魔物……。
可能性として考えなかったわけじゃない、片隅程度には考えていた。
しかしダンジョンに住んで魔物を倒す、どういう場所に住むことになるのか。
キャンプみたいなテントでもあるんだろうか? もしくは横穴に寝袋を置いて寝るとか。
そもそも住んでまで魔物を倒す理由って……。
「詳しいことは長に聞いてくれ。見てくれ、君が住む町だ」
「長? ……っ!」つい足を止めてしまった。
目の前に人がいる。
1人2人じゃない10人はいるだろうか。
各々が話し合い声を飛ばし、まるで雑踏を傍から見てるようだ。
いやようだじゃなくて実際そうなのか、場所がダンジョン内なだけで。
秋山さんは何も言わず先に行っている、俺もそれに付いていく。
話す声には魔物という単語も聞こえてきた。
やっぱりここはダンジョンなんだなと改めて感じる。
他には魔石という単語も出てきた。
もちろん話し声だけがしているわけじゃない、足音、扉の開閉音、椅子を引くような音、日常生活を送っていたら出るであろう音が耳に届いてくる。
音が出ている場所を隅々と見る。
扉が開いてその隙間から覗く室内、まるでファンタジー作品に出てくる酒場のような建物。
いや俺が考える建物とは大分違う、横穴を掘って空間を作った感じだ。
ただ隙間から除く風景は普通だと思う、ご飯があって飲み物を飲んで騒いでいる声が聞こえる。
ここらへんはそういう場所なのか騒がしい。
人が住んでいる。そうとしか考えられないほど充実していた。
秋山さんは上にいくために階段を上った。
急な階段だ、上りきった先を確認するため見上げると「すごいですね」
「そうか? 構造自体はよくあると思うけど」よくあると言われても分からないが、とにかく上にもまだ空間があった。
というかさっきまでいた酒場の辺りはここの1階という感じだ。
そこから段々と上に建物がある。
階段は傾斜もあって、結構長い。
その階段を上り続けて一番上にある建物が見え始め、その建物の正面には人が立っていた。
上にあって警備のような人がいて、地位が高い人が住んでいるのだろうか?
警備に警戒されないよう事情を話して、扉の前に立つ。
「長に会うぞ」秋山さんはそう言った。
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