第19話 支部長

 エレベーターに乗って上に行き、止まったら下りて廊下を進んだ。

 そして扉の前に着いた。

 扉自体は普通だ。



「失礼します」そう言って秋山さんは扉を開け中に入った。

 俺も入って失礼しますと言って礼をした。

 あれ逆だっけ。

 なんて色々なマナーを頭の中に浮かばせながら足を進める。



「立花支部長、連れてきました」立花と呼ばれた男性は俺を見て「座ってくれ」俺は言われるがまま座る。

 というか支部長、偉い人とは言ってたけど。


 確かここの施設名って、なんちゃら施設支部だっけ? ずっと施設って言ってたから曖昧だ。



 目線を少し動かし周りを見る。

 部屋の内装はシンプル、必要最低限の物が置いてあるって感じだ。

 向かい合わせの椅子と、その間に長い机。

 奥にも机と椅子、そっちは1人で作業する用だろう。


 俺、秋山さんの向かい側に立花支部長が座っている。

 その3人が椅子に座りちょっと長い机を囲んでいる。

 あと近くに別の人もいる、その人は座ってない。

 たぶん護衛だと思う。警戒しているんだろう。



 お互いに簡単な自己紹介を終わらせて。



「清心君だね噂は聞いているよ」

「どうも」噂か、あの尾びれ背びれが付いた噂をどう思っているんだろうか。

 さすがに鵜呑みにはしていないと思うが。


 そもそもこの人、立花支部長はなんで俺を呼んだんだろうか? 聞きたいことがあるから? うーん分からない。


 俺をどう思っているんだろうか、部屋に閉じ込められたのは色々な人の話し合いの結果らしいし。

 この人が蚊帳の外ってことはないだろう立場的に。

 俺を危険だと思っている可能性もあるよな。


「そこまで緊張しなくていい、私はただ君と話をしたいだけだ。ぜひ聞かせてくれないかアジトでのことやダンジョンのことを」


 そういう話か。


 何でこうも俺から直接聞きたい人がいるのか疑問を持ちながらも秋山さんと同じように話した。

 アジトは何度も話したからスムーズにと思ったけど、何度か止められ詳しい説明を求められる場面があった。

 ダンジョンの話も似たような感じで進んだ。


「なるほど。その結果勧誘か」そして今している話は渋谷班長の勧誘についてである。流れで話すことになった。


「知ってるんですね」

「もちろん。渋谷班に入るのかい」まるで心でも読もうとするほどにじっと俺を見てくる。


「いえ断りました。荷が重いですし」

「そうか……。いやありがとう面白い話を聞けたよ」

「それは良かったです」大した話はしていないような。

 そのまま俺は席を立ち部屋を後にすることになった。


 秋山さんは話があるとかで残った。

 ここ数日はずっとバタバタしてるな。






(秋山視点)



 清心が部屋を出ていきしばらくして「どうだ秋山から見た清心君は」

「うーん、強いと思いますよ」

「そうか」

「ゴブリンは弱い魔物ですが、初めてのダンジョン、実質1人、魔道具はちょっと使いづらそうですけど十分戦えて、それでいて大型の魔物を倒したことを考慮すればなかなかだと」秋山はダンジョンの戦闘を主に客観的に清心の強さについて述べた。



 話を聞き終えた立花は何かを考えている。



「そうだな。それ故の渋谷班長の勧誘だろうからな」やっぱりそこかと秋山は思った。

「心配ですか、清心君が取り込まれそうで」結局のところ立花が気にしているのは清心周りのあれこれなんだと秋山は思っている。


 清心は単なる大内班の班員から、魔道具を使える強い人になった。

 であるならばそんな清心を取り込みたいという派閥がいる。

 会って最初、僕に「身の程をわきまえた行動を」言ってきた渋谷が分かりやすく勧誘してくれた。

 立花はトップとして、そういう連中を好きにしたくないのだろうと秋山は考えていた。


 同時に、たった1人のイレギュラーのためにこんな必死になることかと少し呆れている部分もある。

 やはり派閥云々はそんなに面白いイベントでもないなとも思っている。


「清心君1人ぐらい好きにさせたらいいと思いますけど」

「そういうわけにもいかない。それに、仮にも清心君を監視している君がそれを言うのか」

「別に彼の人生に興味はないので。最低限のことはしますけど」個人的な興味は彼が魔道具の力を発揮することや彼自身の強さについてだ。


 死んでほしいと思ってないし、色々とするつもりもある。

 だからといって最後まで面倒を見るつもりはないと秋山は思っている。



「うーん……」

「そもそもそんなホイホイ決まった班に入れるものではないですよね? そういうのって立花支部長あたりが決めていることでは?」

「まったくだ、依頼が貼ってある酒場じゃなくここは組織なんだけどな」思ったより立花の求心力はないのだろうか? と失礼なことを秋山は思った。思っただけで口には出さなかったが。




 長い沈黙。

 立花が何を考えているのか、秋山が知ることはできないし知りたいとも思っていない。


「そうだな……清心君にはここを離れてもらうか」

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