第17話 ダンジョン攻略3
水斬りをぶつけようと鞘から短剣を抜こうとしたとき、俺の体は空中を飛翔した。
盛大に壁に向かって体が飛び、一度も地面に着くことなく壁に激突。
ドンッ! 「うっ!」背中の衝撃が体全体を襲い吐きそうになった。
叩きつけられた壁を背にしてなんとか立ち上がる。
背中を叩きつけたせいで壁の破片がパラパラと落ちる。
体全体がかなり痛い。
まだ痛いで済んでいるだけましか、咄嗟に能力使って体を強化するという判断ができたのは良かった。
だが痛みに慣れている時間はない、後先考えず跳躍。
コンマ数秒後、俺がいた場所に何かが通った。
壁を蹴ってその場から離れる。
3、4メートルはあろうかという魔物の腕が壁に向かって叩きつけられていた。
天井が高くて助かった。
高さギリギリだったら頭をぶつけて落ちて的になっていた。
周囲を見る。
魔物はあれ1体だけ。
姿形は人に近く全体的に細くて長くスレンダー、そして5メートルはあろうかというでかさ。
腕を使った殴りは鈍器が当たったような衝撃を受けた。
俺は地面に足をつける。
ちょっと休憩、なんてできない。
鞘を外し短剣の切っ先を魔物に向け、水斬りを放つ。
「なっ!」水斬りは当たった。ガードしようとしたのか腕を体の前に持ってきたが水斬りは構うことなく腕の皮と肉を削いだ。
だが魔物の上体が横にそらされて水斬りを避けていた。
でかさの割に横幅はない、ゴムのように上体が曲がっている。
腕も切り落とすまではいってない。
ならもう一度「くっ!」魔物が近づくより先に後方に飛ぶ。
腕が残像を描き、突風を感じた。
腕を切られたことなど気にしない猛攻。
その勢いで傷つけた腕が千切れそうなほどだ。
「っ!」なんとかして水斬りを当てたいけど、防戦一方だ。
横からくる腕を短剣でガード、しきれなく押し切られるが後方に飛び続けなんとか吹っ飛ぶのを避ける。
水斬りがあらぬ方向に飛び散る。
秋山さんたちに当たる可能性あるな、いや人の心配をしてる余裕なんてない。
このままじゃ壁に追いやられる。
「……はっ!」足全体を強化して地面を思いっきり蹴る、体が宙に浮き後方に飛ぶ。かなりのスピードを出してるが、たぶんすぐに追いつけられる。
間髪入れずに刃先を魔物に向けて振った。
魔物はガードしたり避けたりしたが、水斬りで両腕や胴体を切った。
しかし負けじと魔物は迫ってくる。
これだけやっても迫ってくるのかっ。
「おらっ!」水斬りの猛攻が魔物の片足を切った。
これならと思ったが、バランスを崩しながらも俺を追いかけてくる。
壁に当たると思い足を後ろにして、再度壁を蹴った、魔物はすでに瀕死の状態、俺はそのまま落下を始める。
魔物はそれでも俺に近づき自分の胴体を振って俺に攻撃を仕掛けてきた。
「はっ!」迫りくる胴体に短剣を突き刺す、そして一気に振り抜いた。
「ギャアアア」刃の攻撃と水斬りの攻撃、胴体が激しく揺れ俺は地面に叩きつけられる。
すぐに体勢を整えて魔物を見るが、その体は地面に倒れピクリとも動いていなかった。
「やった」倒した、倒したんだ。
……ああそうだ秋山さんたちは?
キョロキョロと辺りを見渡す、いた。
無事だな血を流している様子もない。
正直、魔物の攻撃より水斬りに切られているかと思って不安だった、そんなことなくてよかった。
「無事ですか」一応聞いてもみる。
「おかげさまで」
「それは良かったです」
「魔道具の前には強い敵がいるのが定石だ、この強さならこの奥に魔道具がある可能性は高い」
魔道具を取れるのか?
「……先に行きましょう」魔道具がなくてまだ奥がありそうならそのときはそのときだ、さすがに奥があるなら一度帰還を考えてもいい。
魔物は復活する、なんてことが頭に浮かんだ。
あんなでかい魔物でも通用するのかと疑問だが、復活したとしても数時間や数日は最低でもかかってほしい数秒後とかはないと思う。
少なくとも俺たちがここを出るまでは復活しないで欲しいと思ってしまう、連戦はきつい。
俺が先頭で奥に進むと、また階段があった。
恐る恐るおりて先に進む、これで5層。
なんだか異様な感じがする。
慎重に進むとまた開けた場所に出た。
さっきのこともあり警戒するが魔物はいない。
小部屋という感じだ。
「この感じは」秋山さんが言った。
その言葉でここがどういう場所かなんとなく分かった。
前に秋山さんが言っていたことを思い出す。
異様で微音で無人。
周りを見れば俺たち以外はいない。
耳をすませば確かに微音がするような気がする、足音や服がこすれる音もするからあんまり分からない。
音が聴きたいから静かにとも言えないし。
ただ確かに異様という言葉は納得がいく、今まで騒がしかったから余計そう感じる。人によって一度は行ってみたい場所に入るかもしれない。
奥に行くと台座みたいな石の上に布があった。
こんな場所にある布、もちろん普通の布だとは思わない。
「これが魔道具?」
「恐らく」
武器以外もあるんだな。
秋山さんが手を伸ばし、布を掴もうとしている。
「そうだ魔道具を取るとここは崩壊する。分かってる?」
俺は頷いた。
「ならいい。取ったらすぐ逃げる。生き埋めになりたくない」
秋山さんが布を持ち上げると、微かに地面が振動した。
「壊れ始めた。その布は正真正銘魔道具だ出るぞ!」
「はい」
俺たちは走り小部屋を出た。
階段を駆け上りでかい魔物と戦った空間に出る。
するとそこにはあの魔物の死体と数体のゴブリンがいた。
なんでと思ったと同時、魔物が最後に発した叫び声を思い出す。
あれに釣られてきたのか? そういえば道中でも聞いた叫び声だったな。
「どうします?」
「時間がない。無視して突き進む」
俺を先頭にゴブリンを無視しながら進む。
どうしても邪魔な場合は短剣を使って倒した。
ゴブリンも揺れる地面に混乱しているのか俺たちに近寄ってこないのもいて楽に進めた。
4層も3層も2層も1層も、ゴブリンを避けるか倒すかして俺たちはダンジョンの出入り口である穴に到着した。
ロープを使って脱出する。
そしてダンジョンから出ると、周りにいる人たちの顔は驚きに満ちていた。
秋山さんが魔道具である布を責任者に渡していた。
あれを見たからだろうか。
「はぁ」緊張が解けてきた。
やったのか俺は。
あのでかい魔物を倒したときも思ったが、やっと実感している気がする。
短剣を見つめる。
これのおかげだな。
それと偵察班が手にした事前の情報のおかげでもある。
だけど今は、この達成感を素直に感じたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます