第16話 ダンジョン攻略2

 奥に行けば行くほど魔物の数も多くなる。

 気は抜かず、それでもぐんぐんと奥に進んでいく。

 道中ゴブリンがいて戦闘になった、そのとき鞘を使った突きをしてみたらしっかり刺すことができた。

 切るはできないが鞘の先端なら突き刺せることが分かった。



 15分ほど歩いた。

 分かれて道があったり行き止まりだったりを乗り越えて、目の前に下に進むための階段が見えた。

 これで次の階層に行ける。

 この階で会った魔物はゴブリン2体で、2体とも武器なし仲間なしだった。

 そういうゴブリンしかいないわけではない。

 武器を持って複数体で向かってくるゴブリンもいる。

 なんなら下ではそっちの方が多くなってくるとは偵察班が手に入れた情報、肝に銘じないと。


 ところどころ欠けている岩の階段。

 わざわざ階段を作るなんて律儀なことをする洞窟だ。

 見た目よりもしっかりしていて崩れるようなことはなく、2層に足を踏み入れた。



 2層は1層よりも魔物が徘徊している、という事前に手に入れたその情報は先に行けばすぐに理解することができた。


 道を曲がった先にゴブリンがいた。

 しかも手に石の棍棒を持っている。

 そんな観察をしていたらゴブリンがこっちを向いた。

 っ気づかれた! 遮蔽物がないまっすぐな道の先にゴブリン、肉薄してくるのにそう時間はかからない。


 ……3体なら「水斬りを使います」鞘を引き抜き間髪入れず短剣を空中で振る。

 空気を切る手応えしか無い、だけど切っ先はゴブリンの方に向いて軌跡を描いた。

 水の出現と射出が行われ1体のゴブリンを切った。俺はもう一度短剣を振り、さらにゴブリンを切る。


「っ!」残り1体が突撃して眼前に迫ってきてる。


 両手で持っている棍棒が上段から振り下ろされるが、短剣で受け止める。


 重さは感じるだけどこの程度なら、そのまま力を込めて棍棒を弾き飛ばす。

 バランスを崩したゴブリンに接近して、短剣で頭を突き刺す。

 ゴブリンは棍棒を手放し倒れた。


 最初に水斬りを入れた2体も起き上がる気配はない。


 2体とも1発で倒せたのは運がよかった、近かったのもあるか。


「ふー」今回も怪我はしなかったけど、楽勝ではなかった。

 強さは1層と変わらない気がする、だけど複数と武器は気が抜けない。

 なにせ持っている武器が短剣一本だからな。

 俺はよくこれで大剣相手に挑めたものだ。

 水斬りを入れていいなら長距離でもいけはするけど。


「やはり強い魔法だ」秋山さんは水斬りで切られたゴブリンをじっくりと見ていた。




 周囲に他の魔物がいないことを確認して進む。

 ゴブリンの中にはこっちに気づかないのもいたから、水斬りを使って魔物が気づく前に仕留めたりもした。


 そんな奇襲もしながら。

 その後も奥に進むごとに魔物との遭遇は多くなってきた。

 姿形はどれも似たようなもので、強さも武器も変わらないから遠距離の水斬りと近距離の短剣と鞘で勝つことができている。


 ただこれは俺が先にゴブリンを発見しているからで、ゴブリンが先に俺を見つけて奇襲してきたらどうなるか分からない。そうなれば厳しいかもな。


 できるだけ先に魔物を見つけることができるよう慎重に周りを注視しながら進んで、今回も丁寧に用意された階段まで着いた。


 3層に下りても景色は変わらず岩壁に囲まれている。

 明るいことも変わらない。

 警戒を怠らず分かれ道や曲がり道を進んでいると「ギャアアア」甲高い声が耳に刺さった。

 なんだこれ? ゴブリンの声に近い、ような気がする。


「すごい叫び声だな」どうやら俺にだけ聞こえる怖い声じゃないらしい。

 そういえば偵察班が引き返したのもこの層だったな、この声に関しての情報はなかったけど。

「……進みます。気をつけてください」わざわざ俺が気をつけてなんて言うことでもないと思うけど。


 これで自分が死にかけたらかっこ悪いな。

 そうならないように気をつけて進んだら少し開けた場所に出た。


 分かれ道か、俺たちが来た道を除いて右と左に2つの道があった。

 別れ道自体は珍しくない、そのたび偵察班の情報で正しい道を選んでここまですんなりときた。

 だけど偵察班が引き返したところはさっき過ぎた、つまりここから先の情報はない。ボーナスタイムは終わったってことだ。


 一応全部の道を調べなくて良いのかと秋山さんに聞いたら、どうせ壊すからいいと返ってきた。本当に大丈夫かと思ったが護衛も否定しないし、それに全部の道を調べるとなったら魔道具を取ってこれるかどうか不安だからその言葉を信じることにした。


 さてそうなれば一発で魔道具がある道を探したいところだけど……どれだろうか? 考えても仕方ないところはある、右の道にしよう。


「っ。魔物が来ました」右の道から魔物がやってきた。

 倒そうと構えると「後ろからも来たぞ」

「えっ」後ろを見ればゴブリンが3、いや5体が散らばっている。

 これは「っ!」目を正面に移す。


 ガキンッ。鞘付きの短剣が棍棒とぶつかった。

 ミスった。護衛がいるなら振り返る必要なんてなかったかも。

 いや戦闘するのは俺1人なのか。



「んっ!」足を使って目の前のゴブリンを蹴る。

 魔道具を持っているおかげかただの蹴りでも吹っ飛ばせた。

 そのまま鞘を抜きバランスを崩しているゴブリンに少し近づいて「水斬りいきます」出現と射出の一連が行われ直撃。

 倒れるまで見届け後ろを見る。



 1体が護衛と交戦、続けて4体が後ろに続いている。

 他に魔物は……来てないな。方向を変えて走る。



 護衛は大丈夫そうだ、俺がすべきなのは4体の相手。

 4体の内先頭を走っているゴブリンが、急に出てきた俺を見て大ぶりに棍棒を振ろうとするがその前に俺は短剣を振る。


 水がゴブリンを切り裂いた。

 まだだ、1体しか倒してない。

 3体のゴブリンが接近する。


「「ギャッ!」」右と左、正面にもゴブリン3体が迫る。

 左右の棍棒が上段から振り下ろされるが、それをギリギリで後ろに飛ぶ。

 よし! 空振らせた。 

「はっ!」短剣を正面に振って水斬り。再度、左のゴブリンに接近して左手に持っている鞘を突き刺し続ける。

 右のゴブリンはもう一度水斬りを使用して脳天から縦に切った。


 3体が倒れたのを確認して後ろを向けば護衛も倒し終わっていた。

 俺が持っている短剣より長い剣を持っている。

 リーチが長そうでいいな。そう思いながら短剣を鞘に戻す。



「大丈夫ですか?」2人の元に駆け寄る。

「一切怪我がないよ。清心君は?」

「無傷です」危ない部分はあったが全員無事だ。

「しかし強いなそれ」

「そうですね。ああ、そういえば水斬りの報告をしてませんでしたね」安全のための水斬り発動前の報告を忘れていた。

 目の前の魔物に精一杯だったな、水斬りが意図せず発動しないように注意してはいたけど。


「別にいい、緊急時は柔軟に対処してくれ。どうせ水斬りが僕たちに飛んできたら対処しようがない」それを言ったら今までの報告の意味が、いやありがたい言葉ではあるけど。



「それでどうする。このままずっと突っ立ているか?」

「いえ、先に進みましょう」

 再度、右と左の道を見る。

 右からはゴブリンが出てきた奥にもまだいる可能性はある、何も出てきていない左の道も不気味ではあるし。

 うーん……そういえば。



「前に魔道具の周りに魔物はいないって言ってましたよね?」無人、無魔物だったけ? なんかそんな説明を聞いたのを覚えている。それなら魔物が来てない左に魔道具があるかもしれない。

「僕の知っている限りならね。だけど魔道具が近いかどうかさえ分からないから参考にならない」

「でも、そういう情報があるなら左にしましょう」どっちを選んでも当てずっぽうだし、行きたい方向もない。

 せっかく覚えた知識だ使ってみよう。

 そういうことで俺たちは3人で左の道に進んだ。




 しばらくして階段が見えた、4層への道。

 ここから先の情報は一切ない。

 この先に魔道具があるのか? それともまだ先があって100層近くあるかもしれない。

 いやさすがに100層は考えすぎかもしれないが、二桁に突入する可能性はある。



「先に進みます」否定の言葉はなく、代わりに頷きを持って返された。

 もしここで引き返そうと言われたら地上への手土産が、さっきの分かれ道で階段に続く道が分かったぐらいしかなかった。

 まあそれでいいかもしれないがせっかくなら、奥に行って魔道具を取りたい、自由に扉を開閉できる家に近づくためにも。



 俺を先頭に階段を下り進む。

 魔物と出会わない一本道、さっきまで進んだ通路より狭い。

 上下左右からプレッシャーのようなものを感じてしまう。




 しばらく進めば、またさっきと似たような開けた空間に出た。

 たださっきの空間よりは広い


「っ!」4、5メートルはある魔物であろう何かがギロリとこちらを見てきた。

 水斬りを! 「がっ!」体全体に衝撃が走った。

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