第12話 魔道具実験


「今回のテストは魔道具の制御だ、君がどれほど魔道具を扱えるか知りたい」


 実験場所は広い空間。バスケができる広さプラスアルファはあると思う。

 まあここまでは前の場所と同じ。



 違いとして的があり、人がいる。

 人というか監視自体は常にいたけどいても最近は1人。

 今回は2人いる、俺が余計なことをしないための監視だろう。

 ちなみに秋山さんはいない。

 さっきの声はスピーカーから聞こえてきたものだ。

 これも安全を期してだろうか、戦える人じゃなさそうだしな。



「周りは気にしなくていい、魔道具を向けさえしなければ殺されることはない」

「分かってます」そんなことをすれば俺の立場が危うくなる。最悪実験は終了して、そのまま俺の人生も終了する。

「魔道具を受け取ってくれ。何か感じたら逐一報告を」


 監視の1人が魔道具を渡してくる。

 手に取った瞬間に体から力が溢れてくるような感覚、間違いないあの時の短剣だ。

 俺は言われた通り感じたことを報告した。返答は特に無い、続けろってことかな。


 俺は手元にある短剣を見てみる。

 鞘もナイフも華美ではない。

 持ち手が青色ではあるが、地味な印象を受ける。


「鞘から抜かずにそのまま振ってみてくれ。的を間違えるなよ」

 目の前には的がある、あそこに向かって振ればいいんだろうか。

 たぶん求められているのは水を出すことかな。

 鞘がある状態でできるかどうか分からないがやってみよう。

 うーんどうやっただろうか? 無意識での行動だから具体的にどうやったかまでは覚えていない。

 言われた通り鞘が付いたままナイフを振ってみる。

 横に縦に、水を出ろと念じながら色々な方法で水を出そうとしたが出ることはなかった。


 ブンブンと何度振っても出ない。

 まあそうだよな、実戦でも鞘に入れたら出なかった。


「鞘を外してくれ」

 腕を正面に出して鞘を外すゆっくり丁寧に、徐々に刃が姿を現してきた。

 地味とも思える短剣だが、いまだ実用に耐えられるだけの刃の輝きがある。

 少し怖さすら感じる。


 正面に出した腕を振る、目標はしっかりと的に。

 ナイフを横に振った。

 するとナイフの軌跡に沿って水が出現、前方に向けて勢いよく発射されて的が壊れた。


「何か感じたか?」

「いえ特には」横に振ったら出たくらいの感覚だ。

 何か特別なことをやったわけでも考えたわけでもない。


「そうか……次は威力を落としてみてくれないか」

 威力を落とすか……色々考えてとりあえず振る速度と威力よ落ちろ! という気持ちで振ってみる。

 水が出現、前方に発射、的が壊れる。

 うーん威力変わっただろうか?

 もう1回振ってみたが見た限りでは変わった感じはない「次は威力を上げてみてくれないか。的を超えて壁を壊すぐらい」と言われた。


 さっき考えたことと逆の考えでナイフを振る。

 威力よ上がれ!


 ……変わらないか。

 もう一度同じ考えで振ってみるが強くなっている気がしない。




「はぁ」ずっと前に腕を出しているせいか疲れた。

 そう思い短剣を持っている腕を下げてしまった。

 刃の先、やや下寄りの軌跡から水が出現した


 あぶっっっな。

 なんとか回避はできたが、2人の監視が俺を囲んでいた。



 攻撃する意思はないと両手を挙げようと思い、片手に短剣があることに気づき鞘を持っている片手のみを挙げる。

 見る人によっては片手を高々と挙げている勝利ポーズに見えなくもない。



 とにかくまずい弁明をしないといけない「攻撃する意思はなかったです。ただ腕を下げてしまって」ちらっと自分がさっきまで立っていた場所を見ると、地面は少しくぼんでいた。


 まずいよなと思っていると「なるほどそれでも魔法は発動するか。面白い」なんて呑気な秋山さんの声が聞こえてきた。


「秋山さん? 攻撃する意図はなかったんです、本当です」

「そうだな。ちょっと待っててくれ」待つ? それからすぐに扉が開かれ秋山さんが入ってきた「やあやあ」腕を振りながら俺に近づいてくる。

 あっさりと監視が囲んでいる包囲網の中に入る。


「どうだった無意識に魔法を打った感覚は?」

「……よく分からなかったです」正直、魔法どうこうは頭に入ってこない。

 現状、下手すれば反逆だと見なされることをした。

 さてどうするか、としか考えられない。



「そうか、続けるぞ」

 秋山さんはそのまま続けるつもりらしい。

 なら俺が何か言うことはない、言われた通りナイフを振る。

 監視の目、俺の一挙手一投足を見る目が厳しくなっている気がする。

 そのまま俺は合計6つの視線を感じながら振り続けた。


「厄介な力だ。振ったら魔法が発動して、それ以外では発動しないか」

「普通はそうじゃないんですか」

「魔道具なら……ああそうだな、飯を食べながら話そう腹が減った」その一声で少し遅い昼食となった。




「それなりに魔法は制御できるもんなんだけどな」ご飯を食べながらさっきの疑問の続きに答えてもらった。

「魔道具でも?」

「魔法を使えるなら、少なくとも魔法の発動くらいは制御できるもんだ」

「そうですか」力が抜けて椅子の背に背中を預ける。


 できるようになるんだろうか。

 振ったら水が出ることは分かった。

 これもある意味では制御できていると言えなくもない。


「魔道具があれば魔法を制御できなくともなんとかなる」

 俺たちはその後も短剣を振って色々と試して、今まで一番実験っぽいことをやった。


 結果として鞘から出して振る、もっと単純に言えばナイフを持って腕を振るという動作をすれば水、秋山さんが言うに水魔法が発動することが分かった。


 ちなみに振る以外の突くという動作では出なかった。

 まるで魔法の杖だ振ったら魔法が出てくる、杖ではなく短剣だから遠距離から近距離までカバーできる。

 合理的な武器かもしれない




 それから、体を動かしたり短剣を振ったり、あの水魔法に水斬りという名前がついたりしながら数日が経ち「ダンジョンに行くぞ」秋山さんからそんな指示が飛んできた。

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