第10話 実験風景

 牢屋から出てとりあえず俺はシャワーを浴びた。

 せっかくだからということで、食堂でご飯も食べた。

 食べる物の味は変わらないけど広い場所で取る食事、感慨に浸るほどでもないが久しぶりだ。



 確か1週間くらい閉じ込められていたはず。

 最初はご飯を届けてくれる人に日付を聞いていたけど最終的に面倒くさがられて、たぶんや分からないと言われることが多くなった。

 だからあやふやなんだよな、ご飯の回数でなんとなく分かっていたけど。



 でもしばらくはあの部屋暮らしなんだよな。

 牢屋から出ることができたと言っても一時的なもの、俺はしばらくあそこで暮らすことになる。

 とりあえず基本的な実験が終わるまでらしい。


 果たしてその基本的がどれほど長くなるか。そんなことを考えていたら収容される時間になった、もはや馴染んできたシンプルな部屋の内装。

 ちなみここは捕まえた能力者を一時的に入れる場所らしい「はぁ」俺の予想は大体当たったが、嬉しくない。

 逆に真相が分かったことで嫌な気分になった。



 閉じられる重そうな扉の音を聞いてベッドに倒れる。疲れてはいない、ちょっと歩いただけだから。

 ただ、色々あったなとは思う。



 ん? ベッドが前と違う綺麗になってる、見渡すと心なしか部屋も綺麗になっている気がする。この部屋だけが特別なのか他もそうなのか。

 ここまでするなら別の部屋と思ってしまうが閉じ込めるという点においてこれ以上の場所はないのだろう。

 監視を置かなくてもなんとかなりそうではあるし。


 監視といえば、秋山さんが監視下と言っていたな。

 何をやらされるのかという不安、あの魔道具に対する興味やら期待が混ざった色々な感情を抱いて眠りについた。






 ガチャ「おっ、起きてる」秋山さんがやってきた。なんか軽いな。

「寝ること以外にすることもないので」自然に早寝早起きになる。あといつもだったらここから運動するんだけど、今日は止めておいた。実験中に変な怪我するのもいやだし、これからやること次第では体を動かすことになるだろう。


「行くぞ」秋山さんに付いていって移動する。ちなみに監視は1人になってた。

 3人列になって移動、他の通行者がきても邪魔にならない移動の仕方だ。



 そして足が止まる。

 この部屋が目的の場所? 扉が開けられ秋山さんに続いて入る。

 入った部屋には色々な器具があった。

「じゃ始めますか」その言葉と共に俺は体力測定を始めた。




「う~ん。なんというか」体力測定は無事に終了したけど、秋山さんがうなっている。

「どこか悪かったんですか?」閉じこもっていたけど体に違和感はない運動もしていた。

「いや悪いというわけじゃないんだ。ただ普通だなと思って」

 普通、俺の身体能力のことか。

「いや良くはあるよ。ただ、特別優れているわけでも特別劣っているわけでもない」

 それを指してそんななんともいえない感じなのか。なんというか複雑な気持ちだ。

「まあ事前の資料で大体分かっていたから今更ではあるか。よし休憩」

 なんか釈然としないまま俺は昼飯を食べることになった。




 その昼飯中、俺は秋山さんにとあることを聞いた。

「アジト制圧って成功したんですかね?」アジト制圧作戦からすぐに自室待機、それからあの部屋に閉じ込められてほとんど知らないまま今に至る。

 自分が関わったことだから知りたいという思いで聞いてみた。


 秋山さんは詳しく知らないと前置きをして「アジトは制圧、数人の構成員も拘束した。ただ規模の割に苦戦したし逃した人数も多いそれほど実もなかった。失敗と言っていいというのが評価と聞いた」

「一般人にバレなかったんですか?」戦闘は長かった気がする、バレるかもしれないと思うほど。

「たぶんない、これから先は分からないけど。まあ渋谷班が応援に来たのが幸いだな」渋谷班というのは聞いたことがあるアジト制圧より前から。

 有名な班だ、簡単に言うなら強い班。今回の作戦には参加していなかったはずだけど応援か。まあ呼んでるよなあの状況だったら。最初から参加して欲しかったけど色々あるんだろう。



 そこから先はご飯を食べながら秋山さんのおもしろ能力者話を聞いていた。午後も色々と調べて俺はいつもの部屋(牢屋)に戻ろうとする途中「君が清心君?」声をかけられた。声の主は前を歩いている秋山さんを手でどかして、俺を下から上へと目線を移す。なんか値踏みされている感じだ。


「なんですか?」

「話題になっている魔法使いを一目見ようと思ってね。どうも渋谷班の班長、渋谷だ」ああ俺たちの間で話題に上がった渋谷班、この人が班長なのか。


 ん? というか魔法使いって何? そういえば魔法使いって思われているなんて憶測があったな「魔法使いではないです」色々と言われっぱなしなのは嫌なので一応否定しておく。


「そうか……秋山さん訓練はどうだった」俺から視線を外して渋谷さんは後ろを向く。

「機密ですので、渋谷班長といえでも答えられません」丁寧な秋山さん。

「そうか邪魔したな。秋山さん」最後に秋山さんに何か言って渋谷班長は去っていった。


 それから数分。

「……もしかして僕なんか敵視されてる?」

「少なくとも好意的ではない気がします」好かれてはいないだろう。


 そんなことがありつつも秋山さんに付いていって部屋に戻った。可能なら新しい部屋を用意するよと去り際に言われて、俺はベッドに横になった。

 それから数日間は秋山さんの指示に従って行動した。

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