第2話 魔法管理所

 魔力を使って身体能力強化という不思議な力を使えるのが能力者。同じく魔力を使って警棒や木を破壊するほどの威力を持った風を出すことができるのが魔法使い。


 俺は能力(身体能力強化のこと)しか使えない。魔力を使って風やら火を出すことができるのは、魔法使いしかできない。


 なら風の魔法を出してきたあの男がその魔法使いかと言われれば違う、あの人は魔道具を持っていた。魔法使いが特殊な方法で作るとされる魔道具は、風やら火を飛ばすことができる。要は魔法使いの力を使えるようになる。


 そんな魔道具や能力者を監理、保管しているのが魔法管理所、俺と園田が属しているところでもある。


 魔法監理所の役割は魔道具や能力者による被害をなくし、それらを隠蔽して世間を混乱させないこと。

 能力者と魔法使い、数として多いのは能力者。だがこの国の総人口で見れば能力を発動できない一般人が一番多い。その一般人の中にも魔道具に触れば能力者になることができる人もいる。そういう危険性もあって魔道具を管理している。

 ということを魔法管理所は言っている。



 まあ噂では魔道具や能力の存在を世間に隠しているのは、一部の人間がその恩恵を優先的に受けるためだというのもある。そんな闇を知ったところでどうにもできないけど。


 とにかく俺たちは能力者を捕まえて、今その魔法管理所に連なる施設にいる。人里離れ周囲には木々があり何かを隠すには持ってこいの場所にある建物、周りが鉄柵で囲まれて監視もいる。


 ここの施設には魔道具もあるから外から簡単に入ってこられないようにしている。時折入ってくるのを防ぐためか出るのを防ぐためか分からなくなるような施設だ。


 能力者を捕まえ任務が終わり、施設に帰った俺と園田は色々な声が響き椅子に座って机で作業している人たちを横目に俺たちの班長がいる机に向かった。


「お疲れ、怪我はないか?」椅子に座っている班長が俺たちを見るやいつも通り心配そうな声を上げた。


「風の魔法を受けましたが、かすり傷程度なので心配はいりません」今はもう血も止まって治っている。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫です。検査も問題なかったです」

「そうか、魔道具を持っていたと聞いて驚いたが大事がなくて良かったよ」

 大内おおうち班長、俺が所属している班の班長だ。班長といってもこの人が現場に出るのを見たことはほとんどないから俺と園田の教育係、責任者の方が近いと思っている。


 班長は椅子に深く沈み込んだ、相変わらず心配性だ。


「よく魔法食らって生きてるな」園田が呆れと関心が混じったような声で言った。

「直撃はしてないから」避けきれずに傷も作った、かすり傷で済んでよかったけど。

「俺なら、あんな速く動けない。直撃して真っ二つだな」

「慣れれば速く動ける」俺程度の能力、組織にいるならできる人は多い。さらに言えば、能力使っても足の速さだったり殴りの威力だったりは人によって違ってくる、得意と慣れだな。


「慣れであそこまで動けるなら夢はあるな。どうせ夢見るなら魔法使いたいけど……やるか」園田はしみじみとそう言って椅子に座った。俺も自分の机に向かってキーボードをかたかたすることにした。



 魔道具持ちの能力者を捕まえるという珍しい任務をした後日。

「戦闘がないのは気楽だけど、ここ一帯歩き回るの大変だぞ」俺たちは現在、施設を出て近くにある森にいた。任務は魔道具を探すためだ。俺たちが探していた能力者が魔道具を持ってうろついていたから、もしかしたらを危惧してだろう。


 この森も能力者が逃げ回っていた場所だ。他にも魔道具があるかもしれない。


 空に伸びる幹、見上げれば緑の葉が見える、施設の周りは自然が多いけどじっくり見る機会がないから心が洗われるようだ。別にこれから、ここら一帯を歩き回って魔道具を探す大変さから目をそらすためにこんな感情を抱いているわけでは断じてない。俺たちだけがこの魔道具捜索に駆り出されたわけでもない。


 いざとなったら、魔力を体に巡らせば長時間の運動もそこまで辛くないようにできる。感覚として体が軽くなる。もちろん危機的状況に備えてバランスは考える必要があるが、常時体を軽くさせるわけにもいかない。


 それに便利だけど、こういう魔力の使い方が苦手な人もいる。園田もお世辞にも得意とは言えないけど使えはしたはずだ。


「いざとなったら魔力使うとして、今回もそれに世話になるな」園田は俺の手の中にある方位磁針みたいな形の道具を指さして言ってくる。これは魔力を感知する道具で魔力がある方向に中の針が向く仕組み、施設の備品だ。ちなみにこれは魔道具ではない。魔道具は魔法使いが特別な方法で作った物を指すと聞いた、あまり詳しく知らないけど。


「相変わらず俺たちに向いているな」魔力を感知するからか針が俺たちの方向側に揺れ動いている。これだけ見ると少し心配になるが、さすがに使えない物を渡すことはない。魔道具に近づいたら役に立つ。

「行きますか」そうして俺たちはこの森を歩くことになった。

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