魔法が使える短剣を手に入れた。自由に生きれるよう強くなると決意する
草原紡
第1話 清心の日常
「
「いや見つかってない」
木々が邪魔だな、こんな森の中じゃ満足に人探しなんてできない。
「手分けして探したいよな」園田はきょろきょろと、いまだ見つからない人を探しながら言った。確かに手分けして探したほうが効率はいいだろう。
だが「どれだけ強いか分からないからな」
今回の任務は、一般人を殴った1人の男性を見つけることだ。可能なら足止めと拘束もするけど、俺たちはそこまで期待されてないと思う。
たった1人、だけど簡単じゃない。相手は俺たちと同じ能力者だからだ。
能力者、ものすごく簡単に言えば身体強化の能力を持っている人。簡単じゃないというのは相手がどの程度能力を自由に扱えるのかを分からないからだ。
1人なのは間違いないから見つけてしまえばもう探す必要はないが、程度が分からないのは危険だ。だから1人じゃなく、2人で班を組んで捜索している。
探している男がもしかしたら10メートル跳躍したり、拳で大木を叩き壊したり、みたいな力を持っているかもしれない。能力者であれば最低でも一般人の身体能力より上なのは確かだ。
「分かってるよ。真面目に答えるな」園田は呆れたように周囲を見る。
土を踏み、木を避けて森を進んでいく。どこにいるのか分からない相手を探すのは骨が折れる。俺たち意外にもこの森を捜索している班はいるから、見つかれば連絡がくるはずだけど、こないんだよな。
このままじゃ夜になるかもしれない。そもそも男はこの森にいるんだろうかという疑問が湧いてくる。
「まだいると思うか?」園田は別の方向を向きながら、俺と似たような疑問を口にした。
「跳躍して森から出てない限りはまだいると思う」少なくともこの森に入ったと説明された。この森を出たとは考えづらい。とんでもない力を発揮したなら別だろうが。
ザッザッ。
すぐに園田と目を合わせる。奥から聞こえてきた葉を踏みしめるような音。木々の隙間から人影を見た。園田も人影が見えたようだ。咄嗟に木に隠れ横から半身を出して確認する。
まず一緒に男を探している班じゃないのを確認して、耳と目に意識を集中する。再度音を聞いて方向を確認、さっき見つけた人影だ。そこそこ距離があるな、傾斜も木も多くて見えづらい。
相手は小走りで時折ふらつき木によりかかりながらでも足を動かしている。木で姿が隠れるから俺たちも動きながら観察する。
憔悴している感じだな。相手は俺たちの存在に気づいていないんだろうか。少し移動して顔を確認する……目的の人物だ。事前に配られた顔写真やらの情報が載っていたのと一致している、少しやつれている感じはあるけど。
見つけたのはいいけどまずいな、男が進んでいる方向に距離はあるがその先に民家がある。すぐにたどり着けるとは思えないが、それでも能力があるからな……。
「園田応援を、俺は男を見ている。終わったら足止めをする」
「了解」
園田はてきぱきと連絡をして、それが終わると園田にひと声かけてから俺は走った。一般人が走るよりも速く、能力を使って走った。体全体に何かが巡る感覚、これは魔力だ。能力者は魔力を使って身体強化を行う。
地面を踏みしめ、木を避けて俺は目的の男に近づく。
園田には隠れてもらう、可能なら俺が注意を引いて園田が取り押さえるという方法ができるように。あとは相手の手の内も分からないし共倒れを防ぐためでもある。まあ応援がくるまで時間を稼いでもいい。
「ひっ」
さすがに近づいている最中にバレはした。だがすぐに逃げるような素振りはない、足で土を削りながらちょっとずつ後ろに下がっている。迎え撃つ気だろうか、腰にある警棒の持ち手を握る。
「くるな!」男は懐から何かを取り出した。
よく切れそうな小さいナイフ。
武器持ちか、だけど戦闘用とは思えない小さいナイフだ。
警棒を右手に持ち一気に接近する。あのナイフと憔悴具合ならなんとか。
ナイフを突きつけたまま男は下がっていく。
「来るな!」ナイフが動いた。警棒で防御っ!
瞬間、警棒が切られた。
慌てて横に避ける。ナイフで切られたのか? だけど戦闘で使えるような武器じゃ……いや違う、ナイフじゃない。ナイフと警棒がかち合った、そのときに風を感じた。風が警棒を切った。そんなバカな、と思うと同時に嫌な予感がした。
まずい離れないと。
「くっ!」右腕が切られた、ナイフじゃないこれは風だ。傷は、ああ良かったかすり傷だ。咄嗟に木に隠れる。
「驚いたか! 俺は使えるんだよこれを!」さっきの怯えは嘘のような威勢がいい声がする。
風で警棒を切る、まるで魔法だ。男は魔法使いだったのか? いや男は能力者だ、事前にそう聞いた、たぶん間違ってない。
なら、あのナイフか。あれは魔道具なのか? 能力同様、魔力を用いて力を発揮する物。さっきみたいな殺傷力がある風を放つことができる、魔法とも呼ばれる力。最悪だ、魔法が使えるなんて聞いてない。
いやとにかく、この男を民家に近づけじゃいけない。
その思いで何度も男を止めようと近づくが風に邪魔される。そのせいでいくつか浅い切り傷が足や腕にできた。
風がくると分かって回避してこれだ。1つ救いなのは男の体力が限界に近いところか、かなりふらふらしている。
「あぶなっ」風のせいで満足に相手の様子も見れない。木を盾にして出ては隠れてを繰り返す。さすがに人をまるまる隠れさせる大木はないけど壁にはなってる。
どうやって止めよう。もし直撃しても即死はしないと思う、こっちも魔力使って体を強化すれば耐えれるはず、確証はないけど。
切られた警棒や風が当たって木がえぐれているところを見てしまうと、俺の体もああなるのかと考えてしまう。
無理に突っ込んでナイフを落とすのは最終手段だな。園田の姿も確認する余裕がない、まあどっかで見てるだろう、俺に何かあったら頼むと心のなかで言って移動する。
警棒はさっき切られたから使えない、そもそもあの風に警棒の防御力は無意味か。それに魔道具相手に普通の警棒じゃ守りきれない。
……一か八か、体に魔力を流す、どこから攻撃されてもいいように体全体を強化する。木を盾にしながら俺は男の周りを走る。
「チッ、ハエかよ」イラつき混じりの言葉が耳に届く。同時に風も一緒に飛んできたが、木に当たったりかすり傷だったりで致命傷はない。
俺も同じ立場なら似たように苛ついただろう。実際やってることといえば木に隠れたり出たりして無駄撃ちさせている。つまり男の魔力をなくすという地味で姑息ともいえる作戦。だけど男の体力のなさから勝算がないわけじゃないと考えている。じゃなきゃこんなことはしない。
「クソっクソっ、当たれよ!」
男も男で背中を見せるわけにはいかず、ずっと俺を目で追いかけてる、逃げるに逃げられない。
そんな攻防とも呼べない状況が続くが「まずいな」そう呟くほどにまずい。周りの木が倒されていき、壁がなくなってきた。ほんとすごい威力だ。
行くしかない、男の方も肩で息をしている体力はない魔力はどうか分からないけど。
よし。地面に落ちている枝を拾う、切られたものだろう。
走りながらすきを見る……っ今! 風が飛んできた後すぐ接近、拾った枝を男の眼前に投げ目眩まし、腕に手を伸ばす。
ナイフをどうにかしないと。
「邪魔だ」男がそう叫びと体が後ろに飛ばされた。
「うっ!」抵抗することもできずなすがまま背中に衝撃を受けた。背中に硬い感触、木に当たったのか。草が揺れて、葉が飛び散っている。たぶんさっきのは風の魔法、周囲を吹き飛ばすほどの風を出してる。そんなこともできるのか。
「おらっ!」目の前にナイフが迫ってきていた。あぶな、ザッと後ろにあった木にナイフが刺さった。今ならいけるか、そう思い取り押さえようとした。
けど、ナイフは無情に木を削りながら俺に向かってきた。なんという馬鹿力。まずいと思ったとき後ろから足音、人が飛び出してきた。その人たちはナイフを男の手から離した、俺が傷を負いながらできなかったことをあっさりと。
そしてまたあっさりと、男は地面に顔を押し付けられる格好になった。早業だ。一緒に男を追っていた別の班の応援がきた。
そのときになったようやく俺は周りを見れる余裕ができた。
それなりに人数がいる。
「はぁ」
色々予想していなかったことは起きたけど結果として男は捕まえられた。俺は多少腕や足に怪我したくらい。応援にきた人間は無傷だったが……。
そういえば園田は……いた。俺に近づいてくる。
「大して役に立てなかったな。すまん」
「応援を呼んでくれたから、十分」申し訳無さそうに謝ってくる。まあ無事、とは呼べないかもしれないけど俺は生きてる、出血多量で死ぬほどでもない。本当にかすり傷程度。
その後、今回の作戦で死んだ人はいないと聞いた、重症を負った人もいないらしい。結果だけ見れば成功だな。
だけど下手すれば死んでいたのも事実、魔道具の対処について改善点はある。「はぁ」もっと力をつけないとな。
ともかく今回の作戦は終了、能力者の拘束と、魔道具を回収できた。色々と反省点はあるけど、魔法による被害を食い止められたから良しとしよう。
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