第3話 ハイビスカス

 先生が病室にこっそりハイビスカスの鉢植えを持ってきてくれた。


 ハイビスカス模様の浴衣を縫ってあげたら、あの子喜んじゃって幼稚園に着ていくって駄々こねて、諦めさせるのが大変だったっけ。私の宝飾店パートの収入じゃ、夏祭りに連れて行くぐらいが精一杯の贅沢だったもんね。エメラルドのデザインが認められて、これからっていう矢先にあんなことになって、お祭りも結局行けなかった。こっちでは何一ついいことなかったな。あの子を授かったことは別にして。


 箱庭なんて作らせてどこが治療なんだか。あの生真面目な先生に悪いから、私も付き合ってるけど、あれをやってあの子が帰ってくるなら幾らでも作ってあげるわ。あれが“国生み”だなんて笑っちゃう。ニュースを見て来た、怪しげな宗教の人が置いていった冊子の言葉を並べただけなのにね。


 真っ赤な花を見つめていたら、道の両側に咲くハイビスカスの通学路が鮮明に甦ってきた。ああ、島に帰りたい。

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