第9話 行き違う運命
「あっ!」
見覚えのある小さな平屋の一軒家。
それは祖父母の家だった。
玄関から何も言わずに小学生の女の子が飛び出していく。
「あれは……」
赤いランドセルを背負って私が走っていく。
しばらくしてからまた玄関が開いた。
「おじいちゃん!」
8年前のおじいちゃんはまだ若い。
颯爽と自転車に乗って、通学路の交差点に先回りした。
やがて通学班で歩いてきた私は、おじいちゃんの姿を見つけるといきなり怒鳴りつけた。
「なんで居るの? 来ないでって言ったじゃん!」
おじいちゃんは寂しそうに私の後ろ姿を少し離れて見送っていた。
トボトボとおじいちゃんが家に帰ると、おばあちゃんが出迎えた。
「また様子を見に行ったんですか?」
「ああ、怒られちゃったよ……」
おじいちゃんは苦笑いしながら、よっこいしょと玄関を上がる。
「そっとしておいたほうがいいですよ。もう小学6年生ですもの。年寄りの見送りなんて恥ずかしいんですよ」
「そうなんだがなぁ」
「心配なのはわかりますけど、あの子にも心の整理をする時間が必要なんですよ」
おじいちゃんはおばあちゃんのその言葉に、小さく頷いた。
記憶では、この次の日からおじいちゃんは通学路に現れなくなる。
「おじいちゃん……おばあちゃん!!」
私は祖父母の心遣いを知って涙が止まらなくなった。
「でも、高校卒業してから私、一回も帰ってない……今更おじいちゃんたちに合わせる顔なんてない」
「そう思ってるのはあなただけなんじゃないですか?」
イチルが触れた壁に、狭い部屋が写った。
「可哀想に……『便りのないのはよい便り』なんて呑気なことを言ってたばかりに、こんな酷いことになるなんて」
嗄れた声が弱々しく響く。
「おじいちゃん!?」
「結婚するって言うから幸せに暮らしてるもんだとばかり思っていたのに。本当にこの子は不憫な子だよ……」
「おばあちゃん!!」
二人は人目も憚らず泣き崩れている。
「ずっと、待ってくれてたみたいですよ」
イチルの声に弾かれるように、私はシャワールームに飛び込みコックをひねる。
「辛かったら、いつでも帰ってくりゃええ」
「そうともさ。帰っておいで」
祖父母の優しい思いが温かいシャワーとなって私の体を撫でていく。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ごめんなさい……」
私の涙も一緒に流れて行く。
やがて光りに包まれたかと思うと、私は、病室で目を覚ました。
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