第5話 交差する運命

「誰からも望まれてなかったら……消えちゃうんだ」

 角刈りのおじさんと一緒にいた男の子がぽつりと呟いた。


「おい坊主、変なこと考えてるんじゃないだろうな?」

 角刈りおじさんは心配そうに男の子の顔を覗き込む。


「僕、次シャワー浴びます」

 男の子はうつむきながらそう言った。


「僕なんか誰も必要としていないから……多分すぐに終わります」


「バカなこと言ってんじゃねぇよ。必要とされてない人間なんていないって言っただろ?」


 慌てて諭す角刈りおじさんの後ろで、壁に映像が映し出された。


 男の子がビルの上から飛び降りた。

 気づいた角刈りおじさんは何を思ったのか男の子の着地地点に駆けていき、両手を大きく広げた。


「とっさによぉ、助けなきゃって体が動いちまったんだよな」

おじさんは映像を見ながら苦笑いした。


「僕なんか生きてるだけで迷惑をかけるんだ。こうして死んでもおじさんに迷惑をかけた」

男の子はまた泣き出した。


「迷惑なんかじゃねえって言ってるだろ。俺が勝手にやったことだ。

 お前、ここに来てからもずっと俺の心配ばかりして、泣きながら謝ってるじゃねぇか。お前は心の優しい、いいやつだよ」

男の子は泣きながら首を横に振る。


「めんどくさいから二人ともまとめて浴びてくださいよ」

 イチルはそう言って二人に道を開けた。


 男の子を立たせておじさんはコックをひねってやる。


 すると静かにすすり泣く声が聞こえてきた。

「ごめんね。杉山君がいじめられてたの、私知ってたのに……」


「この声は委員長?」

 中学生はシャワーを浴びながら顔を上げた。


「ごめんなさい。私が見殺しにした! 私のせいだ!」


「違う! 委員長のせいじゃない!」

男の子は今までで一番大きな声で叫ぶ。


「委員長は僕を心配してくれた。怪我したときは保健室に連れてってくれた。教科書破かれたときは見せてくれた。飛び降りたのは、僕の心が弱いからだ!」


 シャワーから悲しげな声が届く。

「ごめんなさい、ごめんなさい杉山君、ごめんなさい……」


「違う……君のせいじゃない」


「そう思うんだったら、直接伝えておいで」


 イチルが手をかざすと、男の子は光体となって、白い壁に吸い込まれていった。

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