第3話:幼なじみと無駄話

「あの世って、本当にあるのかしら?」

「???」


 昼休み。

 屋上で食事中、唐突にユイカは変な事を口にした。


「どうした、急に……」

「そんなの、何となくよ。決まってるじゃない」

「ええー……」


 何となくで振る話題じゃない気がする……。


「いい? あの世っていうのは、実在するかは分からない。空の先には宇宙しかないし、宇宙の外側には何があるのか分からない。それに、死ななきゃ行けない場所なんて確認のしようもない」

「そうだな……」

「とすると、あの世っていうのはわたし的には"異世界"の事じゃないかと思うのよね……」

「そう、だな……?」

「こことは違う、別の世界。平行世界、あるいはパラレルワールドとも言われる世界。とても近くて、限りなく遠い、裏の世界……。あの世っていうのは、そんな異世界だと思うのよ」

「はぁ……」


 何言ってるんだろ、こいつは……。


「ねえ、聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」


 半分は聞き流してるけど。


「それで? 結局、その"異世界"ってのはどこにある訳?」

「さあ? 分かるわけないじゃないそんな事。馬鹿なの?」

「え? 今バカにされた?」

「冗談じょーだん。わたし的には、異世界っていうのはこの世界と表裏一体の存在だと思ってるわ」

「表裏一体?」

「そ。紙の表と裏、みたいな感じかしらね? あるいは海と大地の狭間、あるいはどっかのストーンヘンジかもしれない。あれ、もしかしたら異世界へのゲートかもしれないわね」


 何、そのぶっ飛んだ発想……。どっから出てきた?

 こないだの失恋でぶっ壊れちゃったか……?


「ほら、ソータも考えてみなさいよ」

「え?」

「ソータは、あの世ってどこにあると思う?」

「オレにそれ振る?」


 そんな話振られても困るー……。

 けど、そうだなぁ……。


「うーん?」

「そんなに悩む事かしら?」

「え、だって現実離れしてるんだもの。急には無理だよ」

「そんな事無いでしょ。去年みたいな妄想力を爆発させてみなさいよ」

「ちょっっっ!?!!」


 やめろ!

 封印したオレの黒歴史を引っ掻くんじゃない!


「分かったよ! ちゃんと考えるから!」

「そーそー」


 しょうがないなぁ……。


「えーと……。オレの考えじゃ、それって"霊界"ってやつなんじゃない?」

「へぇ……」

「え、何そのにやけ顔?」

「べっつに〜? ほら、続けて続けて」

「その、霊界ってのはつまり、死んだ人間の魂が行き着く場所って事で、それはつまり、死なないと視えない世界って事で」

「長い。もっと簡潔に」


 それお前が言うー?


「えと、つまり、霊界っていうのは同じここにあるって事なんじゃないかと思う。生きてる人間が見ているのがこの世界で、死んだ人間が見ているのが霊界って事……、じゃ、ないかと……」

「ふぅ〜ん……?」


 ユイカは終始ニヤニヤしていた。

 ええい、くそ恥ずかしいなぁこれ!

 だから嫌だったんだよ!


「くそつまんない」

「ヒドイ!」

「でも、良いんじゃないそれ?」

「そ、そう……?」


 ―――キーンコーンカーンコーン。


「「あっ」」


 無駄話している内に予鈴が校内に鳴り響いた。


「もう休み時間が終わったわね。さっさと行きましょ」

「え、あ……」


 ユイカはさっさと立ち上がってスタスタと去っていった。


 オレの弁当の中身はちょっと残っていて、すでにひんやりと冷めていた。


 最悪……。


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