第2話:幼なじみとショートケーキ
コーヒーカフェ。
店内に流れるBGMは大人な雰囲気を演出し、豆を挽いて淹れられるコーヒーは疲れきった人々の心と身体に沁み渡る。
店によっては、手作りのクッキーやケーキなどのお菓子や軽食まで出てくるところもあり、仕事に疲れた人々にとっての都会のオアシスと呼ぶ者もいるとかいないとか。
そんな大人な雰囲気のカフェに、一組の学生のカップルが入店した……。
◆◆◆
「適当な事言うな!」
「何言ってるの?」
「いや、何でもない……」
勝手な事を言うナレーションが聞こえた気がしたので、思わず心の中でツッコんだつもりが、知らずのうちに口を突いて出てしまっていた。
もっと、しっかりせねば……。
「ふぅん……。庶民の店にしては上等じゃないの」
「……ちっ、これだから金持ちは……」
「何か言った?」
「いや別に」
オレ達は適当に窓際の席に座ってメニュー表を開いた。
「さ、好きなものを注文してくれて良いぞ。今日はオレの奢りだ」
「別に無理しなくて良いわよ。この店程度の金額くらいは余裕で……」
「良いから良いから。少しは男としてカッコつけさせてくれよ」
「はいはい。じゃあそうさせてもらうわ」
うわ素直ー。
金持ちの家柄に生まれただけあって、普段なら他人に奢られる事なんて絶対に拒否してたはずなのに、今日はすんなり受け入れたな……。
やっぱり、相当メンタル弱ってるなこいつ……。
注文が決まったのか、ユイカは呼び鈴を鳴らして店員を呼び出した。
「ご注文をお伺いいたします」
「このロイヤルミルクティーをひとつと、いちごのショートケーキとこのロールケーキを2つづつ、それとスコーンと……」
ユイカはメニュー表を開きながら、次々と注文をしていった。
「……最後にフルーツクレープ。以上で」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
注文を終えたユイカは、涼しい表情で水を一口飲んだ。
対するオレは、背中に冷や汗をかいていた。
「どうしたの? 顔真っ青よ?」
「なぁ、そんなに頼んで全部食えるのか……?」
「問題ないけど?」
「…………」
お金、足りるかな……。
しばらく待っていると、注文したお菓子が次々と運ばれてきた。
テーブルの上に所狭しと並べられたその光景は、まさに圧巻の一言である。
その甘い香りと相まって、見ているだけで胸焼けがしてきそうだ……。
「いただきます」
「どうぞ……」
ユイカは手始めにショートケーキから食べ始めた。
「ん〜、まぁまぁの美味しさね」
「待て、何と比較した?」
「ウチの屋敷のシェフとだけど?」
「いやいや、お前ん家のとこのシェフてってあれだろ、元一流ホテルの専属料理長だった人だろ?!」
「ええ、その通りよ」
言いたい事は色々あるが、とりあえず超一流シェフと小さなカフェのデザートをあまり比べないでやって欲しい……。
「ぱく。もむもむ……」
「……」
注文した大量のデザートを次々と平らげていくユイカ。
その表情は、心なしかいつも通りの表情に少しづつ戻ってきているように見えた。
「なぁユイカ」
「ん? 何かしら?」
「〈ショートケーキの日〉って、聞いた事があるか?」
「何それ?」
何となく話題を振ってみたのだが、どうやら知らないらしい。
オレはここで、ひとつの雑学を披露した。
「カレンダーで見ると、毎月15日の下は必ず22日となっている。上の"15"が語呂合わせで
気になった人は、今すぐネットで検索してみよう。
「へぇー。面白いわね」
「だろ?」
「まぁどうでも良いけど」
「をい」
オレの雑学を受け流したユイカは、気づけば全品完食していた。
「ご馳走様」
「嘘だろ……?!」
どう見積もってもひとりじゃ完食出来そうに無かった量のデザートが、ものの見事に食べ尽くされていた。
フードファイターでも目指せるのではなかろうか……。
「……ありがとね」
「?」
「ここに誘ってくれた事。カフェを選ぶ辺りが実にソータらしいわね」
「ああ……。まぁ、ちょっとでも気が晴れたなら良かったよ」
「そうね。たくさん食べたおかげで、ちょっとはスッキリしたわ」
そう語るユイカは、少しだけ表情が明るくなっていた。
その表情が見れただけでも、良しとしておくか……。
「それじゃあ、わたしはこれで帰るわ。支払い、よろしくね」
「おう。また明日な」
去っていくユイカを右手を振りながら見届け、オレも会計を済ませようと店員を呼んだ。
「お客様。こちら、お会計でございます」
「ごふっ……」
オレはその金額を見て戦慄し、血の涙を流しながら会計を済ませた。
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