Butter&Margarine

遅筆屋Con-Kon

第1話:誘い

「す、好きですっ! 付き合ってくださいっ!」

「……は、はい。喜んで……」



 それは、甘酸っぱい青春の1ページ。

 怖気づきながらも、勇気を振り絞って好きな相手に告白する男子。

 突然の告白に動揺し、頬を紅潮させながらもこくりと頷く女子……。


 そんな2人の空間には、えも言われぬ甘い甘ぁ〜い雰囲気が漂う。

 これが漫画であれば、背景にはたくさんの薔薇の花びらが舞っている事だろう。


 なんとも初々しい、ロマンティックなワンシーン。

 だが……。


 時にはその裏で、辛い現実に身を打たれ、悲しみに暮れる者もいる……。





 ◆◆◆





「びえええええん! びえええええん!」

「うおぉ……」


 登校早々、オレの隣の席に座っている嘉神原かがみはらユイカが喚き散らかしていた。


 その周囲を、ユイカと仲が良い女子達が取り囲んで必死に宥めていた。


 オレは近くの女子に聞いてみる事にした。


「なぁ。ユイカの奴、何かあったのか?」

「ん? ああ。実はね、昨日、隣のクラスの牧野くんと加瀬さんが付き合ったらしいの」

「へぇ……?」

「あの子も牧野くんの事が好きだったみたいだから、2人の事を聞いて泣いちゃってるって訳」

「あーらら」


 そういう経緯か……。


 確かに、ユイカからは以前より『牧野くんの事が好きなんだけど……』と相談を受けてはいた。

 幼なじみとして、ユイカの恋路をそっと見守ってきてはいたのだが、そうか、報われなかったか……。


 オレはそもそも恋というものがまだよく分からない身、失恋というものの悲しみはとんと想像もつかないが、とにかく悲しいという事だけはあの惨状を見れば伝わってくる。


 どうにかして慰められないものか……。


「ふぅん……」

「ね、これってチャンスじゃない?」

「え?」

「黒神くん、ユイカちゃんと幼なじみなんでしょ? いつも仲良く一緒にいるし、今なら口説き落とせるんじゃない?」


 何を言っているのだろうか、この女子は……。


「いやいや。ずっと一緒にいるというのに他の男に恋しちゃう奴だよ? オレなんか眼中にもないだろう」

「分からないよ〜? 女の子って、弱っているところに優しくされるとコロッといっちゃうものなんだから」

「それは黒木さんの偏見では……?」

「まぁそれはひとまず置いといて」

「出来ればゴミ箱に捨てて欲しい……」

「幼なじみとして、何か慰めてあげたら?」

「でも、何をどうすれば……」

「何でも良いんじゃない? どっかに連れて行くとか、甘いお菓子をプレゼントするとか。カラオケとかも良いかもね」

「なるほど……?」

「んじゃ、後は頑張ってね。応援してるよ〜」


 何を頑張るのかよく分からないが、確かに仲の良い幼なじみを放っておけないのもまた事実。

 ここはオレが、一肌脱ぐとしよう。


「おはよう」

「おっ。噂をすれば幼なじみ君が」

「噂?」

「何でもないよ。……おーいユイカー? 愛しの黒神くんが来たよー」


 愛しの、は止めろそこの女子ども。


「ぐすん、ぐすん……。ソータぁ……?」

「おはよ、ユイカ」

「すん………」


 オレは努めていつも通りに挨拶した。

 すると、あれだけ泣いていたユイカはすぐに泣き止んだ。


「おぉ……?」

「挨拶するだけで泣き止ませるとは。やるねぇ、幼なじみくん……」


 外野がうるさいが、無視だ無視……。


「話は聞いた」

「すん、すん……。……それで、何か用?」


 上目遣いにキツく睨まれるが、これは割といつも通りなので受け流す。

 こいつ相手にいちいち反応してたらキリがない。


「放課後、どっかカフェでも行かないか? 愚痴でも何でも聞くからさ、甘いもんでも食べに行こーぜ?」

「……甘い、もの……」


「おぉーっ! これは、さりげなくデートの誘いでは……?!」

「さすが幼なじみくん、臆せずに誘っちゃったよ……」

「ユイカちゃんはどう出るかな……?!」


 いや、ホントに外野がうるさい!

 ちょっと黙っててもらえませんかね……?


「どうだ、ユイカ?」

「………………いく」

「おーけい、んじゃ放課後な」

「ん……」


 そうして放課後の約束をし、オレは席に着いた。

 と言っても隣の席だし、何時でも話せる距離なのだが。


「おぉー! デートの約束成立したー!」

「これは、放課後が楽しみですなぁ……♪」

「いや、ついてきちゃダメだからな?!」


 さすがについてこようとするのは無視出来ず、オレは激しくツッコんだ。

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