第3話 トイレットタワー

ペットボトルの飲み残しのように、ほんの少しだけトイレットペーパーを残された事件の翌日、事態は展開を見せる。


確かに私は、替えのトイレットペーパーを置いておいてくれたら嬉しいと伸一に伝えた。


私の正直な気持ちだったし、『そうしてくれたら良いな』とは思った。


だけど、違うんだよね~、伸一くん。


昨日私が感情的になりながら補充したことにより、ホルダーにはまだ十分に残っているトイレットペーパー……。


だがしかし、スカートとショーツを下ろし、下半身半裸で陶器の便器に腰かけている私の視線の先、トイレの扉と壁のほんの少しの隙間、角といえば伝わるだろうか…


そこには、高々と積み上げられたトイレットペーパー………。


一番下は、トイレの床に直に置かれいる。


そして、いくつ積み重なっているのだろう…


十個は積み上がっているのだろうか?


便器に腰かけた私が見上げるほど高く積み上げられたトイレットペーパー……。


おそらく洗面所の下の扉に収納されていた、買い置きの全てをここに持ってきているのだろう……。


そうか~。


伸一くん、君にはそう伝わったのか~。


ガクッと肩を落とす私は用を足し、トイレットペーパーを使用して後始末をすると、静かに伸一のデスクへと足をむける。


背後から近寄る私の気配に察したのか、伸一は椅子を回転させて私に向き直ると、褒められると勘違いしているのだろうか、嬉々とした表情で私にしゃべりかけてくる。


「ん?どうした?ああ、トイレの事か?あれなら良いだろう?わざわざ洗面所まで取りに行くことも無くなるし、在庫も一目瞭然、我ながらたいしたアイディアだと思うんだよ。」


満足そうに自分の行った所業について語る伸一に私は、呆気に取られながらどう説明したものかと思案するそして、


「伸一、替えのトイレットペーパーを用意してくれたのは分かるんだ……。だけどあれは……。」


そう言葉を絞り出すのが精一杯だった。


そんな私に伸一は少し残念そうな表情になりながら、


「え?何で?ダメだった?ん~何が駄目か教えてよ。」


そう子供のように問いかけてくる。


こういう伸一の正直で、自分の悪かった行いを直そうと、人に聞ける所は好きなんだよね……。


そう思いながら、私は溜め息をひとつつくと、冷静に、冷静にと自分に言い聞かせながら口を開く……


「あのね、伸一……。トイレのあんな場所に重ねて置いていたら、まず危ないと思わない?倒れる危険もあるでしょ?」


そう淡々と伸一に言って聞かせようとする私に、伸一は正直に自分の思った通りに言い訳をしてくる。


「ん~、でもトイレットペーパーだよ?当たっても痛くないし。」


自分の行いに、なにひとつ落ち度を見つけられない伸一らしい返事だった。


だけど、私はそんな伸一の態度が琴線に触れ、少し語気を荒くすることとなる。


「痛いとか痛くないじゃなくて、倒れるかもしれないから落ち着けないでしょ?」


私の強い口調に少し面食らった伸一は、小声で、


「それはそうだな……。分かった戻しておくよ。」


そう言って、椅子から立ち上がるとトイレへと向かう伸一。


私は、そんな伸一の背中に冷たく、


「そうね、そうしてくれたら助かるわ。あっ全部戻して置いてね?」


そう一言付け加える。


伸一はその言葉の意味が分からず、再び私に向き直り私に問う。


「ん?何で?だってひとつは無いと困るだろ?」


そう問われた私は、今度はわざとらしく大きく溜め息をつくと、


「あのね、伸一が最近は座って用を足すようになってくれたから減ったとは言ってもね、排泄すればその菌はトイレのなかを舞うの。だから、あまり床に直置きでトイレットペーパーとか置きたくないのよ。」


そうゆっくりと話すと、伸一も素直に、


「そんなもんかな?分かった全部片付けておくよ。」


そう言って肩を落とし、落ち込みながらトイレへと向かうため、部屋を後にする伸一。


私はそんな伸一の姿を見送りながら、トイレの中に替えを置いておくのは衛生的にも悪いけど、ひとつくらいなら譲歩してあげてもいいかな何て事を考える。


今までは、ダサいから購入を渋ってきていた、トイレットペーパーホルダーカバーを買ってきてあげたら、ひとつはトイレの中にトイレットペーパーの替えを置くことができるそうすれば伸一への歩み寄りも出来るのではないだろうか………。


こうして私のトイレットペーパー奮闘記は終わりを迎える事に……なると良いな……。

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