40色 パーティーの催し

 パーティー会場に入場すると沢山の人達が中にいた。その人の多さにわたしは呆気に取られてしまった。その人達の身嗜みを確認するとここにいる人達は全員様々な会社の上層部の人達なのだろうと確信出来た。


「さすが、大企業のトップが集まる行事だな」


 マコトも少し驚いていたが冷静にいう。


「お前達の席はあそこだが自由に食事や会話を楽しむといい」


 スズヒコはわたしたちを席に案内してくれた。わたしたちは席に着くけど、スズヒコは席に着かなかった。


「では、ワタシはこの後少しだけスピーチがあるもので失礼させてもらう」

「あ、そうなんだ」


 てっきりわたしに付きっ切りになるものだと思っていたわたしは少し驚いた。


「まあ、主催者なら当然じゃろうな」

「スズヒコ様!ワタシが護衛いたしますわ!」

「お前はここでじっとしてろ」


 スズヒコに着いて行こうとしたミルクをマコトが止める。


「よし、黒崎よくやった」


 そう一言いってスズヒコは急いで立ち去る。


「ちょっと、マコト!ワタシとスズヒコ様の恋路を邪魔する気!?はっ!?まさか、アナタもスズヒコ様を狙ってるのね!?」

「はあ!?ふざけるな!?なんで俺があのナルシスト男とそんなことにならんといかん!」

「まあ、そうなったら作品が変わってまうのう」


 そんな訳のわからない争いをしているとスズヒコが舞台の上に立ってスピーチをはじめた。


「皆様、本日はお忙しい中お集まり頂き誠にありがとうございます」

「お、始まったようじゃのう」


 スズヒコのスピーチに会場の人達は耳を傾ける。


 スズヒコは自分の会社の紹介やこれからの方針を一通り話すと話を締めくくる。


「今のワタクシの会社がやってこられているのは様々な人との関わりやワタシの友人への愛があってこそかもしれませんね。」


 スズヒコの冗談に会場の人達はクスクスと笑うがわたしは心当たりがありすぎて苦笑い。


「では、冗談はさておき長話はこれぐらいにして皆様是非とも楽しんで行って下さい」


 スズヒコのスピーチが終わり周りの人達は食事や会話をはじめた。


「アイツ…この場でもなにいってやがる」

「社長さんらしいでいいと思うがのう」


 呆れながらいうマコトにピンコは笑いながら返す。そして、わたしは溜息を付く。


「…まったく…もう」


 いつもなら全然気にしないけど、沢山の人の前でそんなことにを言われ、わたしは恥ずかしくなる。


「あのすみません」

「えっ、はい」


 突然話しかけられたわたしは驚きながらも声のした方を振り返るとスーツ姿の男性が数名いた。


「もしかして、天海葵さんですか?」

「はい、そうです」


 わたしが返事をすると、後ろの男性たちが「おおっ!」と互いの顔をみながらざわつく。


「やはりそうでしたか、噂通りお美しい!」

「は、はあ…」


 とてつもなく鼻につくセリフをいわれ、わたしは苦笑いで返してしまう。


「なんだ?貴族のナンパか?」


 それを見ていたマコトが前に立つ。


「いえ、違います!勘違いなされたのなら申し訳ありません。ワタクシこういうものでして」


 男性の一人が胸ポケットから名刺ケースを取り出し、そこから一枚の名刺をわたしに渡す。


「『魔導具販売企業代表取締役』ってかなりのお偉いさん!?」

「はい、ですが、そんなに固くならなくても大丈夫です。ワタシ達は只、アナタと話がしたくて参りました」


 わたしと?なんて思いながらもすぐに思い出した。


「あ、もしかして、スズヒコ…じゃなくて、オウマ社長が言っていたのはアナタ達ですか?」


 わたしはスズヒコにいわれことを思い出しながらいう。


「はい、天海さんの技術はとても素晴らしいので是非とも天海さんのお話を聞きたくて」


 男性達はわたしにすごい期待の眼を向けてくるが、突然のことにわたしは「あはは…」と愛想笑いしかできなかった。


「残念だか、そいつに技術面や何故そんな物が造れるって聞いても無駄だぞ」

「え?」


 そんなわたしを知ってか知らずかマコトがいう。


「確かにマコトさんのいう通りじゃのう」

「そうね」


 マコトの発言に二人も頷く。


「そもそもそいつは自分の凄さを分かってないし、今まで大ヒットした魔道具も弟と妹の為に造っただけで、それ意外基本何にも考えてないただのブラシスコン製造機だ」

「なんだよ!人をバカみたいに言いやがって!ミズキとランを愛してるのはホントだけど!」


 マコトの発言にわたしはカチンときて言い返す。


 それをみていた男性達はポカンとしていた。


 まあ、こんな話を聞かされたら当然だよね。


「………素晴らしい」

「え?」

「素晴らしいです!」


 しかし、何故か男性たちに尊敬の眼差しを向けられわたしは困惑する。


「やはり世界を変える天才というのは当たり前のことを実現出来る人なんですね!」

「え、えっと?」

「確かに誰しも大切な人を幸せにしたいという気持ちがあります。ですが、それをなかなか実行出来る人はいません。それに自分のことしか考えてない人もいくらでもいます。それを大切な兄弟の為に実現出来るなんて!これが王真社長の仰っていた『愛があってこそ』という発言の真の意味なんですね!」


 男性達は口々に感嘆の声をあげる。


「これはまたいい感じの解釈をしてくれたのう」

「…はは」


 あまりの持ち上げられ方にわたしは乾いた笑いを出す。


 その後さんざん持ち上げられて男性達は他の社長の人達に挨拶があるとのことでわたしたちに一言挨拶をした後去って行った。


「…はあ…疲れた…」


 人に持ち上げられるのが思ったより疲弊するものだと思いしらされたわたしは机に手をつく。


「嵐のようだったな、大丈夫か?これでも飲め」


 普段わたしを貶しまくっているマコトが珍しく心配をしてくれて水を渡してくれた。


「ああ、ありがとう」


 わたしは一言お礼をいって水を受け取る。


「マコトさんも普段からあのぐらいシーニさんを褒めたらどうじゃ?」

「それはそれで気持ち悪いからいいよ…」

「おい、まだなにも言ってないのに酷い言い方だな」


 わたしは渡された水を飲み一息つく。


「はは、水ってこんなにおいしかったんだね」

「結構来とるのう」

「あのすみません」

「!?」


 またきた!?と内心身構えて振り返るとわたしの予想とは違い黄緑色ドレスに身を包んだ可愛らしい少女がいた。そして、その隣にスーツというより執事姿のミズキたちと歳のあまり変わらなさそうな少年もいた。


「あれ?フウムちゃん!?」


 意外な人物だったのでわたしは驚く。


「はい、ご無沙汰しておりますわ。シーニさん」


 フウムちゃんはスカートの裾を少し上げてザ・お嬢様といった挨拶をする。


「シーニさん、随分とお疲れのようでしたが大丈夫ですか?」


 疲弊しているわたしをみて、心配そうに聞いてくるフウムちゃんにわたしは手をブンブンと振り返す。


「全然大丈夫だよ!あまり慣れてなくて少しびっくりしちゃっただけだからさ」

「なら、よかったですわ」


 わたしの返しにフウムちゃんは安堵の表情を浮かべる。


「そういえばフウムちゃんはなんでここにいるのかな?」


 わたしは素朴な疑問を聞いてみる。


「ワタクシはお父様宛てに届いた招待状でご招待頂き参加させて頂いていますわ」


 なるほど、詳しくは知らないけど確かフウムちゃんはお嬢様だったよね?


「へぇーすごいね、わたしよりしっかりしてるね」

「いえ、そんなことありませんわ」

「そんな謙遜なさるな。その歳でこんな大きなパーティーをこなせるとはすごいことじゃ」

「ありがとうございます。ですが、『魔力なし』のワタクシはこのような事でしか家族の助けが出来ませんので」

「は?なんでそこでそんな話が出る?」


 フウムちゃんの発言にマコトは聞き返す。


「お主しらんのか?貴族は魔力が高い人が産まれやすいんじゃ、それで『魔力なし』となったら相当酷な目にあってしまったことは想像に難くないじゃろう」


 ピンコがマコトに説明する。


「すまんな、フウムさんこやつが失礼を」

「いえ、ワタクシが勝手に口走っただけなのでこちらこそ申し訳ありませんわ」


 謝罪するピンコにフウムちゃんは頭を下げて返す。


「そんなことで差別されるとは貴族ってのは古い考えのやつなんだな」

「こら!マコトさん、周りに聞かれたらどうするんじゃ!?」


 ピンコは慌ててマコトの発言を止める。


「そうね、魔力なんてあってもなくても変わらないわよ」


 今まで話を興味ないといわんばかりに食事を口にしていたミルクがいう。


「そういえばお前も『ほぼ魔力なし』だったな」

「ほぼ?」


 マコトの発言にフウムちゃんは首を傾げながら返す。


「まあ、ワタシの場合は浮遊魔法や魔弾といった基本魔法がほぼほぼ使えないだけで『身体能力に全振り』してるだけね」

「え?そうなんですの?」

「こいつは脳筋だからな」


 マコトの発言にミルクは全く気にせずに続ける。


「アナタ、みる限り相当カラダを鍛えてるわね」

「は、はい」


 ミルクはフウムちゃんを一瞬眺めるとすぐに口を開く。


「それだけ出来てるなら十分よ」

「え?」

「魔力なしだからといって何もかも諦めて生きるより何かで補おうとするアナタの姿勢、とても素晴らしいと思うわ。自信を持ちなさい。それも一種の『才能』よ」

「………」


 フウムちゃんは驚いた顔をしていたけど、すぐに笑顔になり口にする。


「ありがとうございます。ワタクシのやってきたことが無駄じゃなかったって改めて思えましたわ」

「改めて?」

「はい、『彼』にも同じことをいわれて救われたことがあったので」


 彼?誰のことだろう?


「お嬢様そろそろお時間です」


 なんて考えてるとフウムちゃんの後ろにいた少年がフウムちゃんにいう。


「あら?もう時間ですの?…シーニさん、そしてご友人の皆様申し訳ありませんが、そろそろ失礼させて頂きますわ。それと、ありがとうございました。シーニさん、天海さん…いえ、水奇さんと緑風さんにもよろしくとお伝えください」


 フウムちゃんはもう一度ザ・お嬢様といった挨拶をすると優雅に去っていった。


「心配無用じゃったか」

「え?」


 去っていったフウムちゃんをみたピンコは笑いながらいう。


「彼女は強い子じゃ」

「お前がいうとBBA臭いな」

「そういうお主も彼女の為に言ったんじゃろう?」


 ピンコの質問にマコトは「ふん」と一言だけ返す。


「ミルクさんもいいこと言ったのう、もしかして、境遇が『似ていた』からかのう?」


 今度はミルクに聞くとお皿のものを食べながら「まあ、そうね」と一言だけいう。


「あれ?そういえば、ミズキはともかくなぜクウタくんにもよろしくなのかな?」

「まあ、そういうことじゃろうな」

「え?どういうこと?」

「は?どういうことだ?」

「どういうことよ?」

「お主ら鈍すぎじゃろ…」


 わたしたちの返しにピンコはため息をつく。


 おいしい食事を味わったり、また、いろんな人に持ち上げられたりしながらも、わたしはパーティーを楽しんだ。


 そんなこんなでパーティーは無事に終わりを告げた。


「アオイどうだった?パーティーは楽しめたか?」


 着替えを終えたわたしにスズヒコは聞いてきた。


「楽しかったけど正直疲れたかな」


 わたしは正直な感想をいう。


「そうか、少しでも楽しめたのならよかった」

「まあ、キミのおかげでかなり充実できたよ」

「?」

「なんだかんだいって本当はマコトたちがくるのが分かっていたんでしょ?」

「気づいていたのか?」


 スズヒコは少し驚いた顔をする。


「当たり前じゃないか、わたしのドレスはともかくピンコとミルクのドレスそれにマコトのスーツまでしっかりと用意してあったからね。あまりにも準備が良すぎるからすぐに気づいたよ」

「しまったな…少し不自然過ぎたか」


 スズヒコは手を額に当てながらいう。


「なんだよ、別に隠すことじゃないだろう?」

「いや、なんというか、ワタシが張り切って皆の服を用意したことがバレてしまったことが少々恥ずかしくてな」

「へぇーキミにもなかなかかわいいとこあるじゃないか」


 わたしは少し赤くなっているスズヒコをからかう。


「ぬう…からかわれるのはしょうにあわないな」


 そういうとスズヒコはわたしの手を取った。


「?」

「いつも言っているがワタシはお前のことを想っている」

「そういってくれるのはうれしいけどわたしは…」

「分かっている」

「?」


 スズヒコはいつものスカした感じではなく真剣な顔をする。


「例えわたしがお前の一番じゃなくてもお前が別の人を想っていようとワタシの気持ちは変わらないそれだけは覚えていてくれ」


 そういうとスズヒコはわたしの手の甲にキスをした。


「!?」


 突然のことにわたしは驚き少しドキッとしてしまう。


「これでおあいこだな」


 スズヒコはわたしの手を離し笑いながらいう。


「…ほぼ告白じゃないか」


 わたしは顔が少し熱くなっているのを自覚しながらも目をそらしながらいう。


「そう聞こえなかったか?なら、もっとあまーい言葉を囁いてやろうか?」

「やめろバカ!ウザすぎて殴りたくなるよ!」


 わたしは半ばやけになりながらいう。


「俺達は何を見せられてる?」

「お二人さんわたしゃ達も居ることを忘れておるみたいじゃのう」

「キィー!許せないわ!スズヒコ様からのキスなんて!コロシテヤル!コロシテヤルワー!」


 三人がいたことをすっかり忘れていたわたしはさらに恥ずかしくなって慌てて弁解する。


「ち、違うからね!これはスズヒコが勝手にやったことで!」

「何が違うんだ?人前でイチャイチャしやがって」

「べ、別にイチャイチャなんて!」

「コロシテヤルコロシテヤル」

「おや?お二人さん嫉妬かのう?」

「違うわ」

「ソウヨ」


 二人に特にミルクから憎悪を向けられわたしは逃げ出したくなる。


「くだらん、さっさと帰るぞ」


 マコトはそういうと背中を向けて行ってしまった。


「おっと、これは本当に嫉妬かもしれんの」


 それをみたピンコは「ひひひ」とイタズラっぽい笑い声を出す。


「コロシテヤルコロシテヤル」

「こっちはむしろ呪いだよ…」


 わたしはミルクからの憎悪をなんとかしたかった。


「まあ、とにかく今日はありがとう。また、今度お礼でもするよ」

「本当か!それは嬉しいぞ!では、予定の確保が出来しだい豪華なお店の貸し切りをしよう!」

「そうゆーのはいいから!ていうか、わたしがお礼をするっていってるんだからそれだと意味がないだろ」

「コロシテヤルコロシテヤル」

「まあ、とりあえず今ここにいると呪われそうだからまた今度!」


 わたしは半ば強引にその場から離れる。そして、マコトのご機嫌取りをするために追いかけた。


 



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