2色 魅惑の果実と恋の暴走列車

 しばらくして、隣町のセーランに着いたわたしたちはホウキを降りてマルの案内で目的の場所にむかった。


「到着しました」


 マルは足を止めてその場所を指さした。


「ここが、この町で一番の果物農園です」


 そこは、外からみても分かるくらい大きな果物農園だった。例えるなら、わたしの通う学校がまるまる入っちゃうくらいかな?


「へぇーおおきな農園だね」


 シーニもあまりの大きさにびっくりしている。


「二人ともこっちです」

「ごめん、すぐいくー」


 棒立ちになっていたわたしとシーニをマルが離れた場所で呼び、わたしとシーニはマルのもとに走って農園の入り口で立ち止まった。


「勝手に入るといけないので、入口に設置されているベルを押して先輩を呼びます」


 マルは、入口のベルの所へ歩みよっていった。


「とてもいい香りがするね」


 シーニのいう通り果物の甘い香りが外にまで流れていた。


「うん、おいしそうないい香り…ねっクー…って、あれっ!?クーは!?」


 わたしはクーに声をかけたが頭の上に乗っていたはずのクーがいなくなっていることに気が付いた。


「えっ!?クーどこ!」


 わたしは慌てて周りを探す。


「あっ!アカリあそこ!」


 シーニが指をさした方向に目をむける。


「ピュ~♪」


 甘い香りに釣られたクーが農園の中に入っていくのがみえた。


「クーかってに入っちゃダメだよー」


 クーはわたしの声が届かないのかそのまま中に入っていってしまった。


「おっおいかけよう!」

「うん!」


 わたしとシーニは丁度入口のベルを押そうとしていたマルの横をすりぬけて農園のなかへ消えて行ってしまったクーを追いかける。


「ごめん、マルあとからちゃんとあやまるからー」

「ええっ!?何事ですか!?」


 マルはいきなりの出来事に戸惑った。


「ちょっちょっと待ってくださいー!」


 マルは慌ててわたしとシーニのあとを追いかけてくる。


 

 農園の中にはいるとたくさんの果物の木がありいろいろな種類の果物が実っていてそのせいか中は外からみた以上に広く感じた。


 わたしはおいしそうな実のなっている木に一瞬気を取られたけどグッと我慢してクーを探す。


「クーー」

「おーい」

「どこですかー」


 わたしたちは口々にクーを呼ぶ。


「どこにいっちゃたんだろう」

「広いからなかなかみつからないね」


 わたしたちはお互いの目をみる。


「…うーん」


 マルはあごに手を当てて何かを考えていた。


「マル、どうしたの?」

「いえ、少し心配事がありまして」

「しんぱいごと?」

「はい、先程も説明したようにここの農園は私の学校の先輩の農園なのでもしかしたら先輩がクーをみつけて保護してくれていたなら安心なのですが……もし、先輩じゃなくてカノジョが保護していたら少し厄介だなと思いまして」

「やっかい?」


 わたしは、マルに問いかける。


「はい、カノジョの場合は『捕獲』が正しいかもしれません」

「どういうこと?」


 今度はシーニが問いかける。


「ザックリ説明するとカノジョに捕獲されたら面倒っていうことです」

「かなりザックリした説明だね」

「そ、それならはやくクーをみつけないと!」


 わたしは慌てていう。


 すると、少し離れた場所から「ピュ~♪」という声がわたしたちの耳に聞こえてきた。


 わたしたちは声のした場所をみるとそこにはクーが木に実っている果物を取ろうとぴょんぴょんと跳ねていた。


「クー!」


 わたしはみつけた喜びでクーの名前を呼んだがクーは果物に夢中でこっちには気が付いていなかった。


 後少しのところで果物が取れないクーは木のそばから離れて距離をとり、その場所から走りだした。そして助走をつけて小さなハネを勢いよくパタパタさせて飛んだ。助走をつけて飛んだことによりさっきより高く飛んだクーは木に実っている果物にむかって一直線、そしてクーの小さなくちばしが果物に触れようとした…

 

 次の瞬間!

 

 クーの周りに檻のようなものが出現し、クーはその檻の中に捕らえられてしまった。


「クー!?」


 今度は、驚きのあまり叫んでしまった。


「一足遅かったみたいですね」


 マルは冷静にいう。


「アナタたち…ここでナニをしているの…」


 背後からとても威圧感のある低い声が響き渡りわたしたちは声のした方向に振り返る。


 振り返った先からザッザッという草を踏む音を立てながらとても鋭いすみれ色の瞳をした女の子が歩みよってきた。


 その女の子は腰まである青紫色の髪をリボンで結んでいて黒色の長そでワンピース姿をして、瞳とおなじすみれ色の丸い形をした太くて長い鍵を後ろ腰にかけて背中にカゴを背負っていた。


「こんにちは、スミレ」


 マルが歩みよってきた少女にむかっていう。


「…マル…アナタまたきたの?」


 スミレと呼ばれた少女はマルにむかって怪訝そうにいいクーの入った檻に目をむけると手を伸ばし指をクイッと曲げて檻を自分の場所へ引き寄せた。


「コレ…アナタたちの?」


 スミレは鋭い眼をむけながらいう。


 彼女は声を低くして喋っていたけど元々の声が高いのか少し違和感のある喋り方だとわたしは思った。


「うん!わたしのコドモだよ!」

「えっ?」


 スミレの問いかけにわたしは自信満々に返したけど彼女はポカンという顔をした。


「アカリ、そのいいかたは少し違うと思うよ」

「えっ?違うの?」

「その言い方だと、いろいろと誤解をうむと思われます」

「まあ、いいわ…さて」


 スミレは気を取り直し続ける。


「アナタたちは、ナニをしにきたの?」


 またしても、背中が凍りつきそうなくらい鋭い眼をむけてくる。


「先輩にお願いしてここの果物を分けて頂こうと思いまして」

「センパイ!?」 


 マルの言葉にスミレの体がぴくりと動いたがすぐに口を開く。


「アナタのウチって八百屋でしょ?なら、アナタのとこの果物をあげたらいいじゃない…」

「ええ、私もそう思ったのですが新鮮で採れたてのを食べたいと思いまして」


 マルは冷静に返す。


「…そう…わかったわ…アナタたちセンパイをおそいにきたのね…」

「全然分かってないですね」


 そして冷静にツッコム。


「えーと…先程も云ったように私たちは新鮮で採れたての果物を頂きたいだけで…」

「ナニをいってもムダよ…」


 スミレはマルの言葉を遮り続ける。


「センパイは…アタシが…護る」


 どんよりとした黒と紫が混ざった色のオーラみたいなのがスミレの体の周りに表れた。


 そして、後ろの腰に掛けていた大きな鍵を右手で掴む。


「………」


 マルはあごに手を当てて数秒ほど考えたあと「よしっ。」といい。


 回れ右をした。


「逃げましょう」


 言うが早いかマルは走りだした。


「ええ!?」


 わたしとシーニは驚いた。


「に・が・さ・な・い・わ」


 スミレは後ろ腰にかけている鍵を引き抜き前に構え、鍵の先をわたしとシーニの方にゆっくりとむけた。


「ア・ナ・タ・た・ち・も・よ」

「え?」


 まっ黒な棒状のものが十数本ほどスミレの回りに現れる。

 その棒状のようなものは、すべて同じ向き長さ間隔で並んでいた。そして、その中の一本がわたしの方に向けられそのまま風を切るように勢いよく飛んできた。


「うわぁ!!」


 わたしは横に飛退きギリギリのところでかわす。


「アカリ!大丈夫!?」

「うん、大丈夫!」


 シーニが駆け寄りわたしの手をとり起こしてくれた。


「…つぎは…あてるわ」


 スミレはまた鍵をこっちにむけて攻撃態勢にはいる。


「とりあえず逃げよう!」

「うん!それがいいとおもう!」


 わたしとシーニは回れ右をして地面を蹴り全力で走りだした。


「に・げ・て・も・む・だ・よ」


 スミレは魔法で体を空中に浮かしてドス黒いオーラを放ちながら追いかけてくる。


 わたしとシーニは猛ダッシュで走り前を走っていたマルに追いついた。


「いや~やっぱりこうなっちゃいましたね~」

「マル!なにあれ!?」

「なんか怖いしなぜか攻撃されたけど!?」

「彼女は、ちょっと訳ありで少し面倒なんです」

「少し以上に面倒そうなんだけど!?」


 わたしたちが走りながら話している間にもスミレは後ろからいくつもの棒を飛ばしてくる。


「なにあの魔法!?」

「あれは周囲の魔法卵の魔力を元に鉄パイプのようなものを造りだしてそのまま飛ばしてくるスミレが得意とする技のひとつです」

「なにそれ!?ふつうに怖い!」

「ちなみにあれの堅さは鉄パイプと同じぐらいの堅さなので当たったら多分骨が逝きます」

「ホンキで殺りにきてるよね!?」

「ハハハハハ(棒)」

「目が全然笑ってないよ!」

「まあ、簡単に云うと恋の暴走列車です」


 スミレの攻撃を三人並んで走りながらも右、左、ジャンプ、しゃがんだりしながらわたしたちはかわしていく。


「ど、どうしよう!?このままじゃ本当に殺られちゃうよ!」

「スミレの魔力が尽きるのを待っている暇はないですね。…仕方ありません」


 マルはかかとで急ブレーキをかけてその場に止まりわたしとシーニも続けて止まる。


「マル、どうするの!?」

「反撃します」


 そういうとマルは目の前の魔法卵を掴みそのまま魔法卵を一本の長い棒に変え、肩幅に足を開き左手を胸の辺りに置き右手でマジック棒をビシッと前に構える。


「これで打ち返します」


 前に突き出していた右手を自分のほうに下から回転させてそのまま左手で掴み少し膝を曲げる。


「バッチコーイ!」


 マルは気合の掛け声をだす。


「イケー」

「かっとばせー」


 わたしとシーニはマルを応援するよ!


 そして、スミレの攻撃がまっすぐ飛んできた。


「いらっしゃいませー!そして、おかえりくださいー!」


 叫びながら勢いよくマジック棒を振る。


 二つのマジック棒がぶつかる次の瞬間、二つのマジック棒が消えた。


「!?」


「うぉっと!」


 全力空振りになったマルはバランスを崩す。


「おや?こんなところでケンカかな?」

「!!」


 果物の木の陰からいっぱいに果物のはいったカゴを掛けて緑色の農園着の穏やかそうなお兄さんがぷかぷかと宙に浮くホウキに立って乗りながら現れた。


「センパイ!?」

「こんにちは、リュイ先輩」


 スミレは飛び跳ねるように驚き、マルは冷静に挨拶をした。


「…えっと、せ、センパイ…これには深いわけが…」

「大丈夫だよ」


 スミレは慌てて彼のもとに駆け寄り状況を説明しようとしたが、彼は優しくスミレに笑いかけこっちをみて続ける。


「うん~っと、状況をみる感じだと…え~と、何かの事情ではいってきたマルたちをスミレはここの果物を盗みに来たと勘違いをして攻撃しちゃった感じかな?」


 おにいさんはわたしたちを見まわしながらいう。


「すごいです!微妙に合っていて微妙に合ってないです」

「…かんちがい?」


 スミレはすこし首を横に傾げる。


「はい、もう一度いいますが、私たちはここの新鮮な果物を分けて貰いにきただけで先輩を襲いにきた訳ではありません」

「あれ?どうして、ボクが襲われるの?」

「…そういうことなら早くいいなさい」


 スミレはため息まじりにいいマルは「アハハ」と乾いた笑いをする。


「そうだ、スミレそのコを放してあげて」


 リュイさんはスミレの横に浮いているクーのはいった檻をみていう。


「はい、わかりました」


 スミレが手に持っていた鍵の先を檻にあてるとクーは解放された。


「ピュ~♪」


 自由になったクーはわたしの頭の上に止まった。


「クー大丈夫だった?」

「ピュル~ン♪」


 わたしはクーに問いかけてクーはゲンキに返事をする。


「ねえ、キミ」

「うん?」


 シーニはおにいさんに声をかけた。


「さっきのってキミがやったの?もし、そうならなかなかの腕だね」

「さっきの?」


 わたしはシーニに問いかける。


「さっきのとはおそらく私とスミレの魔法が消えたことですね?」


 マルはわたしたちの方に歩みより興味ありげにいいシーニは頷く。


「わたしの推測だけど、マルとスミレのマジック棒の魔力がぶつかり合う寸前に魔力をぶつけて相殺させたんだとおもう」

「どうゆうこと?」

「同じ威力のチカラをぶつける。簡単にいうと1と1をぶつけて0にしたってことです」


 マルは両手の掌を合わせて説明してくれた。


「それだけじゃないよ」


 マルの説明にシーニが続ける。


「さっきの場合は、数字で例えると5と3の魔力がぶつかる瞬間に5には5、3には3の威力の魔力を離れたところから的確にぶつけたんだ」


「へーすごいね!(よくわかってない)」


 わたしはリュイさんの方をみるとリュイさんはニコリと笑う。


「そんなことが出来るってことは、かなりの上級者だね」

「…あたりまえよ」


 わたしたちの話にさっきまで黙っていたスミレが口を開く。


「…だって、センパイは《水星の魔導師》だもの」

「水星の魔導師?」

「なるほどキミがあの噂の水星くんか」


 シーニは納得するけどわたしはポカンと首を傾げる。


「!…アナタ…まさかしらないの?…それでも、魔導師のタマゴ?」


 スミレはわたしを見下すようにいう。


「う…」

「私が説明します」


 困っているわたしにマルが教えてくれる。


「魔導師にはいくつかのランクがありまして順に《星》《冥星(冥王星)》《月》《水星》《火星》《金星》《地星(地球)》《海星(海王星)》《天星(天王星)》《土星》《木星》《太陽》の魔導師があります」

「そんなにあるの!?」


 マルは「はいっ」と頷き続ける。


「このランクは分かっての通り《星》がモチーフになっています。《星》の次に大きな惑星は《冥王星》という様に大きな惑星の称号を持っている程偉大な魔導師と呼ばれます」


 すこしヒートアップしてきたマルはわたしの方にグイグイと歩みよってきた。


「そしてどんなに優れている魔導学生でも《月の魔導師》までしかなれないと云われていたのですが、リュイ先輩は飛び抜けている才能で魔導学生にもかかわらず《水星の魔導師》なんです」


 熱弁するマルの威圧に少し押され気味だったわたしのお腹が「ぐう~」と鳴りだした。


「マル、そのコが困っているみたいだからそのくらいにしてウチの自慢の果物をごちそうするよ」

「やった!」


 わたしはマルを押し返す感じで喜ぶ。


「さあ、3人とも歓迎するよ。スミレ、休憩所まで案内してあげて」

「はい、わかりました。………アナタたちセンパイの優しさに感謝するのよ」


 おにいさんにむける眼とは全く違う冷たくて鋭い眼をわたしたちにむけると「ついてきなさい」といいわたしたちに背をむけて無愛想に歩きだしたスミレに「悪いコではないので気にしないでください」とマルはフォローをいれた。




「さっきはわるかったわお詫びにこれでも食べなさい」


 休憩所の中の席まで案内されたわたしたちの前にスミレはいちごケーキをだしてくれた。


「こんないいのをだしてもらっていいの?」


 シーニは目を輝かせながらいう。


「いいのよ…ワタシはウチがケーキ屋と喫茶店を経営してるからいくらでもあるわ」

「スミレありがとうございます。では、いただきます」


 マルは顔の前で手を合わせて言いケーキを食べ始めわたしとシーニも「いたたきます」と手をあわせケーキをフォークで一口サイズ切り口に運ぶ。


「!!!」


 わたしの体に電撃のような衝撃が走った。


 その衝撃で体内の細胞ひとつひとつに味が染み渡っていき脳が活性化したような感覚が全身に伝わりわたしは考えるよりも先に叫んでいた。


「おいしーーーーーーー!」


「うん、たしかにすごくおいしいね」


 わたしとシーニはあまりのおいしさに感動する。


「さすがスミレいつ食べても頬っぺたが落ちそうなくらい美味しいです」


 マルは頬をおさえながらいう。


「それにいちごの酸味がケーキの甘さといい感じのハーモニーを奏ででいます」

「いいところに気付いたわね」


 スミレはにやりと笑う。


「トッピングの果物はここの農園の果物をつかっているけどそのなかですこし酸味の利いたのをつかっているの…そうすると、ケーキの甘さがさらに引き立つわ…そう、それは乙女の甘酸っぱい恋のように…」


 スミレは恋する乙女のような顔で斜め上をみつめる。


 恋する乙女は普通鉄パイプを飛ばしてくるのだろうか?とわたしは思ったけど口にケーキを運び言葉にださないようにした。


「まあ、愛の鉄分といったところです」


 わたしの心情を察したマルが耳打ちをする。


「待たせちゃってごめんね」


 ドアの開く音と同時に穏和な声が室内に響き、片手にカゴを持ったリュイさんが中に入ってきた。


「はい、ボクの農園で育てた自慢の果物だよ。切らないといけないのは切ってあげるから是非、食べてみて」


 リュイさんはニコニコしながらカゴを机の上に置いた。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


 マルは籠の中の果物に目を移してそのなかのリンゴを掴みリュイさんに渡す。


「これをお願いします」

「まかせて」

「じゃあ、わたしはこれをもらうね」

「わたしはこれ」


 シーニは青ぶどうをわたしはイチゴのいっぱいはいったお皿を取り出す。


 わたしは「いただきま~す」といいイチゴを口に放り込む。


 すると、さっきケーキを食べたときの感覚とは違う衝撃がわたしの体を襲う。例えるなら、砂漠でオアシスのように実る伝説の果実とか!これを巡って世界が滅亡する禁断の果実とか!毎晩おかあさんが夕食でだしてくれるみそ汁のおふくろの味とか…!


 そう、一言でいうなら…


「なんかよくわからないけど、おいしー!」


 うん、おいし過ぎて「なんかよくわからないけど、おいしい!」これがわたしの率直な感想。


 ふと、わたしはシーニの方をみるとシーニは右手で顔を覆っていた。


 そして、数秒後に顔から手を放すと我が子が誕生した時のような優しい笑顔でにこりと微笑み天を仰ぐ。


「もう…思い残すことはないよ…」 


 そういうと目を閉じ空からシーニにむかって優しい光が注ぎ、光の先から黒髪の顔が整っていてとてもカッコいい天使さんが降りてきた。


 そして、そのままシーニの手を引き空へエスコート!………って!?


「ダメダメダメーーーーーー!」


 わたしは手を激しくばたばたさせながら天使さんを追い払う!


「…っは!わたしはなにを!?」

「思いっきり悟りを開いてました」


 正気に戻ったシーニにマルは冷静に返す。


「なんか今までの楽しかった事が鮮明に脳内を走っていった気がする」

「それ絶対ソーマトーってやつだよ」

「それにしても先輩の農園の果物は凄まじい威力ですね。改めてあれを観て実感しました」

「あれってよくあるの!?」

「はい、五人に一人はああなります」

「まさかの禁断の果実!?」


 シーニは驚くけど、マルは気にせずにリュイさんから切られたリンゴが乗ったお皿を受け取る。


「まあ、ああなるのははじめて食べた人の五人に一人ですけどね」

「初見殺しもいいところだよ」


 マルは口でリンゴをパキッといい音を立てて割り「まあ、そろそろ本題にはいりましょうか」と口をもぐもぐさせながらサクランボを美味しそうに食べているクーをみてリュイさんに目を向ける。


「先輩何か分かりますか?」


 マルの問いかけにリュイさんは少し考え口を開いた。


「魔力の流れが違うみたいだね」


 リュイさんは手をあごに当てながら答える。


「魔力の流れ?」

「どういうこと?」


 わたしとシーニは聞き返す。


「う~ん、どうやって説明すればいいかな~」

「私が説明します」


 マルは口のものをごくんと飲み込みハンカチで口を吹くと話しはじめた。


「私達は日常生活で魔法を使いますよね?魔法を使うには魔力が必要です。そして体には魔力が流れています」


 マルは手元の空いているお皿を手にとり続ける。


「これを私達の体だとするとこの丸いお皿の端をグルグルと魔力が流れているんです」


 マルはお皿を左回転に回す。


「つまり、クーの場合はその魔力の流れが私達と違うって事です」

「どういう風に違うの?」

「私はよくみえないので分かりません」

「ありがとう、ここからはボクが説明するよ。このコの場合は螺旋状に魔力が流れているみたいなんだ」

「らせん状?」

「うん、例えるならこんな感じにくるくると下から上に流れているんだ」


 リュイさんは人差し指をくるくるとまわしそれをみたスミレは「センパイその動きキュートです」という。


「まるで、『吸い上げる』ようにね」

「吸い上げる?」


 わたしたちは首を傾げるとクーも一緒に丸いカラダを横に傾げていた。


「まあ、この件についてはボクよりも彼のほうが詳しいと思うから彼に連絡してみるよ」

「やはりあの方の出番ですか」


 リュイさんの言葉にマルが反応する。


「彼?」

「あの方?」

 わたしとシーニが二人に尋ねる。


「あの方とは私の通うセーラン魔導学園で成績トップで尚且つ魔法の定義について研究している云わば学問の天才といわれる私がとても尊敬している方なんです」

「ついでにセンパイは魔術の天才といわれているわ」

 マルの説明にスミレが付け加えマルは話を続ける。


「ちなみに二人の天才という意味でダブル・ジーニアスと呼ばれていてそれを訳して2G《ツージー》と呼ばれています」

「2Gは初耳かな」


 リュイさんが軽くツッコム。


「まあ、彼にはボクから連絡をしておくよ」

「はい、よろしくお願いいたします」


 マルはリュイさんにペコリと頭を下げる。


「そうだ、みんな飲み物はなにが飲みたいかな」


 リュイさんは席を立つと冷蔵庫からいくつかの紙パックの果物ジュースを取り出すとわたしたちの前におく。


「ここの果物でつくったジュースだよ好きなのをどうぞ」


「お気遣いありがとうございます」

「ありがとうリュイさん」

「じゃあ、わたしはこれを貰うね」


 わたしたちは口々にお礼をいうとそれぞれリンゴジュース、イチゴジュース、オレンジジュースを手にとり飲む。


「う~ん、おいしー♪」

「よし、今度は大丈夫だった」 

「とても新鮮でさっぱりした味わいがしてとても美味しいです」


 わたしたちが感想をいうとリュイさんは嬉しそうにニコリと笑うと隣に座っているスミレにブドウジュースを渡す。


「はい、スミレもよかったらどうぞ」


 リュイさんからジュースを受け取るとスミレはとてもうれしそうな笑顔になる。


「ありがとうございます、一生家宝にします」

「出来れば飲んでほしいな」 

 リュイさんはニコリと微笑み優しい口調で返す。




「今日はありがとうございました」

「ごちそうさまでーす♪」

「またくるね」


 日も暮れてきたので今日は家に帰ることにした。

 農園を出る時にリュイさんが手提げ袋いっぱいに果物をくれた。


「では、私は家があちらなのでここで失礼します」


 リュイさんの農園から十数分ほど歩いたところの商店街の中にある八百屋がマルの家なんだ。


 ちなみにわたしたちがマルって呼ぶのはマルの家の名前が「マル」っていう名前のお店だからなんだ。


「よしっと、じゃあわたしたちもカーミンに帰ろうか」


 シーニは腰の杖を取り空中に円を描いて魔法陣を作りその中から何かを引っ張り出す。


「よいっしょっと…ふう」

「へえーすごい!なにこれ!」

「これはわたしが開発した二人乗り用の空中バイクだよ」

「空中バイクってことは飛ぶの?」

「うん、しかもこれは魔力で動くから環境にも優しいんだよ」

「なるほど魔力の力で飛べば排気ガスが出る恐れもありませんからね。よく考えられています」

「よくわからないけどすごいね!」


 マルはなにかを思い出した顔をして口を開く。


「そういえば最近とある乗り物会社でこれと似たようなのが発売されましたね。それを元に造ったんですか?」

「えっ?造ったもなにもそれを造ったのも考えたのもわたしだよ」

「えっ!?マジですか!?」


 マルはあまりの衝撃発言に目を見開いて驚いた。


「うん、そのときにその会社の偉い人が「未来を変えるすばらしいものを開発してくれてありがとう、これはほんの些細なお礼だよ」ってヒゲを触りながら○億円くれたよ」

「マジデスカ?」

「なんでカタコト?」

「○億円ってすごいの?」

「安いのになっちゃうけどたぶん家が十個ぐらい買えるね」

「ええ!?すごいね!」

「まあ、九割は寄付したけどね」

「家を9個もキフしたの?」

「家は例えの話デス」


 マルはすこしだけカタコトでツッコム。


「じゃあそろそろ行こうか」


 そういうとシーニはバイクに乗りヘルメットをかぶりわたしにもうひとつのヘルメットを渡した。


「アカリ乗って家まで送っていくよ」

「うん、ありがとう」


 わたしは渡されたヘルメットをかぶりバイクの後ろに座る。


「じゃあまたね、マル」

「はい。では何か解ったら会いましょう」

「うん」

「じゃあね」


 わたしはマルに手を振りシーニはバイクを起動させわたしとシーニを乗せたバイクは宙に浮きそのままカーミンまでひとっ飛びした。


  

 十数分ほど飛行を続けてわたしの家が近くなってきたころわたしは下を歩いている少年が目に入った。


「あれってシアンかな?」

「あっ、ほんとだ」


 シーニもシアンに気が付きバイクの高度を下げる。


「おーい!シアーン!」

「ミ~ズキ♪」


 わたしとシーニの声に気付いたのかシアンはこちらを振り返った。


「あっ、アカリとねぇ」


 シーニはバイクをシアンの前に止め、わたしは後ろの席から降りた。


「どうしたの?さんぽの途中?」

「ううん」


 シアンは首を横に振る。


「わかった!ねぇをむかえにきたんだね」

「アカリの家に行こうと思ってた」

「わたしの家?」

「うん」


 今度は首を縦に振る。

 

「何かあったの?」

「これを渡そうと思って」


 そういうとシアンは手に持っていたモノをわたしに渡した。


「これは?」

「…クーの寝どこ」


 それは大きめの虫かごの箱に綿がいっぱい詰めてあってその上にクーがすっぽりはいるぐらいに布で丸いくぼみが作ってあった。


「ピュルーン♪」


 それをみたクーは嬉しそうにくぼみの中にはいる。


「こんなすごいの作ってくれたの!ありがとう、シアン!」

「…ん」


 シアンはすこし嬉しそうに笑ったようにみえた。


「お礼を言うならクウタにもいって」

「クウタってクロロン?」

「ん、クウタと一緒に作った」 


 クウタっていうのはね、わたしやシアンとおなじ学校のクラスメートの緑風空太みどりかぜ くうたくんのことだよ。わたしは彼のことはクロロンって呼んでいるんだ。


「ところでそのクウタくんは?」


 シーニがシアンに聞く。


「びょういん」 

「ビョーイン?」

「何かあったの?」

「今日がびょういんに行く日だからって言ってた」

「そっか、もともとクロロンってカラダが弱いんだったね」 

「心配だね」


「じゃ、渡したから帰る」


 そういうとシアンはわたしに背をむける。


「まって、シアン」


 わたしはシアンを呼び止める。


「帰るならシーニのバイクに乗って帰ったほうがいいよ!すごい気持ちいいから!」

「…?」


 シアンは振り返りわたしたちが乗ってきたバイクをみる。


「アカリ、それだとここで別れることになるけど大丈夫?」

「うん!もう家がみえてるから大丈夫だよ!」


 わたしは少し離れた所に見える赤い屋根の家を指さした。


「そっか、気をつけて帰るんだよ」


 シーニはヘルメットをかぶり直し空中バイクに乗る。


「ミズキこれからねぇと空中デートだよ」

「スーパーよって」

「そうだ、はいシアン、これ」


 わたしはかぶっていたヘルメットを外してシアンに渡す。


「…ん、ありがと」


 シアンはヘルメットをかぶると後ろの席に座った。


「じゃあ、アカリまたね」

「バイバーイ!」

「じゃ」


 シーニは空中バイクを起動させ二人を乗せた空中バイクは宙に浮く。 


「ところでミズキ、なにか食べたいものでもあるの?」

「…みずまんじゅう」


 その会話を最後に二人を乗せた空中バイクは日の暮れる夕空を飛んでいった。



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