第10話 タバコ大好きアラサーおじさん
「おっと、失敬。先ずは自己紹介をしなくては」
「私の名はケイト=マルモス。ここ、メルテスの医療班のリーダーを務めています」
「皆さんからはケイトと呼ばれております。何卒お見知り置きを」
普通の学生を彷彿とさせるような風貌、髪は黒で短髪。髪型は跳ねてるが普通。
そんな彼は右手にカルテを持って草原の様に緩やかな声で俺に声をかける。
「そりゃご丁寧にどうも。そういえばヴルサとリッキーはどこに?」
確かにどこにもいない。
俺はただ、無事なのかどうか。それだけが知りたかった。
それをケイトに問うと
「ふむ、君と一緒にいた人達のことですか」
「彼らは別の場所にいます。ですが今彼らに会わせることは出来ません」
「所長があなたに話があるそうです。彼らには話を終えてから会いに行くと良いでしょう」
と会わせたいのは重々承知だけど今はそういう訳には行かないような顔をして言葉を返す。
「──まあ、色々聞きたいことはあるわな」
ましてやこんなどこから来たかも分からない浮浪者はあちら側からすれば何か有益な情報を持っているかもしれない塊。
話を聞かないのは勿体ないので紅茶を交わしながら話を聞くのは当然のことだ。
まあ、紅茶は交わさなくて結構だが。
「というわけで、僕に付いてきてください。所長室……いえ、あそこだけはダメですね。おそらく秘書のレナさんの部屋なら大丈夫でしょう」
「ご案内します」
彼は所長室で何やら嫌な出来事があったかのような顔をしてアランを秘書のレナ?って人の部屋に案内する。
***
〈廊下を歩きながら談笑する2人〉
「ところでさっき所長室に何かがあるような顔だったけど何かあるのか……?」
「え、ええ……それは……」
ケイトは苦笑しながら話すか迷うが俺がキラキラした目で彼に言いよると「まあ、隠してもどうせバレるからしょうがないですね……言いますか……」と諦めて事実を話す。
「うちの所長、とんでもなくだらし無いんです。毎日タバコ100本以上は吸うし、ジャンクフードばっか食べるしで。多分僕以外の医者が聞いたら青ざめて卒倒するでしょうね」
「タバコ100本……!?スラムにいた大人でも少ししか吸ってなかったぞ!?後もうそれだととっくに死んでてもおかしくないと思うけど!」
俺は酷く困惑する。タバコとジャンクフードは体に良くないものだし、タバコはどんなに重度なユーザーでも20〜30本のラインだろう。それなのに100本。それにジャンクフード。
死んでてもおかしくない。
「ま、まあ一般人だったら既に死んでてもおかしくないですね……。ですが悔しいことにあの所長、ギフトを賜ってるんです」
「ギフト?」
「ええ。この世界では稀に生まれつき異能を持ってる人がいるんです。そしてそれを持ってる人の事はギフターと呼称されます」
「ああ、でも。見たやつの死線を切って殺すとか未来を改変するみたいに明らかにチートっぽいやつでは無いですがね」
「あくまで少し便利、といった所でしょうか。まあ、人によっては凄く便利な物もありますが」
「そして気になる所長のギフトは反転体質」
「反転体質……?」
反転体質。メルテスの所長が持つギフトであるそれは割と類を見ない特殊な物で少し便利というより使いようによっては便利なもの。
そしてその能力は体の状態を反転させる能力とされる。
例えば、ジャンクフードやタバコ等体に悪いとされる物は彼にとっては体の良いものになり、負傷を受けた場合は逆に治癒効果として処理される。
それだけ聞くとチートに思えるが、反転と言うのだから逆の事をしてみるとどうなるのだろうか?
それはもちろん野菜などオートミールなど体に良いものは彼にとっては体に悪いものになり、治癒行為を受けると負傷として処理される。
初見では騙せるだろうがそれを知ってる者については対策をされて終いだ。まあ、メルテスには記憶を覗き見れる奴がいるから敵が知ることはあまり無いだろう。
「……という感じの能力です。ですが能力系はギフト以外にもアビリガンという武器があります」
「……アビリガン?」
アビリガンとは、その武器があることで特別な能力が得られるもの。ギフトは例外を除けば基本的に少し便利程度の能力だが、アビリガンはギフトより使い勝手が良く戦闘によく使われる。
ギフトを持っている人間は稀だが、アビリガンは基本的にどの人間でも使えるようになる可能性を備わっている。
それだけ聞くとアビリガンの方が優秀と思うが、アビリガンとギフトは大きな違いがある。
ギフトはその人間自身が持っているものであって、アビリガンは武器からによるもの。
よって、その武器の心臓部を砕かれれば一時的に能力が使えなくなる。そしてその間に敵に倒されるという事もザラにある。
砕かれてもその武器が二度と使えなくなるというわけではない。自動的に修復される為、時間が経てば使えるようになる。
「それでアビリガンとギフトのランクはSS〜Eで決まります」
「でもギフトは基本的にA+まで。それ以上のランクのギフトを持ってる人はほとんど居ないと思います」
「ほとんど居ないってことはいるには居るってことか?もしそうなら両方ランクSSの奴がいたら最強じゃねぇーか」
「いえ、それは有り得ません。何しろ強制的に修正されるので」
「なんじゃそれ」
彼が言っていることは正しい。アビリガンのランクが高く、それにギフトを持っているとなると必然的にギフトの方のランクは低くなる。
逆にギフトのランクが高ければアビリガンのランクが低くなるという相互関係が存在する。
「じゃあ俺もギフトとかアビリガンとか持ってる
のか?」
「ギフトは持っているかどうかは当人にしか分かりません。ですがアビリガンは自分自身の葛藤を乗り越えることで発現出来ます」
「アビリガンは持っている人であれば誰でも持っているか持っていないか見分けれます」
「なるほど。じゃあ俺はどうなんだ?」
ケイトに俺がアビリガンを持っているのか問うと彼は難しい顔をして言葉を返す。
「言いにくいのですが……、あなたはアビリガンを保有していません。何しろまだ葛藤を乗り越えていない」
「なっ……!?」
てっきり持っていそうな気がしたが、確かに俺には乗り越えてないものが多すぎる。
カレンの事だって正直まだ引きずってる。そんな俺が葛藤を乗り越えただなんて到底言えるはずが無い。
「とはいえ、先程言ったようにこれから発現する事も十分にあるので大丈夫ですよ。あまり落ち込む事ではありません」
「ま、まぁな!」
***
《秘書室のドア前》
二回のノック音が廊下に響き、その後に医者が所長に要件を伝える。
「所長、客人を連れてまいりました」
「よし、入れ」
「失礼いたします」
ドアの向こうから聞こえる声は重々しく、一言で言えばイカつい様な声だった。先程聞いたイメージと真逆……?と思ったが、ドアを開けると聞いた通りだと実感した。何故なら──
「やめろラフカ!髪を引っ張るのh」
「痛い痛い痛い!」
「レナ姉の言うこと聞いてくれたらやめるよ!」
「はいはい聞きますもうタバコも酒も少し控えるから!」
「それでよし!」
部屋に入って目に入ったのは所長らしき人が長髪の幼女に髪を引っ張られてる絵面。
それを見た俺は部屋を間違えたのかとドアを閉めようとする。
「待って待って待って、部屋は間違えてないよ!?」
「あれってほんとに所長?」
「ええ。正真正銘、メルテスのリーダー──」
「グランツ=バルトロイア所長です」
ケイトが所長の名を言うと「ちょっ!?自己紹介を奪わないで!?」と所長が少ししょんぼり。
そして左右に本があり、扉の横には秘書の私物らしき物があるこの部屋の中心のソファに所長は座っている。
その向かいに座れと所長に言われ、俺は遠慮なく座る。
「先程はすまなかった。まさか扉の先に人がいるなんて思ってもいなかったからな」
「大丈夫だっておっさん。こうして生きてんだから」
所長は起立して俺に謝る。そこら辺はきっちりしているようだ。
でも俺はそんなに気にしていない。だから大丈夫だと返す。
「なら良かった。お詫びに今日はご馳走としようかな」
「という事でラフカ、今日の夜はとびっきりのご馳走だ。調理班に準備するよう伝えといてくれ」
「やったぁー!あいあいさー!」
ラフカは飛び上がる程に喜び、猛ダッシュで調理班に伝えに行く。
「ケイトも治療等ありがとうな。ここからは俺と彼との1:1の面談だ。戻っていいぞ」
「いえ。医者として当然のことですので感謝は要りません。では、職務に戻らせていただきます」
ケイトが職務に戻りラフカが調理班に声をかけに言ったのを見計らって所長は俺に話を切り出した。
「さて、アイツらも行ったことだし面談を始めるとするか」
「面談?」
──メルテスには色々な専門班がある。
大きく分けて戦闘班、遠征班、治療班、調理班、機械班の5つ。
メルテスとして所属している以上、このどれかに所属する事になる。
そしてこの面談はその人の個性をふまえてその人が所属する専門班を決める重要な面談という訳だ。
「これは君の所属班を決めるもの。まあ、ラフな感じで答えてくれてok」
「じゃあまずはここに来た経緯を聞こうか」
経緯を聞かれ、俺はここまでの事を赤裸々に話そうとする。故郷でのこと、アスカロンでのこと、ここまでの旅路のこと、そして──ブルーノートの事。
所長は真剣に話を聞いてくれたが"ブルーノート"という単語を出した瞬間、俺の話を止め怖い顔をして質問をして来た
「何故お前が死んだ前所長の名前を知っている?」
「……?」
ブルーバレット 紫蘇くらげ @sisokinoko
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