第5話 不穏の始まり
〈イルウィとアランの独房〉
朝8時。朝のひばりが差し込む
独房から降り注ぐ太陽光は悔しくも俺たちを照らしていた
「クソッ、眩しいんだよ。朝から」
俺はしばらくベッドに身篭った。もうちょい寝たい気分だったからな
「おっはよーー!元気ーーーー!?」
イルウィの声だ。数日間一緒に生活してて分かったことは一度少しでも目を覚ますとイルウィが挨拶してくる
もう少し寝かせろってんだ
「すまね、眠い。もう少し寝かせてくれ」
「眠いのは分かってるけど今日は緊急集会があるからウェイクアップ〜!」
と言って俺の布団を無理矢理に上げる。俺は言っても聞かないような気がしたので諦めて起きた
「あーもう、分かった!分かったから!」
***
〈庭に向かう廊下にて〉
「緊急集会?前に滅多に行われないってツニが言ってたけど何かあったのか?」
「うん!看守からこっそり聞いたんだけど、ここの所長、サンクシンが殺されたんだとか」
「(あいつか……俺の手で殺せればと思ったがここで死ぬとは)」
その後色々話を聞いたが、状況として
・サンクシンの遺体は行方不明
・犯人も不明
との事。
看守を含めて大規模な犯人捜索が始まってるらしくて集会が開かれるのも100パーそれだろう
***
〈広い庭にて〉
「豚ども!緊急の報告がある。黙って聞くように!」
彼は看守長のダリング。食堂に連れていく時にいつもいる人。見た目は太っているのが特徴的で「豚」というのは自分も言えるのでは無いかと囚人の中で突っ込まれている
「昨日、我らが恩師サンクシンが殺された。お前らに容疑をかけてもお前らはサンクシンの私室を知らない。……が、もし何か変な能力を持っているのなら知ることは出来る。よって少なからず容疑者に含むものとする」
事情を知らない周りはザワつく。おそらくこうなるだろうとダリングは「静粛に」と数秒経ってから彼らを黙らす
「しかして、お前らがやったとは考えにくい。身体検査の時に能力検査も兼ねてやったからな」
「だとすれば自ずと看守だろう。だが、残念な事に看守はまだ全員出揃って────」
「もういいっしょ。これは俺らの問題。だから長話しても意味無いと思うけどな」
奥から出てきたのはアランにとっては顔見知りで──
幼少期から共に過してきた人だった
「なっ!?おま、ミヤじゃねぇか!!」
「────お、アランじゃん。元気にしてたか?」
俺は背伸びしてやっとミヤに気付かれて人混みを掻き分けてミヤの元に足を進めてミヤの元にたどり着く
人混みの間から見えたミヤの格好は高級な私服と言えるほどにさっぱりしている(青くて時々白のTシャツ、ジーパン)
「ああ、元気にしてたぜ。随分お偉いさんの様子だが、まさか最初からスパイだったのか?」
俺がタメ口でミヤに話しかけるとそれを見かねたダリングがタメ口を指摘する
「お前ッ!ミヤ様は我らが偉大な副隊長だぞ!豚ごときが敬語を使わぬとは……!」
ため息をつき、ミヤはダリングを抑える
「ダリング、こいつは俺の旧友だ。少しばかり目をつぶってやってくれよ」
「ぐぬぬ……」
少し落ち着いた様だ。ダリングはミヤの部下で命令には逆らえない為バツの悪い顔をして俺を睨む
「悪い悪い、話の続きと行こうぜ。」
「スパイってのはガキの頃からだな。端折るとガキの俺は山で暗殺術習ってお前たちの国に潜んだって感じかな」
「……まじか。所でお前が生きてるってことはウル達も生きてるのか?」
「ああ、それなー。俺は関与してないけどどうだか。少なくともあそこにアイツらの死体は無かったぜ?」
「──それなら良かった。無いという事はどこかに逃げたんだろうな。アイツらの事だから割としぶとく生きてるぜ?多分」
「ハハッ、それは同感」
ミヤは時間を見て「昼飯の時間か」とつぶやきダリングに招集されていた囚人たちを食堂へと連れていくよう看守に説得する
「みんな!昼飯の時間だ!」
「今日は待ちに待ったカレーだからな、早く食いたければ早く集まれよ〜!」
と言うと囚人たちは大盛況。囚人たちが早く、可能な限り早く────と看守たちの元に向かうのに揉まれて咄嗟にイルウィの元へ向かう。
何故こんなに盛り上がってるのかをイルウィに聞くとここの者たちはみなカレーが好きなのだと。
「まあ、カレーってのよく分かんねぇけど絶対美味いってのは分かるぜ」
「うん!美味いから楽しみにしてて〜」
「あ、そういえばリッキーは?」
「下痢☆」
そうしてワクワクしながら食堂に向かう俺たち。道中でツニとヴルサに会うがヴルサは相変わらず不機嫌でツニに事情を聞くと食堂に隠していたプリンを誰かに食べられたらしい。
ヴルサはそんな事話すタイプでは無いのに何故それを聞けるのかと聞くと同じ牢の仲で割と長い付き合いなのだという。
後、見た目がイケメン過ぎて男性と間違えられるが、女子なのだという。
もう一度言う。女子だ。
聞いた時俺はビックリして大声を上げそうになったがツニに止められた
女子監獄と男子監獄は別れているが、ヴルサは容姿のせいで男と間違えられて男子監獄に入れられたのだと言う
ツニが言うには「全く、看守共は私を男だと思ったのか?まあ、女子と関わるのは嫌だからバレるまでいさせてもらうか」と最初は不機嫌だったのだという
ツニとも最初は仲が悪かったが次第に仲良くなっていき、今に至る
食堂に着くと囚人たちは自分でカレーを入れて席につくが次々と人が並ぶので俺たちも負けじと列に入り、カレーを自分の皿によそい4人で座れるような席を探す。
「お!この席良さそうだな」
「いいね!その席にしよう〜!」
「賛成。とっととカレー食おうぜ?」
「まあ、いいんじゃない。」
4人は席に座りそれぞれ「いただきまーす」と言ってカレーを食べ始める。
***
「うまっ!カレーうまっ!!」
「やっぱ美味いよね〜!でも今日の肉は何かいつもと違うけど」
「え?そうなのか?」
「ま!美味いからいいけどさ!」
俺とイルウィはカレーめちゃくちゃうめぇ!とどんどんカレーを口にする。ツニも"今日の肉はいつもと違うけどこれはこれで良さがあって好きだぜ"と言いながら
カレーをほうばり、ヴルサも"ああ、物凄く不味い。二度と食いたくないものだ"とは口で言ってるがパクパク食べてるところを一同突っ込み、周りが笑ってるのに釣られてヴルサもふふっと笑う。
「後プリンもうめーな。1人1個しか貰えないのが残念だけど」
「ほんっっとに!めちゃくちゃ美味しいのにね……」
「ホントだよなぁ!?あーもう1つ食いてぇ」
ツニが食いてぇと嘆いていると料理長のスモがフライパンを叩いて「プリン1個余ってるよ〜!お前らー仲良くジャンケンしな!」と言うも囚人たちが仲良くする筈もなく────。
「うおおおおおおおお!!!!プリンだ!!!!プリンだぜええええええええええ!!」
「うっひょおおおおおおおお!!」
みたいな感じの声が色んなとこから飛び交う。イカつい見た目してる囚人たちがプリンをかけてジャンケンをする光景なんてギャップがありすぎて初見だと"何だこの空間"と困惑するだろう
確実にね……
そしてジャンケン大会のトーナメントが始まって筋肉ムキムキの奴ら、強面の奴ら等も合わさって
アラン達も負けじとジャンケン大会に参加するも猛者が多くアラン以外は敗退し、(何故か)最後の希望はアランに託される。
「いや〜これ絶対勝てるやつ!絶対な!」
と死亡フラグビンビンにさせたまま決勝に向かう。
決勝の相手はマルクという男。容姿は肩までのTシャツに金髪のマッチョという感じだ。
「ハッ、負けてらんねぇ。プリンは俺のもんだ」
とマルクは宣戦布告をし、アランも「上等だ」と返しじゃんけんが始まる。
1回目 あいこ
2回目 あいこ
とあいこが何回も続き試合は白熱する……が
「ハハッ、チョキ!俺の勝ちだぜ〜!!」
マルクはチョキ、俺はパーで負けてしまった。ほんとに悔しい。ほんとに
「んじゃあ、貰うぜ」
目の前でパクってされるアラン。それを見てぐすんと落ち込むが「……ん」とヴルサからプリンが渡される
「ここのプリンは甘すぎる。食いたいなら食べたら?」
「いい勝負を見せてもらった代償にね」
アランはありがとう!!と感謝しすぐにプリンを食べきる
まあ、早すぎてヴルサがドン引きしていたが。
***
「楽しかったぜ、みんな」
「ありがとうね〜リッキーは下痢で物凄く苦しんでたからまた今度呼ぶね 」
「ああ!頼むな!」
「まあ、どっちでも」
***
昼飯を食い終わり、仕事をして夜飯を食い独房に戻りいつもなら雑談をする所……なのだが
「……アラン」
「今から言う話は絶対に誰にも言わないように」
イルウィが真剣そうな顔で話を切り出す。この顔をしている時は本当にシリアスな話をする時だけ。
なのでイルウィが何を話すかは見当も付かなかった。
「どうした?今日は特に変な事は────いや、サンクシンの訃報ぐらいか」
「まさかそれに関わる話か?」
「うん、その遺体の行方についてかな」
「その前に今日のカレーの話から話すよ」
アランは"何故カレー?"と首を傾げていたがイルウィがそういえば肉がどうたらと話していたことを
思い出して、その事についてなのかと聞くとコクリとイルウィは頷く。
「俺は初めてカレー食ったんだけどあれの具が普通の肉じゃなかったら普通の肉とやらも食ってみたかったけどな」
「はは、食べられるといいね」
いつもなら思いっきり笑ってるイルウィだが何故か微笑で済ませてた。彼が微笑で済ませるというのは本当に深刻な問題なのだろうか?
「────少し話が変わるけど昔から諸事情で色んな動物を食べなきゃいけない環境にいてね」
「その環境で牛、豚、鳥、羊とか全ての動物の肉を食べてきたんだ」
「だけど、さっきのカレーの肉はそのどれでもない」
「そしてそのまま消去法で行けばどうなると思う?」
「そんな……まさか……」
俺は次第に青ざめていって心拍が早くなっていき何とか自分を抑えるのに奮闘する……が。
そんな彼を他所に非情にもイルウィは喋るのを続ける
「そう。あれは」
「────サンクシンの肉だ」
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