番外編 ビーフシチューの味〈イルウィ:過去〉
〈独白〉
──嘘をついた
俺は元々ここの住民などではない
立派などこかの兵士だ
だからあいつを怖がらせないように
愚かしい嘘をついた
見た目が女のような振りをしてるのも、女の振りをすれば戦場に行かなくて済むから
──戦場なんてあまりにも惨すぎる
大切な誰かの死、それを受け入れられない自分なんてきっと戦士失格だ
***
〈回想 平和な郊外の一軒家にて〉
「……っと、これでいいわよ」
「ありがとうございます、ですが……」
「うん?」
「いいのです?僕らはあなた方の敵ですよ」
「いいのいいの!でも、約束して」
「もしあなたが目の前で困ってる人がいたら助けて」
「……約束ね」
「はい、救える命であれば」
私は森で瀕死になっていた所を彼女に助けられた
メリュア──私の母国の名
その母国に徴兵されて私は此度もまた戦場に立つ
戦場の名はリユン。リユンの兵士と幾度か
交戦になったが兵士の質も数もあちらが上だった
戦争は戦場に出るまでどうなるか分からない
奇跡なんてもんがあれば死に物狂いで奪い取りたい
しかし、仲間が次々と殺されていく
次はきっと私が殺される
私が死んだ所で腐った貴族共は戦争も知らないところでヘラヘラしているのだろう
────くそったれが。
燃える森の中でハイライトを亡くした目を開け続ける
その中で走馬灯を見る
仲間との楽しい記憶だったり、今はもう居ない家族と過ごした記憶。
「──言い残した事は?」
「ある訳ない。さっさと殺してくれ」
──と
リユンの敵兵がトリガーを引こうとした瞬間、周りが煙に包まれ一匹の馬が颯爽と駆け抜けてきて私を
連れ去った
「ゲホッ……ゲホッ……、何者だ……!」
視界が霞む中、敵兵は縦横無尽に銃を撃つが当たるはずもなく──。
「クソッ!見失ったか……!」
「お前ら!何処にいるか知らんが追え!必ず捕まえよ……!」
敵兵の長が部下に指示を出し、煙幕の中どうすること出来ない為煙が晴れてから創作に入ったが追うはずの彼らの影すらなく、逃がしたという事実だけが残った
そして、気付いたら敵であるはずの誰かの家にいて治療を受けていたという訳だ
彼女はシュナというらしい。見た目は長髪の金髪と碧眼が印象深い
「そういえば、何故煙幕をお持ちに?一般の方に見えますが」
「あれはリヨンの国民に1人1個配られるやつ!敵と出会ったらあの煙幕で逃げろっていうね」
「なるほど……、あれで貴重な煙幕を」
「私には使い道が無かったからね。人助けになるならそれでいい」
何故たまたまそこにいたのかと訊くと
「うちの畑って結構戦場線に近くてさ、その近くで森が燃えてるから何事かって感じで見に行ったらあなたが撃たれる数秒前だったから煙幕を使っちゃった」
との事
***
「……っと!話するのもいいけどお腹空いたでしょ!今日はビーフシチューだから楽しみにしてて!」
「う……うん」
実のところ私はビーフシチューが大の苦手で出来れば食べたくないのだが、それ以外も無いようなのでしょうがなく食べてみる
「う……」
砂糖大さじ7杯ぐらいの甘み、適当に入れまくっただろうブイヨン、それらが合わさって最悪の味を生み出す
仮にビーフシチューが大好きな人であろうと「どうしてこうなった」と形容するだろう
それぐらい酷いビーフシチューだ
「モ、モノスゴクオイシイデス……」
せっかく作ってもらった物に不味いなんて言えない。こうすれば良いだろうというのもあまり言いたくない
「良かった、うちのビーフシチューってば食べた人みんな吐いてるからさ 割と好評だと思うんだよね」
「(いやいやそれ不味くて吐いてるのでは!?)」
***
私はいつまでいていいのかと聞くとシュナが「いたいだけいればいい、戦場に行くのは誰だって怖いでしょ?」と答えてくれたのでその言葉に甘えてここで住むことにした
畑作業を手伝ってもらう代わりに。
ここ数週間騎士団が来ても押し入れに隠れてやりすごしたりして同居生活が2ヶ月経った
彼女はビーフシチューしか作れない為、私はまずいビーフシチューに耐えビーフシチューにも慣れてきた
────そんなある日のこと
〈畑にて〉
その日、私はいつも通り畑作業に出ていた
「やけに今日は暑いな……」
あまりの暑さゆえ、水分が欲しくなった私は水筒を取りに行く
「……ああ、そっか。さっき飲みきったんだった」
「一旦家に戻るか」
そして一旦畑作業を中断し、シュナの家に戻る
だが、いつも通りであればシュナは水なり弁当なりこの時間に持ってくるはずが今日は持ってこない
そのせいか、やけに胸騒ぎがする
「はは、寝坊でもしてるんだ。きっと」
落ち着かない自分を落ち着かせる。無理にでも
無理矢理にでも
「今日もビーフシチューかな。でも最近腕が上がってきてて成長を感じられる」
「──きっと将来は凄い料理人になるんだろうなぁ」
人が失敗しても私は責めない。私も失敗する事があるからだ
人は失敗する生き物。失敗を積み重ねて初めて成功が訪れるのだろう
人に任せる限り完璧は無い。完璧を求めるのなら機械にでも振ればいい
だから、見守っていよう。
***
〈シュナの家〉
「ただいま〜、どうしたんだい?寝坊でも────」
「…………は?」
散らかる家具、銃痕、眉間と心臓と腹部を残忍にも貫かれた──
ティナの体躯。
「何故?」「敵襲か?」「今からでも助ける方法は──」
と頭の中を駆け巡る
「そうだ、とりあえず医者に……!住民に聞けば場所は分かるはず!」
そして靴を履き、ティナを抱いて森を走る
早く、速く、一刻も早くと転けても立ち上がり、街へと。
***
〈洋風の近くの街にて〉
「……んだよこれ」
見渡せば、死体の数々。
子供を抱きながら死んでいる母親の死体や残虐に全身を撃たれている死体、敵であろうが凄惨なものに見えた
しばらくしていると遠方から少しづつ誰かの声が聞こえる
そして咄嗟に物陰にティナの遺体を隠す。
「おーい!もしかしなくてもイルウィか?イルウィだな!」
「この声……ルインか!?」
「それ以外に誰がいるんだよ!にしても生きてて良かった!」
ルインは俺の部隊とは違う部隊の隊員だ。彼が来たということは増援が来たのだろう。
その事実に俺は安堵する
「それはこっちのセリフだバカ……!」
お互いの生存を喜びあって抱けしめ合う
そして抱きしめた彼の隊服には血の匂いが染み込んでいた
「そういえば、森の小屋で少女を殺ったんだが死ぬまでその少女がお前の名前ずっと呼んでたぜ」
「気色悪くて眉間と心臓と腹部撃ったけどよぉ、お前の知り合いだったりする?」
その言葉を聞いた瞬間私は彼を突き放す。心にある感情は、憎悪でもない。復讐心でもない。
所詮彼女は敵だった。助けてもらったとはいえ敵は敵だ
敵を殺すのが戦争のルール。
それに則れば我々が彼女を殺すことは「悪」ではない
…………が
「──────まさか、お前が」
絶望しきった顔をする。復讐心を必死に抑えて、憎悪を最大に振った感情をルインに向ける
「どうしたどうした、そんな怖い顔して」
「あいつは敵なんだろう?だったら敵を殺すのは当たり前じゃないか」
「……ッ!」
母国に反逆したら俺は敵とみなされるだろう。敵の味方をするのは敵になるということ
だから、ここであいつに歯向かうのはお門違いだ
黙るしか選択肢は無い。
「ああ、そうだったな。敵は殺さなきゃ」
憎悪を引っ括めて必死に取り繕った笑顔で誤魔化す。そしてこの憎悪は後で流そうと心の中で決心した
「俺は少し用事があるからまた後で合流するよ」
そして涙を隠してその場を去りティナの元へ戻り、再び涙を流した
「はは……はは……あはははは!」
「もう少し早く着いていれば!家に残っていれば!」
「きっと救えたかもしれないのに、俺は──俺は……!」
地面を叩く。そんな事をしても生き返らないのは分かっているのに。
赤子の様に泣きじゃくる。そんな事をしても悔しさは晴れないのに。
「どうせ医者は全員殺されてる」
「もう……いいや。家に戻ろう」
私は彼女を抱えて家に戻る。その道中の足並みは精神的に重く、跪きそうだった
それでも、私は彼女の遺体を抱えて歩く。
***
「……ただいま。ってもう誰もいないか」
俺はキッチンに向かい大量に残ってて冷めきっているビーフシチューをお皿によそって机に向かう
「今日もアイツらが来なければまた一緒に食べれたのかな」
冷めきっている為、もちろん美味しさは劣る。今までで一番まずい。
なのに。なのに──────
「────今まで食べてきた中で一番美味しいよ」
食べ進める手が止まらない。不味いと感じているのに
分かってるはずなのに──
そして泣きじゃくりながら「ありがとう」と感謝を伝える。それと同時に世界に彼女だけのこの料理も人知れず消えていく喪失感を覚える
食べ終わった俺は皿洗いをして仲間が来るまでティナの家で待っていた
しかし、いつまで経っても仲間が来ない。ルインは必ず迎えに来るので反撃されておそらく死んだのだろう。
仲間とはいえざまーみろ。
***
そうして家に引きこもって2ヶ月後、彼らは来た
「よお、初めましてだが死んでくれるかい?」
「ああ、殺せ。未練なんてこれっぽっちも──」
「待て。こいつは殺すのでは面白くない生かしておけ。例の牢獄にでもぶち込んでな」
「はっ!サンクシン隊長!」
というわけでアスカロンにぶち込まれた。アスカロンでは労働で少し賃金が貰えるのでその賃金を貯め、美容室で女っぽい格好にしてもらった
……ティナを忘れないように
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