第50話 伝説の竜その事実

『なんかよーわからんが、残ったやつは、特に何かしよーってんじゃない感じだな? うんうん。で、何が起こったか。説明!!』


 竜? が突然口を出してきました。

 どうやら事態が少し収束するまで良い子で待っていたようです。

 賢い。

 何歳生きているかわからない対象に使って良い言葉かわかりませんが、そんなことが頭に浮かびました。

 誰も口を開かず、また私が一番近くにいたので、なるべく簡潔にけれど話がわかるように、竜に向けて知る限りのこの場で起こったことを話して聞かせました。


『ふんふん、邪竜とやらがいてその封印を解くために皇子様がねー。ご愁傷様だわ、ってか邪竜って俺?! 俺な訳??』

「はい、伝承ではそうなっていまし、た?」

『人の子めんどい! 隔世するとそんなに話変わっちゃうの?! 俺ってば単純に血とか争いごと嫌いだから、人の家の上でどんぱちやってくれるなよって、釘刺しただけなのに!!』

「えっ?!」

『つかまじどーなってんの? ハンスヴァン!』

「僕に言わないでくれるかな〜? 不干渉って前にも言ったじゃない」


 竜が医務の先生に突然話しかけ、また先生も竜と仲良さげに返事を返しています。

 その場の誰もがきっとこう思いました。




 なんの話? と。




『不干渉ったって限度があるだろーよ?!』

「だってしょうがないじゃない〜。皇族まではマークできないってば。今の僕ってしがない学校の医務の先生だからね?」

『っだーっ! 何で中枢に食い込んどかないんだよ!』

「それなら君だって寝こけてないで、顕現してシンパでも作っておけば良かったじゃない」


 大人の、大人気ない応酬が聞こえてきます。


「えっと、邪竜さん?」

『違う!! あー、っと。俺はただの竜だ、名はムートルディ、トルディでいい。この国の建国前から生きてる』

「トルディ様」

『様もいらねーけどま、いっか。ちなみにあいつは大魔法使い様、だ。伝説の英雄の大親友な』


 トルディ様はふよふよパタパタその場で飛び浮かびつつ、先生の方を指さします。

 指、ちいちゃくて可愛いです。


 そんな余計なことを考えていたからか皆さんの反応から一拍遅れてしまいました。


「「「「「え?!!」」」」」


 声を出した方、とはいえその場の大勢でしたから見渡してみると、陛下とレイドリークス様はその場に硬直したまま唖然としています。

 英雄。

 この存在は誰もが知っています。

 その大親友、ということはもしかして実は先生って凄い方なのでは?

 私もびっくりして、先生の方を見ました。


「も〜、勝手にバラさないでくれる? これだけのことが起こったから仕方ないとはいえ、秘密にしときたかったのに」

『俺が起こされちまったんだから、一蓮托生、だろ。それにお前には俺への説明責任があると思うけど?』

「え〜面倒くさい」

『俺だって面倒だ! けど、しょうがないだろ、人間が作るもんが俺は好きだ。文明は存続させたい修正しろ』

「僕だって、わざわざ子孫を失うようなことはしたくない。ただ僕もおおよそはわかってるつもりだけど、あってるかはわからないよ?」

『いい、話せ』


 先生は、やれやれ、といった風に肩をすくめた後、片手で髪をかき上げため息をつきます。

 そしてゆっくりと、話し始めました。


「恐らくだけど、宰相を主体とした国家転覆が目論まれていた。それを可能と思わせてしまったのは、変質してしまった伝説、かな? 聞く分には興味深かったからほっといたんだけど……まさか悪用されるとは思ってなかったよ。そこの竜は伝説の中の存在で間違いない、邪竜じゃないけどね」

『それじゃ説明が足りてねーだろが。はぁっ。……そもそも、この土地は魔獣の住処だった。俺は承知でここに住み着いてて、バカンスにやって来たのがこいつと勇者だ。土地の者もいて、やがて滅亡する運命っぽかったけどそんなかの巫女に惚れた腫れたで、勇者が魔獣一掃しちまった。んで、その子と一緒に暮らしたいっつーから、そこな大親友様が、魔法でチョチョイと土地ごと質を変えちまった。てのが伝説の発端だったか?』

「なんか微妙に黒歴史っぽい話し方されてるって感じてるんだけど?」

『あってるから気にすんな。お前だって聖女といい仲になったからって張り切ってたじゃん』

「横恋慕してたやつに言われたくない。って話それてるじゃないか」


 少し気まずかったのか、先生、もとい大魔法使いのその人が一旦話を区切ります。


「ここまでで質問がある人は? ……ないなら話を進めるよ。この土地を豊かに変えたのは確かに僕だ。ルルーシアは僕の子孫。赤茶の瞳は聖女……リリアのもの。僕は彼女が天に召された時竜と共に一旦眠りについたから、その後の何百年でこの国に何がおこったのかは詳しくは知らないよ。たまにそいつと一緒に起きて、世界を見て回ってはいたけどね」

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