第47話 携帯食料なんです
翌日は久しぶりに快晴となり、気持ちの良い初夏前の風がふいています。
私は弟と学校へ行くと授業を受け、お昼ご飯はカシューとララと食堂でとることにしました。
「ルルが回復して良かったですわ。聞いた時には私心臓が止まるかと思いましたもの」
「ご心配おかけしました。この通りだいぶ元気になったので、今度また愛読書を貸してくださいね」
「本当にルルは本が好きですのね」
そうなんです、と返しながら私達は食堂の注文口へと並びました。
ちょうどその時。
「あ、ルルだ」
パタパタと足音を立てながら私の後ろに並んだのは、レイドリークス様でした。
「昨日ぶりだね、会えて嬉しいよ。今日はみんなで食堂かい?」
「こんにちは、殿下。はい、今日はたまには食堂でとなりまして。殿下もですか?」
「ガリューシュに振られてね。一人じゃ味気ないなと思ったから……ここなら誰かしらいるだろう?」
「ですね」
彼と話しながらも列は進み、食事を受け取るとカシュー達と一緒に席を探してつきます。
と、レイドリークス様もついてきて、向かいの席へと食事のトレイを一時置きすると、私たちに相席が良いか尋ねてきました。
カシューが了承します。
嬉しそうな顔を見ると、もしかして私と一緒したかったのでしょうか、なんて自惚れたことを思ってみたりして、慌ててその考えを打ち消しました。
祈りを捧げて、食事が始まります。
今日のメニューはスープとお肉、それとパンです。
私はまずスープに口をつけ……たところで異変を感じ、慌てて身を乗り出すと彼の食事の乗ったトレイを私の方へと引き寄せました。
そして小声でレイドリークス様へ手短に用件を告げます。
「護衛の方に
「!! わかった。ヒェンブル、頼めるか」
「御意」
彼が護衛の方に頼むと、速やかに食事は下げられていきました。
ホッと胸を撫で下ろします。
おそらく何がしかが混入されていました、死んでも、構わないくらいの量を。
殿下のものについてはわかりませんが、念には念を入れても良すぎるくらいの状況なので、下げて正解と思っておきます。
ただ、食事……どうしましょう。
「殿下、お食事、どうしましょう?……携帯食料しか、手持ちがありません」
「携帯食料? それはどういったものなんだい」
「小麦粉と卵を主に、その他色々体にいいものが入った、硬い焼き菓子のようなものです。……おすすめは、しませんけど」
「興味があるから、それをもらっても?」
言い出しっぺなのに、いる、と言われて私の方が驚きます。
が、言った手前渡さないわけにもいかず懐にしまっていたそれをひとかけさせ自身で口に含んだ後、残りを彼に渡します。
「味の保証は、致しませんので」
「わかった」
一人、別のものを食べさせるわけにもいかないので、私も同じ物を懐から出し、食べることにしました。
今日は久々の食堂の食事とあって、楽しみにしていたのにがっかりです。
少ししょんぼりしながら、携帯食料を
「わたくしが千切って食べ済みですから、安心してどうぞ?」
「私も。二人で仲良くどうぞ」
「良いんですか? ありがとうございます」
私は感謝しながら、さらに半分個ずつに分けて、レイドリークス様と私の分にするとパンの乗ったお皿を彼の方へと押しやりました。
わけながら食べるパン、美味しいです。
しかも今日は調理パンでした、中にごろっとお肉とお野菜が入っていて……とっても、美味しいです!
見ると彼も二人に感謝を伝えながら、調理パンを頬張って、目をまん丸にしています。
ふふふ、お口にあったようで良かったです。
そうして、ちょっとした事件を孕みながらも和やかに、その日の昼食は終わったのでした。
【いいね】
2件
------------------------- 第76部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
75. 馬で駆けるんです
【本文】
カツン、コツン
薄暗い中を、手に持った明かりひとつで、下へ下へと向かう男女がいた。
「ここに、本当にありますの?」
「ああ、我が家にだけ伝わる口伝だ、間違いない。ほら…………」
石造りの階段を降り切った先には、広い空間が広がっている。
その床には、何かの血だろうか、茶色く変色した線が何かの模様を成しているようだが、手元の明かりだけではその全てを知ることはできなかった。
「もう少し進んでみても宜しくて?」
女は尋ねつつも、否を言わせないために手をその腕に絡めながら、足を進める。
そうして目的の場所へ着くなり、隠し持っていたもので思いっきり男の首を掻き切った。
「……これで、私の望みは叶うわ」
少しして、ドオオオオオオオォン!! という音と共に女の姿は消えたかのようだった。
時間は少し巻き戻り。
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